無理のある要求ばかりしてくる婚約者に怒られ婚約破棄されてしまいましたが、今はまったり楽しく暮らせています!
私には三つ年上の婚約者がいる。
その名はアーゼというのだが、読書が好きな人物で、婚約者である私にも文章を書いて提出することを求めてくる。しかもその量がかなり膨大だから困ってしまう。
読むものを増やすため定期的に物語を提出するように、くだらなくてもいいから。
……そんな風に彼は言うけれど。
文を書く。
それは簡単なことではない。
いや、厳密に言えば、ただ書くだけならある程度簡単だ。けれど内容まで考えてとなれば話は別。とにかく手間がかかる。時間も使う。
しかもこの人、提出したら提出したで面倒臭いことをごちゃごちゃと言ってくるから厄介だ。
「おもんない」
「くだらなくてもいい、と仰っていたではないですか」
「はあ!? そんなこと言ってない! 俺は読書好きなんだから、もっと、面白いものを書いてもらわなければ!」
くだらなくてもいい、と言ったこと、もう忘れたのだろうか……?
いや、多分、そうじゃない。彼はいちゃもんをつけたいのだ。指摘したくて批判をしたくて仕方がないのだ。もはや細かいことなどどうでもよくて。粗探しをして、真っ当な指摘や批判をしている自分の有能さに惚れ惚れし、自身が正義そのものであるという快感を堪能したいのだろう。周りはそれに巻き込まれているだけ。
「俺が心躍るような文を書け! そのくらいは頑張れよ!」
「それは……プロの方に頼んだほうが良いのではないでしょうか、私は素人ですし……」
「うるさい! お前の文才なさ、作品がゴミなのが悪いんだろうが! お前は自分の無能さを認めろ!」
「すみませんがこれ以上は……」
「ああそうか! 逃げるのか! ならいいさ。こんな関係、終わりにしてやる。……お前との婚約、本日をもって破棄だ!!」
激怒し言い放つアーゼ。
「はぁ、やはりお前は馬鹿だったな。薄々気づいてはいたがどうやら正しかったようだ。お前みたいなのは俺に相応しい女ではない。……だから、さらばだ。すべて、ここまでにしよう」
こうして私たちの関係は突然終了した。
だが、悪い結末ではない。
ただ婚約者だというだけでこんなややこしいことを求められるのなら、婚約者でなくなってしまえる方が幸せというものだろう。
彼と離れるだけ、関係が終わるだけで、すべての面倒事から解放されるのだ――ならば婚約破棄されるというのも悪くはない。
◆
あの婚約破棄の後、アーゼは私の悪口を周囲の人たちへ言いふらしていたようだ。
だがやがてそんな彼は自滅することとなる。
本屋で買ったとある本への過激な批判を大声で言って回っていた彼は、その本の作者のファンだという者に夜道で襲われ、その命を削ぎ落とされてしまった。
彼の死後、その話を耳にした彼を知る人たちは、皆呆れた様子で「やっぱりね」といったような言葉を発していたらしい。
口を開けば、強い批判、暴言、悪口……。
そんなアーゼのことを周囲の人たちは冷めた目で見ていたようだ。
敢えて「そういうのやめようよ」と言う人はいなかったが、それは面倒事を避けたいからであり、誰一人彼の言葉に賛同している者はいなかったようである。
優しい言葉。温かい言葉。そういったものを大切にして生きていこう。
――そんな学びを与えてくれた、彼の最期であった。
◆
婚約破棄された一件から数年が経ち、私は今、アーゼではない青年と結婚して幸せに暮らしている。
「このキノコ、美味しいんだ! 食べてみて!」
「え、ええっ……キノコ?」
「うん! あ、良かったら僕が料理作ろっか? 実はさ、美味しく仕上げる自信、かなりあるんだ!」
夫となってくれた彼はいろんなものを食べるのが好きな人だ。それゆえたまにこちらが困惑するような食材を出してくる。そのたびに私はつい引いたような態度を取ってしまうのだけれど、彼はそんなことはまったく気にしない。私が困惑しきっていても怒らず、むしろ丁寧に魅力を伝えようとしてくれる。美味しい料理に仕上げてくれる、といったことも少なくなくて。どんな時も不満を抱かず前向きな心で接してくれる、そんなところが、彼の魅力的なところだと思う。
「自信、あるのね」
「うん!」
「じゃあお言葉に甘えて……頼んでもいいかしら」
「もちろんだよ! じゃ、作ってくるから。ワクワクしながら待っててね!」
私はこれからも彼と共に生きてゆく。
きっと何度も驚かされるだろうけど。
そのたびに新しいものに出会えるということなのだから、悪いことばかりでもない。
◆終わり◆




