「君と共に生きるくらいなら、貧民にでも堕ちた方がずっとマシだ」なんて言っていた彼、どうやらあっさりこの世を去ってしまったようですね。
「君と共に生きるくらいなら、貧民にでも堕ちた方がずっとマシだ。……よって、婚約は破棄とする!」
婚約者ルウィーゼンから突然そんなことを言われたのは、ある夏の日であった。
「はっきり言おう。君は女性として、結婚相手として、驚くくらい低レベルだ。特に酷いのは奉仕の精神がないこと。そこはもうかなり致命的。救いようがない」
いきなり婚約破棄を告げられるだけでも残念な気持ちになるというのに、彼はそれだけでは終わらず、さらに心ない言葉ばかり投げつけてくる。それも一つや二つではなく。心ない言葉、傷つけるための言葉、そういったものを大量に放り投げてくるのだ。恐らく彼は意図的にやっているのだろう。悪意を持って、私を傷つけたくて、そういった意思を持ってそういう言葉を投げてきているのだろう。
それからも、数時間にわたって、彼はそういう言葉を発することを続けた。
婚約破棄するなら、関係を終わらせるのなら、もうあれこれ言わなくていいじゃないか――そう思ったけれど、彼はどうしてもそういうことを言い続けたいようで、それゆえ私はただ仕方なく聞いておくことしかできなかった。
どうしてこんなに言われなくてはならないのか。
なぜ理不尽に傷つけられなければならないのか。
モヤモヤを抱えながらも、渋々、話が終わるまで付き合った。
◆
婚約破棄から一ヶ月ほどが経ったある日、ルウィーゼンの訃報が耳に届いた。
彼はその日街中で一人の女性に惚れたそうで、その女性をただひたすらに追い掛け回していたようである。
何度も声をかけ、一緒に喫茶店にでも入らないかなどと誘い、と、そういったことを執拗に続けたようで。拒否されてもそれでもなお諦めきれずいつまでもつきまとったそうだ。
その結果、治安維持組織へ通報されてしまい、拘束される。
身の自由を奪われたルウィーゼンは徹底的に取り調べを受けることとなったのだが、その際に入れられていた部屋が驚くくらい暑く、それが原因となって体調を崩してしまって――取り調べ開始から数時間で意識を失って倒れ、その場で死亡が確認されたそうである。
体内の温度が上がり過ぎたことで身体の機能が破壊されてしまった、ということによる死亡だったようだ。
環境の悪さゆえに命を落とした、と聞けば、可哀想な気もしてくるものだが、彼の場合だけは可哀想とは思わない。むしろ自業自得だと思う。他人の心を大切にしようとせず、逆に意図して傷つけるような言葉を発する、そんな彼がどうなろうが知ったことではない。可哀想だとか、気の毒だとか、そんな風に思ってあげることはできない。
◆
――あれから数年。
「見て見て見て! ついに咲いた!」
私は今、少し子どもっぽいけれど純粋な明るさに満ちた青年ロルと結婚し、海の近くの小さな町で楽しく暮らしている。
「ああ、この前言っていた花ね」
ルウィーゼンに切り捨てられた時はどうなることかと思ったけれど、その後ロルに出会うことができ、こうして夫婦となることができた。
そういう意味ではルウィーゼンに切り捨てられたことも間違いではなかったのかもしれない、と、今はそう思う。
「すっごく綺麗だよね!? コレ!?」
「ええ。そう思うわ。花びらの角度とか、素敵よね」
「やっぱり!? 思った! やっぱりいいよね、この花びらの角度!!」
ロルは花が大好きで、家の庭や玄関から中に入ってすぐのあたりの植木鉢などで様々な植物を育てている。
お世話は彼一人でしているので私が押し付けられることはない。
けれど花が綺麗に咲くとこうして見せに来てくれる。
花を育てるという意味で彼は自立している、が、だからといって私がその世界に踏み込むことを良く思わないということでもなくて。
「見せてくれてありがとう、明るい気持ちになれたわ」
「それは良かった!」
「良い花が咲いたらまた見せてちょうだい」
「もちろん! 見せるよ! っていうか、むしろ、いつも見てくれてありがとう!」
◆終わり◆




