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7 : デュランのお誘い

翌日、フローラには始業ギリギリに教室に向かってもらいました。


なるべく教室内におけるフリーの時間をなくすためです。


教室に入る前、担任の先生であるバーラと鉢合わせしました。


「おはよう、フローラさん」


ラスボスだという話をしたせいか、フローラは猫のように警戒してしまっています。


『フローラ。落ち着いてください。バーラは”まだ”敵ではありません』


私が諭すように言うと、フローラはハッとします。


「おはよう、ございます」


そんなフローラを見て微笑んだバーラは先に教室に入るように促してきます。


会釈をして教室に入ったフローラへの視線は昨日の帰りに見たものと変化はありませんでした。


くじ引きで決まったため、他の令嬢からの嫉妬は含まれているように思いますが、まだ敵意にはなっていません。


『なるべく、レクスハルトとは距離をとってください』


こればかりは、私も心苦しさはあります。

しかし、他の令嬢からの足の引っ張りを受けている暇はフローラにはありません。


顎を引いたフローラはそそくさと自分の席に座ります。


そして、それとほぼ同時、すでに座っていたレクスハルトがフローラへと口を開こうとしたとき、バーラが教室に入ってきます。


「ごきげんよう。今日も良い天気ね」


どこか牧歌的に挨拶をしたバーラに生徒は会釈で返します。


ここら辺は、ゲーム制作における日本的な価値観と、実際に貴族社会が現実になるという折り合いのせいでどこかチグハグに見えます。


「全員いるわね。それでは、授業を始めるわ」


一目で出席を取ったバーラは、そのまま黒板にチョークで文字を書き始めました。


授業が始まったことで諦めたのか、レクスハルトも前を向き直ります。


なぜ、レクスハルトがゲーム序盤にフローラに関わりに行こうとしているかは不明です。


気になりますが、突いて出てくるのが藪蛇では困るので我慢します。


フローラの方を見ると授業を真剣に受けていました。


集中しているのか、教室中から時たま注がれる視線にも気づいていないようです。


内容は初学者であるフローラにもわかりやすいものだと思います。


なにせ、詳しい授業内容を知らない私でもすんなり頭に入ってくるのですから。


さすがに、教師陣の仲で唯一全教科担当できる人は教え方も上手なのでしょう。


一時間半、みっちりとロルホ国の歴史について授業が終わると十五分間の休憩です。


ゲームでは昼休憩以外は選択肢が出てこないので、これもまたゲームと現実との違いになります。


あらかじめ伝えた通り、休みになるとすぐにフローラは席を立って教室から出ます。


学園パートを回避するための策です。


ただ、それだけだと時間がもったいないので、フローラには早歩きと階を移動することを伝えてあります。


ジッと座っているよりも勉強に集中できるようになりますし、健康にも良いです。

そして、今後戦闘パートになる際にも日ごろの習慣は頼りになるからです。


ここら辺も、現実になったがゆえに使えるテクニックなのだと思います。


「フローラ」


階段を降りるとき、後ろから声がかかりました。


私とフローラが一緒に振り返ると、立っていたのはデュランです。


「デュラン?」


なぜ付いて来たのか、その疑問がフローラの語尾を上げさせました。


「昨日ぶりだね。すぐ帰っちゃうんだもん」


「うん。いずらくて」


「あははっ」


楽し気にデュランは笑います。


「第一王子の隣になっちゃったからなぁ」


第一王子、名前でも、殿下呼びでもない呼び方は、平民特有です。

前世でいう芸能人を呼び捨て、のような感覚なのでしょう。


「それで、何か用?」


「今日、学校が終わったら街に行かない?」


まさかのデートのお誘い。

デートと呼べるほどの雰囲気ではないのかもしれませんが、年頃の男女が一緒に出掛けるとなればデートです。


ゲームでも、お誘いイベントは何度かありますが、入学式の次の日にもう発生とは。

デュランはデュランで、やはりゲームとは違うようです。


「ごめんなさい。今日は街に行くつもりだから」


フローラは申し訳なさそうに頭を下げました。


それを聞いたデュランは、呆けたように固まります。


「えっと、それは誰かと行くの?」


そこでフローラも気づいのか「あ」と声を漏らします。


『フローラ。デュランの誘いは受けて大丈夫です』


「あ、あの、ちょっと混乱しちゃってた、みたい。大丈夫、行ける」


おどおどと言いつくろうフローラに、デュランは目を丸くした後、また笑います。


「あー、良かった。同じ目的なのに断られたから、一瞬何を言われているのかわからなかったよ」


「うっ、ごめん」


フローラの白い頬と耳が紅に染まります。


「全然いいよ。それじゃあ、僕は教室戻るよ。またあとで」


デュランは手を振って去っていきました。


階段の踊り場までくると、フローラは周囲を見渡して誰もいないことを確認しました。


「今日は、聖女クエストをやるって話じゃないの?」


『その予定です。ただ、デュランが一緒に居たらできないということもないですから』


本当は不用意に攻略キャラに関わらない方がいいです。


ただ、昨日のフローラの図書館での様子を見て少しだけ考え直しました。


RTA(リアルタイムアタック)の遅延にならない範囲でなら、なるべくフローラには学園生活を満喫してもらおうと。


ゲームと違って不要な選択がそのまま記録に影響するということもありません。

一日二十四時間、たっぷりと動くことができます。


それに、実を言うとフローラの味方になってくれそうな人を手放すのも惜しい気がしてきたのです。

RTA 的な攻略では別に攻略キャラの支援はいりません。


ただ、ギリギリを攻める RTA では、余裕もなくなります。

もう少し能力を伸ばせば安定するのに、そう思うチャート(進め方)の方が多いのです。


ゲームであれば仮に戦闘パートで負けても『という夢を見た』的な処理が起きます。

しかし、現実ではそうはいきません。


負けは負け、死は死です。


フローラは相手を利用するのは難色を示しましたが、相手が差し伸べてくれた手まで振り払うということもはしないでしょう。


「そう。でも、デュランは何か街に用でもあるのかな」


『確かに言われてみれば、そうですね』


先ほどはデートだと騒ぎましたが、そこまで好感度を稼ぐようなことはまだできていません。

会って二日目ですから。


『まぁ、ゲームとの違いを確かめるという意味でも、一緒に行って無駄になることはないと思います』


「うん」


それで納得したのか、していないのか。


それでもフローラは頷いて、また歩き始めました。


今度も、時間ギリギリまで教室には入らずに。

読んでいただきありがとうございます!

前作はおかげ様で毎日更新で完結まで走ることができました。

今作では毎日更新に加えて文章の推敲もしていきたいです。

楽しんでいただけると幸いです。

皆さまの応援が励みになりますので、

よろしければブクマや評価の方もお願いいたします。

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