どんな時も優しい婚約者がいたのですが、その優しさは私だけに向けられたものではなかったようです。~裏でこそこそするのはどうかと思いますよ~
婚約者エルサールスはどんな時も優しい人だった。
視線が合えば微笑みかけてくれ、顔を合わせる時があれば温かな言葉をかけてくれ、めでたいことがあればちょっとしたことであってもお祝いをしてくれたり贈り物をくれたりしていた。
物や金を惜しむことなく関わってくれ、しかしそういったものだけで安易に気を引こうとするのでもなく、真っ直ぐな心で向き合ってくれる――そんな彼のことが好きだった、のだけれど。
「これ、受け取ってよ」
「いいの? ありがとぅ! うふふ、やったぁ!」
ある時知ってしまった。
彼が抱える大きな秘密を。
……そう、彼は、私ではない女性に対しても同じようなことをしていたのだ。
さすがに誰にでもというわけではないようだが。学生時代の後輩だという女性ナーナにも私に対してと同じように思いやりたっぷりに接しているようで。単なる先輩後輩を超えた関係を密かに築いていたようだ。
「ナーナは本当に可愛いね」
「そんなことぉ、言ってていいのぅ? 婚約者さんがいるのにぃ」
「いいんだよ。本音だから。一人のことしか褒めてはいけないなんて、そんな決まりはないよ」
「そういうものぅ? ま、それならいっかぁ。エルサールス、いつも褒めてくれてありがとぉ! とってもとっても嬉しいよぅ!」
エルサールスに私以外の女性がいたことを知りショックを受けるも、何とか冷静さを失わないよう心がけ、後ほど改めてそのことについて話し合おうと考えていたのだが――数日後、エルサールスは、ナーナと二人でのお出掛け中に事故に遭い落命した。
馬車に乗っている最中の事故。しかも数台が絡んでの事故だったため、大きくニュースになった。
結果、エルサールスの悪しき行いが世に出ることとなる。
婚約者がいるにも関わらず学生時代の後輩である女性と二人きりで馬車に乗って出掛けていた、という事実は、この一件によって、誰も想像しなかった形で明るみに出て。
そして、それによって、エルサールスの親族は恥を掻くこととなった。
その後私と彼の婚約は破棄とするといった話し合いが行われ、エルサールスの両親からは息子の行いについての謝罪を受けることができた。
人間、生きていれば勝ち、みたいなところはあるものだろう。
裏でこそこそやっていたエルサールスとナーナはこの世を去り、私だけが生き残った――それはある意味定めだったのかもしれない。
悪いことをしていた者は命を落とし、巻き込まれていただけの罪なき者は特に何もなく普通の今日を生きている。そう考えると、もしかしたらこの世界には神様というものが存在するのかもしれないとも思えてくるのだ。神様、という言葉が相応しいかどうかは分からないけれど。少なくとも、何者かは人の行いを見ていて、その行いに似合った結末を与えるのだろう。
◆
エルサールスらが亡くなった事故から三年ほどが経った。
私は今、国の漁師を管理している男性と結婚し、その仕事をたまに手伝いながら穏やかに暮らしている。
夫となってくれたその人はユーモアたっぷりな人。それゆえ日頃は少々軽く見えるが、浮気は一切せず、圧倒的な一途さを持った人物である。そして、何かが起こった際にはとても頼もしくもなる。
そんな彼とだから、きっと、この先何があっても大丈夫だと思えている。
彼がいてくれるなら、嵐だって怖くはない。
共に支え合い生きていく。
◆終わり◆




