ロンリーの戦い
「レン、ちょうどよかった」
廊下の真ん中でハジメが仁王立ちしていた。
待ち伏せ?
「瑞稀さんを食事に誘ったんだよ」
「それで?」
「OKもらった」
ハジメが満面の笑みだった。
トッポが「勇気が結果に結びつきましたね、桐嶋さん」と言った。
ハジメが「だよな」と頷いた。
「良かったね、じゃあ」
道を塞ぐハジメ。
「ただ条件があって」とハジメが言った。
「複数人で行こうって。その方が楽しいからって」
「うん」
「レンも来い。あと誰がいいかな、ミドリ先輩とか——」
「最近ちょっと忙しくて、行けないかもしれない」と僕は言った。
ソラがハジメに向かって「桐嶋さん、レンさんが都合がつきそうなら連絡します」と伝えた。
「レン、頼む。共通の知人はお前だけだ」
「期待しないで」
ハジメが「ありがとう」と笑って歩いていった。
いつもより素直に引き下がって、どこかへ歩いて行った。
「ソラ、トッポに伝えて」
「何をですか」
「お前はハジメをどうしたいんだって」
「了解しました」とソラが言った。
「ソラ、僕はトッポが良くないと思い始めてる」
「はい、ただ敵対はしないように。レンさんがハジメさんの敵にされます」
——
閉鎖中の研究室は理学棟の三階にあった。
電気がついていない。
窓から光が入っているだけだった。
大輔がすでに来ていた。
「場所、ここでよかったですか」
「ああ、助かる」と大輔が言った。「誰にも気づかれたくなかったから」
「東堂が、うちの親父たちに接触してる」
大輔が窓の外を見ながら言った。
「ERAの幹部たちに、ということですか」
「そう。親父たちはずっと探してたんだ。自分たちの存在価値を示せるものを」
しばらく黙った。
「感情スキャンに興味を持ったと聞いた時、不思議だった。学歴や知識を誇りたい人間が、なぜ感情の話をするのか」
「だから接触してみたんですか、僕たちに」
「そう」と大輔が言った。
「君はそんな感じだし、ミドリさんは何か企むようにも見えない。普通に研究してる人たちだった」
「それで東堂はどういうつもりだと思いますか」
「わからない。あいつは本当に何を考えているのかわからない。」
「どこにでも顔を出すし、賢くて正しそうなことしか言わない。だから余計に読めない」
東堂先輩の「感情をデータにできる時代に、まだ勘で動く人がいるのが不思議でね」という声が頭の中で響いた。
「一つ頼みがある」と大輔が言った。
「ERAに忍び込んで調べてみようと思う。あそこはAIを目の仇にしてるからセキュリティが甘い。東堂にも近づいてみる」
「危なくないですか」
「ERAについてはたぶん大丈夫だ、勝手も知ってる。東堂はなんとも言えない」
あまり根拠がなさそうな話だ。
「わかったことはすべて伝える。その代わり、何か気づいたことがあったら教えてほしい。頼める奴が、俺には誰もいない」
大輔が少し笑った。自虐的な笑い方だった。
「ロンリーってあだ名、よく言えてるよな」
知ってるんだ、手伝いたくなってきた。
「一緒に行きましょうか」と僕は言った。
大輔が少し止まった。
「……今回は一人で行く。現状は親子の問題だ、他人を巻き込めない」
「わかりました」
大輔が立ち上がった。
「ありがとう」
廊下に出たところでドアが閉まった。
——
僕はどうするべきか。
ソラに頼るのも違うと思った、ハジメを見たからじゃないと思いたい。




