8 : 聖女クエストと王都
その日、レクスハルトと会話することなく、フローラは学園から外に出ました。
校門から少し離れたところで待っていると息の上がったデュランが近づいてきます。
「フローラ、探したよ。教室は先に出るわ、寮にはいないわで、もう一人で街に行ったのかと思った」
「ごめんなさい」
フローラは素直に頭を下げました。
「怒ってるわけじゃないけど・・・そんなに教室にいずらいの?」
迷ったように目を彷徨わせたフローラは、こくりと頷きます。
「第一王子と喋りたくなくて」
ぼそりと言ったフローラにデュランは目を丸くします。
「なんか、フローラが第一王子を避けてるなってのは後ろから見てて思ったけど。何かされたの? っと、歩きながら話そうか」
デュランは周りを見て、そして歩き始めました。
フローラも同じように歩き始め、デュランの隣に並びます。
「何も、されてないよ。でも、何もされないためには、あんまり関わりたくない」
「確かに第一王子はまだ婚約者決まってないからね。下手に近づくと他の令嬢が怖いってのは僕もわかるよ」
貴族令嬢の怖さを知っているといわんばかりに、デュランは頷きました。
この乙女ゲームには主人公と攻略キャラの中を縮める悪役令嬢という存在はいます。
レクスハルトルートなら、ミルフィー・ゾルディア侯爵令嬢です。
嫌がらせをしたり、二人の仲を引き裂こうとしたりなどの暗躍をしてきます。
そして、侯爵令嬢であるぶん手下となるような腰ぎんちゃくの令嬢も多く、また当人のお小遣いという名の財力も馬鹿にならないため、他の悪役令嬢に比べても撃退難易度が高くなるのが特徴です。
聖女としての地位を一定程度確立していないと、聖女側が追放されるバッドエンドも存在するくらいです。
ちなみにですが、デュランルートにおいてはロルホ王国における中堅商会の次女が悪役令嬢にあたります。
彼女の場合は嫌がらせなどはなく単純な恋敵として存在します。
そのため、聖女としての地位が低いと駆け落ちルートになり、デュランとの親密度が低ければ普通に振られてお終いです。
楽しそうに、とまではいかなくとも、デュランと自然に喋っているフローラの姿を見ていると、このままデュランルートに入る可能性はゼロではありません。
デュランの好感度稼ぎなどはフローラは好んでやらなそうですが、もし好かれたいという思いから私に相談してきたらどうしましょうか。
それが本編が終わった後ならば、喜んで仲を後押しするんですけれどね。
「それで、フローラは何か用事があったんだよね」
デュランが話題を変えて、この後の行き先を決めようとしています。
「うん。でも、コレって場所じゃなくて、散策? みたいなの」
「街の案内とかは必要なら僕がするけど」
「ううん、大丈夫。どこを歩くかは決まってるから」
一瞬だけ、フローラは後ろにいる私に目くばせをしてきました。
一連のフローラの行動をデュランは明らかにいぶかしんでいますが、聞くつもりはないようです。
さすが商会の御曹司なだけはあります。
不用意に突っ込まないところは、こちらとしてもありがたいです。
しかし、フローラは案外抜けているところがあるようです。
あとで注意した方が良いのでしょうか。
ただ、変に注意すると、今朝のバーラとのやり取りみたいになりかねませんし。
ボタン一つで間違いなく行動を取らせることができるゲームの仕様は優しいのかもしれません。
さて、今日行う聖女クエストですが、失くしものを探すことです。
フローラには大まかにどこを歩くかは伝えてあります。
『そこを右に曲がってください』
元々フローラは王都に住んでいるわけではありませんでしたし、王都に来てからも教会からは出なかったため、道には詳しくありません。
だから、私が後ろからナビゲーションをする手はずです。
今日のルートは王都の屋台通りを通り過ぎて、住宅街の小道に入り、失くしものがある場所まで行きます。
ゲーム的には聖女クエストは受けた後にしか、そのアイテムは配置されません。
しかし、ここは現実です。
失くしものの話が本編が始まる前である以上は、仮にイベントキャラと会話を挟まなくてもアイテムが落ちているはずです。
なので、まずは先に失くしものの場所まで行き、そこでアイテムを探したのち、聖女クエストのイベントキャラのところまで行きます。
もし、これで失くしものが落ちていなかった場合、イベントキャラに話しかけてから、もう一度ここに戻ってきます。
デュランからすれば、ものすごく不自然に見えてしまうでしょう。
ただ、デュランがいても行動に変化はないので、そこはフローラとデュランとの関係性を優先させることにしました。
小道に入ると、背が高い住居に囲まれているぶん、薄暗くなります。
屋根の隙間から漏れる日光が、梯子のように地面に落ちています。
『失くしものは、小さな宝石のイヤリングです。宝石は青のサファイアで、道の端に落ちているはずです』
ゲームだと、ドット絵の中を歩くため、正確な場所というのはわかりません。
ただ、小道のどこら辺かまでは推定できます。
フローラが急にしゃがんで地面を見始めると、デュランはさらに首を傾げました。
「ねぇ、フローラ。何をやってるのかな」
「イヤリングを探しているの」
「どうして、イヤリングを探してるのかな」
絵本に出てくるようなやり取りに思わず笑ってしまいました。
しかし、どうしてイヤリングを探しているのか、ですか。
答え方に困る質問ですね。
今から落とした人に届るためです、だとあらかじめ失くしものがあることを知っているということにもなりますし、そもそもなぜそこにあると知っているのかという問題になります。
それに、この後会う人は初対面ですから、どのみちです。
フローラは答えるよりも早く、イヤリングを手にしていました。
「見つけた」
それはデュランではなく、明確に私への言葉でした。
小ぶりのサファイアがあしらえられたイヤリングはゲームのイラストで見たのも同じものです。
『はい、それです。では、失くした人のところに行きましょうか』
「失くしものは見つかったみたいだね」
「うん、よかった」
「で、それをどうするの?」
先ほどの質問に拘りもないのか、デュランは新しい質問を投げかけてきました。
「失くした人に届ける」
「それが誰のものか知ってるの?」
フローラが小さく頷くと、デュランもそれっきり口を閉じました。
小道をさらに進み、そして住宅街の中でも広い道に出ます。
太陽がパッと周囲を照らしました。
「ねぇ、どうしてフローラは、そんなことをしようと思うの?」
言外に何の得もないのに、という言葉が聞こえます。
ゲームのイベントシーン。
主人公がデュランルートの悪役令嬢を庇って、バーラから怒られたときにデュランが発したセリフです。
フローラはゲームではなんと答えたのでしょうか。
思い出す前に、フローラは振り返って口を開きました。
「私がやるべきことだから」
読んでいただきありがとうございます!
前作はおかげ様で毎日更新で完結まで走ることができました。
今作では毎日更新に加えて文章の推敲もしていきたいです。
楽しんでいただけると幸いです。
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