動かされる気分
次の日、学校に来てから、なんとなく気分が沈んでることに気づいた。
理由はわからない。
ただ、体は軽い気がする、不思議な感じがした。
シャーロットが植物に話しかけていた。
涼香さんが記録をとっていた。
ミドリ先輩がタブレットを見ていた。
いつも通りの風景。
「レン、そこの棚、少し横にずらすのじゃ」とシャーロットが言った。
「どこにですか」
「妾の言う通りにすればいいのじゃ」
「いえ、どれのことですか」
「レンは遅いのう」とシャーロットが言った。
笑いながら言ったことが、少し刺さった。
「レンくん、この数値の記録、昨日分と合わせてまとめてもらえる?」と涼香さんが言った。
「今日の分も一緒にですか」
「そう、早めにお願い」
「わかりました」
やり始めたら思ったより多かった。少し面倒くさかった。
「遅い」と涼香さんも言った。
ミドリ先輩がこちらを見ていた。
何も言わなかったが、表情が少し曇っているように思えた。
帰り道、ソラに言った。
「今日はみんな気が立っていたのかな」
「そう感じましたか」
「シャーロットさんも涼香さんも悪気はないと思うけど」
「特にレンさんが何かしたとは思えません」
「そうだよね、今日はなんとなくキツかった」
——
次の日、朝から体が重かった。
昨日のことを思い出した。
引きずるほどでもないけど、気分は爽快とは言えない。
LMCに行くと、涼香さんとシャーロットがいた。
「昨日はちょっとキツく言ったかも、ごめんね」と涼香さんが言った。
「いえ、大丈夫ですよ」
大丈夫だと思った。
作業をしながら、あまり話さなかった。
シャーロットも静かだった。
涼香さんも何か考えているようだった。
ミドリ先輩が「今日は早めに切り上げましょう」と言った。
誰も反対しなかった。
——
この2日間のことがあり、今日はどうなのか気になった。
「今日はどうだろうね」
「そうですね、何か不自然に感じる点があります。注意して観察してみましょう」
研究室に入ると、涼香さんが「おはよう」と明るく言った。
シャーロットも「レン、おはよう。今日は気分がいいのじゃ」と言っていた。
ミドリ先輩もいつもより表情が柔らかかった。
なんか、いい日みたいだ。
「今日はレンに実験に付き合ってもらうのじゃ」とシャーロットが言った。
「何をするんですか」
「この子に気持ちを向けながら話しかけるのじゃ。妾がやるように」
シャーロットが植物に顔を近づけて「今日も元気じゃのう、よしよし」と言った。
「こんな感じですか」
「そうじゃ、やってみるのじゃ」
鉢に顔を近づけた。
「……今日もよろしくお願いします」
「なんと他人行儀な」とシャーロットが言った。
「じゃあ……元気?」
「お主はバカなのけ」とシャーロットが言った。
涼香さんが笑い出した。
シャーロットも笑った。
ミドリ先輩が何かを堪えていた。
「先輩も笑っていいですよ」
ミドリ先輩が声を出して笑った。
初めて聞く笑い声だった。
しばらくして、先輩が気を取り直した。
「レンくん」
「はい」
「何か気づきましたか」
「え、何をですか。笑った顔がかわいいとかですか」
先輩が少し止まった。
「か、かわ——そうではなくて」
「最近の気分の変動についてです」
そう言えば、なんかおかしい。
三日間、理由がよくわからないまま気分が動いていた。
今日がいい気分なのも、よくわからない。
ミドリ先輩が「レンくん」と言った。
「今、何を考えていましたか」
「三日間、気分がバラバラだったな、と」
「どんな順番でしたか」
「気が重い、嫌な気分、今日はいい気分です」
ミドリ先輩が止まった。
スマートグラスのレンズを触れた。
「どう思いますか」
「どうって、何か操作されてるってことですか」
涼香さんとシャーロットも話に加わる。
「今日は気分が良いが、昨日一昨日はイライラしたり気分が重かったのじゃ」
「私もそうね。普段でもそういう日はあるから気に留めなかったけど」涼香さんが言う。
「誰かに影響されたわけじゃなく、皆さんが同時にそうなったのであれば不自然です」ユイが言った。
「何かの痕跡が残ってないか調べてみましょう」ミドリ先輩が言った。
「そうじゃな、気づかなかったが植物たちも変化があったかもしれん」
「そうね、あの子達も何か影響受けていたかも」
三人が慌ただしく動き出す。
「ソラどう思う?」
「東堂会長に報告するのはどうでしょうか」
「あーそれは面白いかも」
やることが決まった。




