月がとても綺麗な夜、婚約者が突然やって来たのですが……?
暗い空に浮かぶ月がとても綺麗な夜だった。
窓の傍に佇んで夜空を見上げのんびりしていたところ、婚約者である彼アヴェンドが突然やって来て、大事な話があると言ってきた。
「大事な話とは……何ですか?」
「婚約破棄についてだ」
「え。……こ、婚約……破棄? ですか?」
「ああ、そうなんだ」
アヴェンドは淡々と言葉を紡ぐ。
「君との婚約なんだけど、破棄とすることにしたんだ」
「そうですか……」
「だから、君とはここでお別れだ。悪いね。そういうことだから、今後は関わってこないでくれ。絶対、絶対に、関わってこないでくれ。分かってくれたか」
冷ややかな視線を向けられると言いたいことを言うことすらできなくて。
「ではな。……ま、せいぜい、何とか生きていくんだな」
婚約者に切り捨てられて、心が痛くて、けれどそんな時でも夜空に浮かぶ月は綺麗なままで。
私と彼の関係が変わっても。
世界は少しも変わらない。
◆
あれから少ししてアヴェンドはこの世を去ったようだ。
何でも、結婚しようと話していた女性と何日も連続で大喧嘩をしていたそうで、その果てに殴り合いになってしまったらしく……命を落とすこととなってしまったそうだ。
男女混合殴り合い喧嘩、というのも画期的だが。
そんな関係の二人が一緒にいる、となれば、遅かれ早かれそういったことになってしまったことだろう。
……そもそも相性が良くない二人だったのだろう、恐らく。
一方私はというと、婚約破棄されてすぐに勤め始めた薔薇印のパン屋で知り合った青年と結婚した。
温厚な彼との暮らしは穏やかそのもの。
そこには無限の幸福がある。
ちなみに、彼の実家もパン屋をしていて、彼が薔薇印のパン屋で働いていたのは将来を見据えての修行のためだったそうだ。
◆終わり◆




