「お主との婚約じゃが、破棄とすることとした」いきなりそんなことを言われてしまいまして……?
「お主との婚約じゃが、破棄とすることとした」
十個年上の婚約者アデバンはある日突然そんな風に宣言してきた。
「急ですね……何かありましたか?」
「いいやべつに」
「では何もないのに急に婚約破棄を?」
「おう、そうじゃ」
アデバンは白いひげに覆われた口もとを片手の指で掻きながら「お主はのぉ……若いところはいいんじゃが、正直、並程度なんじゃ」と述べる。
「わしはのぉ、もっともっと魅惑的な女の子と結ばれたいのじゃ」
「そうですか……」
「若いだけしか良いところのない女の子と生涯を共にするというのは、正直のぉ……今は良いが、今だけじゃ」
彼は平気で心ない言葉を並べてくる。
「じゃあの。さらばじゃ。わしがより輝いた未来へ歩みを進めるところを、指をくわえて見ておくと良いぞ」
「ええっ……」
「ではの! さらぁぁば! さらばばぁん! ばぁいばばばぁい! ばばんばばぁぁぁぁぁい!」
こうして、意味不明な感じで、一方的に婚約を破棄されてしまったのだった。
◆
あの数日後、アデバンは自宅で胸が痛くなり、急死してしまった。
彼にそんな結末が待っているなんて思わなかった。
別れしな『わしがより輝いた未来へ歩みを進めるところを、指をくわえて見ておくと良いぞ』などと失礼なことを言ってきていた彼の寿命がこれほどまでに限りあるものだったとは……。
人生とは分からないものだな、と思った。
いつまで生きられるかなんて分からない。
どこまで健康でいられるかなんて不確か。
だからこそ、今この瞬間を、後悔のないように生きなくてはならない――彼が唯一教えてくれた大切なことはそれだ。
◆
あれから五年ほどが経った今、私は、王都の図書館で働いている。
毎日とても忙しい。けれど多くの人たちから頼られる生活は悪いものではない。困っている人の手伝いをできること、それはとても嬉しいことだ。誰かのために働ける、誰かのために生きることができる、その嬉しさに気づけたのは、この仕事に就いたからこそ。
だから私はこれからもこの道を歩む。
◆終わり◆




