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杏の思い出  作者: 神井
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広い聖堂に響く少女たちの歌声。



この学校は一応共学だが、生徒の8割は女子である。



聖歌隊にいたっては男子が一人もいない。







他のメンバーがオルガンの周りで講師の指導を受けているのに対して、



聖堂のはしっこで別行動をしている二人。




「ほら、また猫背になる!」



彼方はまた聖歌隊の講師から美笛の指導を頼まれた。



もう1月なのだから



昨年入ってきた一年生も一人前に歌っている。



それなのに、もうすぐ卒業の美笛は未だに聖歌隊の足枷だ。



やはり野木の言う通り声楽には向いてないのか。



それはきっと能力云々よりも



彼女の性格が問題なんだろう。



「君の悪い癖だよ。すぐ猫背になる、下を向く、口を縦に開けない。」



彼方もつい説教口調になる。



しかし、野木のように厭味や悪口を言ったりはしない。



「もう一つおまけに顔が暗い!」



こればかりは癖ではないとわかっていた。



美笛は歌には自信がないものの、歌うときの表情は生き生きしていた。




最近、美笛の声楽のレッスンを投げ出していた野木は



とうとう「やってられない」と、美笛の講師を辞退したそうだ。



きっとそれで落ち込んでいるのだろうと



彼方は思った。




まあ、もうすぐ卒業であるし、



コンサートに向けての練習を彼女に任せるわけにはいかない。



「猫背になったら腹に力が入らない、

下を向いたら声が下におっこちる、

口を縦に開けないと発音が悪くなるし、声が響かない。

君も声楽科ならそのくらいわかるだろう!

それともあのメクラ講師は君にそんなことも教えなかったのか!?」



まさかそうだとは言えまい。



美笛はあれもこれも自分のせいだと思っているだろうから。



キリスト教音楽に暗い表情で歌う曲などほとんどない。



彼方はどうしたら美笛が自然な笑顔を作れるかと考えていた。





「岡咲さーん!なんかみーんなして自信なさげにじめじめ歌ってるからちょっと手伝ってよ!これじゃあ『歓喜の歌』じゃなくなっちゃうわ!」



早速講師から彼方に呼び出しがかかった。




(そうだ!)




そのとき彼方はあることを思いついた。





「皆!輪になって!」









続く。


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