婚約破棄されたあの夜はとても辛かったわ。けれども今は、ね……。
かつて婚約破棄されて。
あの夜はとても辛かったわ。
そんなことになるなんて少しも想像していなかったから、なおさら。
でもね、今はもうそこにとどまってはいないの。
切り捨てられたという事実に、そこから生まれる痛みに、もう慣れてしまったから。
理不尽な形で関係を壊されるということ。それは突然起こると信じられないくらいの痛みを伴うことよ。
けれども時は傷を癒してくれる。
時というものは最も偉大な薬だと誰かが言っていたけれど、今ならその意味が分かるわ。時の流れに即効性はないけれど、代わりに、ほぼ確実に傷を癒してくれるのね。
だからね、今はもう、当時のように暗闇を歩いているわけではないわ。
婚約破棄されたことも。
理不尽極まりない形だったことも。
今なら言えるわ――それが定めだったのだろう、って。
起こることすべてが定めなら、それは仕方のないこと。抗うことなどできはしない。
そう思えるようになったのも、今が幸せだからなのでしょう。
幸せになれたわたしは、運命に文句を言うつもりはない――誰もがきっとそうね、幸福に満たされた現在を手にしているなら、文句なんて誰も言いはしないでしょう。
わたしはもう孤独ではない。
わたしはもう不幸ではない。
いつまでも泣いている女じゃないわ。
良き人と巡り会い、結ばれ、清らかな幸せを手にいられたらからこそ、もう振り返ることはせず真っ直ぐに未来へ進むの。
◆終わり◆




