橙色の距離
次の日、自然と涼香の研究室にきた。
二日目なのに、なんとなく落ち着く気がしてきた。
「今日は意識の話をしましょうか」と涼香さんが言った。
シャーロットがホワイトボードにイラストを描き始めた。
植物と植物の間に矢印が走っている、人との間にも。
「距離は関係ないって言ってましたよね」と僕は聞いた。
「そうね」と涼香さんが言った。
「人同士が集合意識で繋がっているのはわかってるけど、実際はすべてのものが繋がっているみたいなの」
「すべてですか」 涼香さんが少し前のめりになった。
「そう、ただ人以外は概念が違いすぎて認識できないと考えているわ」
「イメージ情報は受け取っている。でも概念が違いすぎて、何を伝えているのかがわからない」
「伝わってるのに解読できない」
「そう、そこがわかれば感情スキャンにも応用できるかも」 涼香さんの目が光った。
「それすごくないですか」と僕は言った。
「でしょ」と涼香さんが言った。
声が一段高くなる。
シャーロットが英語で何か言った。
ソラが訳した。
「シャーロットさんは、すべては振動じゃと言っています」
「つまりどう言うこと?」
「人はいろんなものと共振できるってこと」と涼香さんが続けた。
「感情スキャンって数値で出るけど、数値がわからなくても人って繋がれるじゃないですか。むしろ数値がわからない方が——」 涼香さんがミドリ先輩を見た。
そういえば静かだ。
ミドリ先輩はホワイトボードの端を見ていた。
「ねえレンくん」と涼香さんが言った。
「植物の観察、手伝ってくれない?毎日同じ時間に来て記録するだけでいいんだけど」
「いいですよ、ぜひお願いします」と僕は言った。
「本当に?嬉しい」 ミドリ先輩が僕を見た。
何か言いかけた。でも何も言わなかった。
ユイが「よろしくお願いします」と言った。
涼香さんが小さく笑って、何も言わなかった。
—— 帰り道、ソラに聞いた。
「ミドリ先輩何か言いたかったのかな」
「さあ」
「いや、さあじゃなくて」
「さあ、です」0.三秒。
「でもレンさん、涼香さんの話を聞いているときの声、いつもと違いましたよ」
「うん、楽しかったよ」
「まあ」 まあ言われた。
「あと、大輔さんから連絡ありました」
「早く言ってよ」
「優先順位の関係です」
「あとで日程を決めてください」
「行くことは決定なんだ」
「はい、優先順位の関係です」
空が橙色だった。




