考えるな感じろ
涼香たちのラボに来るのが当たり前になってきた。
植物たちも慣れてきたのか、最近は入ってくると少しだけ葉が動く気がする。
気のせいかもしれない。
「今日は波長の測定をしましょう」と涼香さんが言った。
ホワイトボードには昨日からの続きが書いてあった。
数値とイメージの対応表。まだ空欄が多い。
「レンくん、この子に気持ちを向けてみて」
「これですか」
「そう、優しくね」
鉢を見る。元気そうに見える。
「優しくってどんな感じですか」
「落ち着く感じとか癒される感じはある?」
「まぁ、ありますね」
「あるならその感覚を出してる自分と植物に感謝するの」
シャーロットが何か言った。「妾は毎日感謝で溢れておるぞ」ソラが教えてくれる。
最近は意訳にも慣れてしまった。
「それはどんな感じですか」
「そうじゃな、食事の前とかにも神の恵に感謝するじゃろ」とシャーロットが言った。
「そんな感じじゃ。わかるかのぅ」
「いえ、わかりません」
「優しい気持ちを出した自分、それを引き出してくれたこの子達に感謝するのじゃ」
「それならなんとなくわかります」
「お主は筋がええのう」シャーロットに軽く肩を叩かれた。
気楽でいい距離感だなと思えた。
「それで反応するんですか」
「うん、数値は変わるよ」と涼香さんが言った。
「まだ意味が掴めないけど」
ミドリ先輩がタブレットで数値を見ていた。
「波長のパターンが数種類あります」と先輩が言った。
「Aが高周波、Bが中周波、Cが低周波。そこからさら3系統。」
「今は落ち着いているとき、だと思います。ただ」
先輩が少し首を傾けた。
「レンくんが来てからAが増えた」
「え、それ僕のせいですか」
「せいと言うか、原因はわかりません。ただ相関はありそうです」
涼香さんが「うちの子たちレンくん好きなのかも」と笑った。
シャーロットが何か言った。
「シャーロットさんは、好意的な波長を出している人間の近くにいると植物も活性化するのではないかと言っています」
「急に普通に訳しても。好意的って、何に対してですか」
「ここの空間に対して、じゃないですか」
全員が少し黙った。
「まだ仮説です」とミドリ先輩が言った。「でも面白いね」と涼香さんが言った。
「そうですね」
ミドリ先輩がまたタブレットを見た。
レンの方は見なかった。
「引き続き記録します」
——
昼過ぎ、涼香さんとシャーロットが植物に水をやっていた。
「レンくんも手伝って」と涼香さんが言った。
「どうやって」
「この子は欲しいのかいらないのか。いるならどれくらいなのか、葉水だけでいいのか」
涼香さんが一株ずつ説明してくれた。
名前はまだ全部覚えられていなかった。
「覚えなくていいよ」と涼香さんが笑った。
「感じればいいから」
「感じる?」
「渇いてたら教えてくれるから」
シャーロットが「It's true」と言った。
「本当に伝わってくるんですか」
「なんとなく」と涼香さんが言った。「レンくんはわかるんじゃないかな」
なんとなく。
「私にはわからないものです」ソラが言った。
自分が一番使う言葉を、涼香さんに返された。ソラにはないもの。
「そうかもしれないですね」と僕は言った。
ミドリ先輩が窓際で記録をつけていた。
こちらを見ていなかった。
でもなんとなく、観ているような気がした。




