私、エリーは、婚約破棄されても真っ直ぐ進んでゆくつもりです!〜まったりできる幸せを大切にしたいです〜
「おはよう、エリー」
「おはようございます」
婚約者アッサンが珍しく自ら挨拶してきて、こんなこともあるものなのだなと思っていたら。
「君との婚約、破棄とさせてもらう」
次の瞬間、そんな言葉を放ってきた。
「え……っと、その……それは一体どういう?」
「そのままの意味だ」
「そうではなくてですね、理由を聞いているのですけど……」
「だ! か! ら! そのままの意味ィッ!!」
いやいやおかしいだろう。私が聞きたいのは、婚約を破棄する、というところではない。婚約破棄の理由だ。そこについての説明はまったくされていないのに彼はそのままの意味だと言うのだから、おかしな話としか言いようがない。明らかに勘違いが起きている。
何とかまともに話をしようとするのだけれど。
「婚約破棄の理由は説明されていませんよね」
「黙れッ!!」
「ええっ……」
言葉を発すれば発するほどにすれ違っていってしまうから困ったものだ。
「しつこく何度も何度も同じことを聞くな! 婚約は破棄だと言っているだろうが! もういいだろう、それで。簡単な話なのだからすぐに理解しろ!」
アッサンは怒り、足で床をドスドスしながら去っていったのだった。
◆
その後アッサンは痛い目に遭ったようだ。
まず、私との婚約を破棄した日に、彼は路上で暴走気味の馬車にぶつかられ負傷した。
そして、その次の日、父親が女遊びのために借金していたことが判明する。しかも、好き放題遊びすぎたために借金を返せなくなった父親は、家族が暮らす家を売って借金返済。それによってアッサンたちは突然家を失うという悲劇に見舞われることとなってしまった。
また、家を失ったショックで妹が命を絶つ。
さらに、家に加えて大切な娘も失うこともなった母親は正気を失い、暴れ回った直後近くの崖から身を投げた。
……といったように、アッサンには多数の悲劇が襲いかかったようである。
◆
柔らかなパンケーキ二枚を重ね、その間に柔らかなクリームを挟んでいる。そんなスイーツを口にしながら、穏やかな午後を味わう。
私は今、裕福な男性の妻となり、派手ではないが平穏そのものな日々を生きている。
「それ好きだな、エリー」
「ええ」
「今日のは普通のクリームか? この前食べてたマロンクリームとどっちが好きなんだ」
「両方好きよ、美味しいもの。でもどちらかに決めろと言われたら……こっちの、普通のクリームのほうが好きね」
甘いものを食べたり、夫と話したり、澄んだ空や瑞々しい木々など辺りの風景を眺めたり。
なんてことのないそんな時間が、今の私にとっては何よりも大きな幸せだ。
◆終わり◆




