婚約者が自室に女性を連れ込んでいちゃついている、それはもう完全に裏切りですよね。
「なぁ……これからもずっと、俺と一緒にいてくれよ」
「駄目じゃない……婚約者さんがいるのに」
「いいんだよあんなやつ、形だけの関係だから」
「でも……」
「いいから。俺が愛してるのはお前だけなんだよ、だから頼む……俺から離れないでくれ」
婚約者である彼ザルベスが自室に女性を連れ込んでいるところを目撃してしまった私は、ほんの少し開いている扉の陰に隠れつつ、撮影魔法を使って二人のいちゃつく様を記録する。
正直、あまり良い気がするものではない。不快なものを見せつけられているこの状況。彼の婚約者としては不愉快さに満ちている。
ただ、それでも、放っておくわけにはいかなくて。
だから私は心を無にして撮影を繰り返した。
二人に気づかれないよう静かに。
自分の気配は消しつつ、冷静に、着実に彼の罪を記録していく。
……いずれこの証拠は我が剣となってくれることだろう。
◆
「ザルベス、浮気しているわよね」
「えっ……」
なんてことのない昼下がり、思いきって切り出してみることにした。
「なに、を……」
「長い金髪の女性。部屋に連れ込んでいちゃついていたでしょう。二日前のことよ」
躊躇うことなく言ってやれば。
「ナジーのことか!? 彼女はそんなのじゃない! いちゃついてもいないし! ただ少し喋っていただけ、まぁ簡単に言えば友人だ!」
「本当に……いちゃついていないの?」
「あ、ああ! もちろん! 君を裏切るような真似はしていない!」
「そう。じゃあこれは……何なのかしらね」
言って、写真数枚を彼の前へ出す。
そこにはザルベスとナジーが四肢を絡め合う粘着質な姿が写り込んでいる。
「なっ……」
「嘘はつかないで」
「や、やめろよ! 盗撮とか! さすがに許せない、最低な行為だ!」
「最低なのはどっちかしら。婚約者がいる身でこんなことをして」
「ぐ、ぅっ……」
「これはもう完全に裏切りよね」
すると彼は急に目を見開く。
「ふざけるな! お前が、お前が悪いんだろう! 婚約者であるお前が女として魅力的なら俺だってこんなことはしなかったさ! お前に魅力がないからこうするしかなかったんだ! 全部お前のせいなんだよ!」
「それはさすがに無理のある主張だわ」
「悪いのはお前だ! お前が悪い! 俺もまた被害者だ、魅力のない女と婚約することになってしまったという被害者!」
「間違っているわ」
「お前のせいだろ! 全部! それなのに、仕方なく他の女と関わっていた俺を悪人のように言って責めるなど、それこそ間違い、完全なる間違いだ!」
話にならないので。
「この後、親を呼ぶわ」
「はぁ!?」
「改めてきちんと話をしましょう」
そう言えば。
「なっ……お、親!? お前のか!? 俺の!?」
「両方」
「それは駄目だ! やめろ! そんな手を使うのは卑怯だ!」
慌て出すが、もう遅い。
「二人じゃまともに話し合えないんだもの、仕方ないわよ」
「それだけはやめてくれえええぇぇぇぇ!!」
その後、互いの両親を呼び、改めてきちんと話し合いをすることとなった。
ザルベスは言い訳ばかりしていたが、彼の両親は驚きつつも事実を正しく理解してくれ、彼らからは謝罪を受けることができた。
そして慰謝料の支払いについてもまとまる。
だがザルベス本人は己の非を認めず、その結果、両親から酷く叱られていた。
そんな中で、急に立ち上がったザルベスは、なぜか「俺悪くねえええぇぇぇ!!」と叫びながら部屋を飛び出す。走り去ろうとしたのだろうか、家を出ていこうとして、勢いがつきすぎたせいか玄関の前の階段で転んだ。転がりながら落ちていく。その動きがようやく停止した時、彼は意識を失っていた。
そして、搬送先の病院で死亡が確認された。
それからも用事は色々あった。
ナジーとも話をしなくてはならなかったし。
様々な方向性からの忙しさがあった。
そうしてやがてザルベス側からもナジー側からも慰謝料を取ることに成功した私は、慌ただしい日々を終え、徐々に普通の日常へと戻ってゆく。
◆
あれから数年、親戚の人の紹介で知り合った男性と結婚した私は、穏やかな幸せを掴んだ。
ちなみにナジーはというと、あの後もたびたび男性絡みの問題を起こしていたらしく、やがて男性絡みの揉め事によって命を落とすこととなってしまったそうだ。
◆終わり◆




