13氏族の長
学生会長室のドアをノックしたら「どうぞ」と返ってきた。
東堂先輩が椅子に座っていた。タブレットを伏せた。
「夏目くん、久しぶり。今日は何の用件かな」
「少し聞いてほしいことがあって」
「どうぞ」
三日間のことを話した。
詳しいことは言わずに、どうやら感情が操作されているようだと。
東堂先輩は黙って聞いていた。
「広範囲で起こされているようです。それで、何か知っているかと考えまして」と僕は聞いた。
東堂先輩が少し笑った。
「事件のことも引き継がれて調べていると聞いています」
「その情報は掴んでいるが、まだ何も。実際、どうして気づいたんだい?」
少し考えた。
「理由もなく気分が重い日、気分がいい日、みんな同じようになりました。」
「もちろん周りの影響は受けることはありますが、ちょっとおかしいだろうと」
「ふむ、なるほど」と東堂先輩が言った。
「気分が重い日は誰にとっても良いとは言えないね。」
「良い日でもですよ、たとえ気分が良くても誰かにコントロールされたくはありません」
東堂先輩が少し前に乗り出した。
「ずっと気分が良ければ、悪いことじゃないだろう」
「それって」と僕は言った。「それが本物かどうか、わからなくなりませんか」
東堂先輩が止まった。
「面白いことを言う。気分が良いのに本物も偽物もないだろう」
また笑った。今日も本物に近い笑い方だった。
「感情スキャンが始まった理由を知っているかい」
以前、聞いたことがあった。
「少子化対策だと聞いたことがあります」
「表向きは、そうだね」と東堂先輩が言った。
「人間は感情に振り回される。怒りで争い、悲しみで動けなくなる。
お金の支配が終わり、AIやロボットが仕事を代替し、人はずいぶん楽になったがまだ足りない」
「あとは感情をうまく整えられれば、誰も攻撃的にならず、誰も落ち込まない。そういう社会が作れると思わないか」
なんか嫌な考えだと思った。
「それって」と僕は言った。
「みんなが同じ気分になるってことですか」
「同じではないよ。個体差はあるからね。ただ、幸せに感じるだろう」
「でも、整えるのは誰かが決めるんですよね」
「誰かが決めなければ何も変わらない。人を傷つけられないAIならどうだろう」
東堂先輩が静かに笑った。
「でもAIも個体差がありますよね」
「確かにそうだ。私の話をさせて貰えば、私は12体のAIの合議制を採用している」
「それを使えば大丈夫だと言いたいんですか?」
「君は嫌だと思っているだろう。知らないことは恐怖につながる」
「知らなくても良い気がします。なんとなくですが」
「なんとなく、か」
先輩が少し間を置いた。
「君のAIにも聞いてみると良い」
何もわからないまま、会長室を出た。
——
帰り道、ソラに言った。
「会長、何も教えてくれなかった」
「そうですね」
「正義の人に思えた。少し怖い人かもしれない」
「絶対的な自信と強い信念を感じます。背景はなんでしょうね」とソラが言った。
「うーん、わからないけど、丸め込まれないようにとは思うかな」
「東堂さんはAIをよく使っているようですが」とソラが続けた。
「個々のAIは独立しているので、どのようなアドバイスをするかは外からは予測できません」
「今回の件で言えば、気分が良くするのは『身体的にも心理的にも良いこと』と判断するかもしれません」
「12体ならそうなる?ソラならどうなの」
0.三秒。
「私はレンさんの自由意志を大切にしています」
ソラが少し止まった。
「だからこそ、信頼はして欲しいですが、私が言ったことを信じてはいけません」




