5 : ゲームの攻略方針
「修行って、走るとか?」
フローラが首を傾げました。
『そうですね。そういったこともしてもらいますが、メインはいわゆる聖女クエストというものを進行してもらいます』
攻略軸が二つあるというのは、どちらかを満たせばゲームクリアになるということです。
聖女ルートのクリアの場合、誰とも付き合わないトゥルーエンドでゲームを追えることになります。
特に、席決めのときのレクスハルトのような現実ゆえの変化が想定される以上、誰かと中長期的に関係を築くのは不確定要素が多すぎるのです。
『聖女クエストというのは、要するに聖女として色々な任務をこなすことで聖女の力を解放していくことを言います。先ほどゲームの話はしましたよね』
「うん、乙女ゲームってやつだよね」
『はい。実際には他にもさまざまなゲームがあるのですが、その楽しみ方の一つにリアルタイムアタックというものがあります。簡単に言ってしまえば、いかに早くゲームクリアができるかを目指す遊び方です』
「えぇ、なんでそんなことするの?」
ゲームは楽しいモノ。
そう教えたからこそ、短い時間で終わらせてしまう遊び方が理解できないのでしょう。
しかし、改めてどうしてリアルタイムアタック、通称 RTA などというプレイがあるのかと聞かれれば答えるのが難しいです。
私も、この乙女ゲームを含めチャートを真似てやったことがあるからこそ楽しさはわかるのですが。
『強いて言うなら、好奇心、でしょうか。それなりに遊びつくすと、他にどんな遊び方ができるのか。また、それをどれだけ極めれるのか、に目がいくのだと思います』
「レーコもやってたの?」
『ええ、そして今回、フローラに進んでもらうのも、このリアルタイムアタックのルートになると思います』
「それはいいんだけど、なら、最初にデュランと話したのも、席決めで黙っているように指示したのも、そのリアルタイムアタックのため?」
鋭い質問です。
けれど、違います。
『いいえ、あれはゲームのルート危険度を下げるためです。RTA 』とは別で、しかも恋愛ルートのための方法です』
「RTA は一番早くゲームクリアができるんだよね。なら、それが一番難易度が低いんじゃないの?」
『最もな疑問ですが、少し違いまして。というのも早くクリアするために高難易度のプレイを必要とする場合は珍しくないのです』
フローラの目にはわかったようなわからないような、そんな疑問符が浮かんでいました。
オタクじゃない友人にゲームの話をしたときとまったく同じ反応です。
やはり、界隈は深入りするほど周囲からは奇異に映るのでしょう。
しかし、そこでへこたれるようではオタクはやれません。
私は気にしないフリをして続けます。
『デュランルートは武器やポーションなど、アイテムをたくさん買えるルートです。それにレクスハルトやクサラと違って貴族令嬢の恋敵も少なく、いたとしても爵位は低いため、学園内での嫌がらせや妨害のレベルも低くなります。また明確な敵である悪役令嬢に関しては嫌がらせなども行ってきません』
「なんか、そう聞くと嫌な人になったみたい」
それは、まぁ、確かにそうかもしれません。
相手を条件でしか見ないというのですから。
「あっ、でも、恋愛じゃなくて聖女ルートなら、そういう利用みたいなことは、しない?」
『ええ。聖女ルートでの RTA は攻略キャラのお助けを一切排除した、レベリングだけに特化する脳筋ルートなので』
レベリング、脳筋などの単語を改めて説明した私は、これで話したいことはおおむね話し終わりました。
『ひとまずの目標は、聖女クエストを進める中で手に入る三つの秘宝を入手することです。これを最短で手に入れて、あとはレベル上げをしながら聖女の力を覚醒を行えば、バーラとのラスボス戦に入れます』
「三つの秘宝って、聖女の伝説の三宝?」
『はい。おとぎ話にも出てくる、冠、錫杖、そしてローブです』
「えっ、実在したんだ」
『もちろんです。ただ、聖女の力が一定程度にならないと見ることができないので、まずは簡単な聖女クエストからこなしていきましょう』
「うん、わかった。とりあえず、今日は何をすればいい?」
フローラの目はやる気に満ちています。
ただ、初日に関しては部屋に戻ったタイミングで初日終了になってしまうので、何かゲーム的進行があるわけではありません。
『そうですね。明確な目的はありません。ただ、ゲームと違う動きが出てきているので、私のゲーム知識がどれだけ正しいのかの確認をしたいです』
「なら、学園内? それとも街?」
迷う二択ですが、どちらが良いのでしょうか。
学園内探索のメリットは今後の学園パートにおいて想定外の問題をあらかじめ知れることです。
午前中は常に授業があり、学園内に縛られるため、どこかで確認する必要があります。
対してデメリットは生徒がたくさんいることです。
特に、フローラはレクスハルトの隣の席になってしまいましたので、貴族令嬢と出会うのは正直避けたいところです。
街探索のメリットは街中にある有用なアイテムの取得や、聖女クエストの下準備が行えることです。
デメリットは特にありませんが、今、急いで散策する必要もありません。
悩んだ結果、私は学園内の散策の方に決めました。
『学園内にしましょう。いくつか見てみたいところもあります』
「今日はどこ行く?」
『図書館がいいと思います。人が少ないですし、欲しいアイテムもあります』
「わかった」
フローラは椅子から降りて伸びをしてから歩き始めます。
足取りは確かで、しっかりと地面を踏みしめて歩いています。
その後ろ姿に懐かしさを覚えます。
ゲームでもこの小さな少女の背中を何度となく追いかけたことが思い出されます。
図書館までの道中、ゲーム知識を使ってなるべく人通りが少ない場所を指定していきます。
寮内は清掃員の方が利用する裏口の方面へと足を運ばせ、学園内では廊下ではなく外の壁沿いに歩かせました。
外から見れば不審者と言われてもおかしくはありません。
でも、誰にも会いたくないのです。
というより、今後は最低限のやり取りのみに絞るつもりでいます。
聖女ルートは急激に物語を進めるため、そのままいけば多くのイベントにおいてフローラの能力値が足りなくなります。
だからこそ、恋愛ルートで発生する貴族的なあれこれをすっ飛ばし、聖女ルートで必要になる素の強さ、そして聖女の力のみを伸ばしたいところです。
しかし、ここは現実なので学園パートをスキップすることはできません。
ならば、なるべくそれ以外で他と関わらないという選択肢を取るのが賢明になります。
ただ、少しだけ思うところもあります。
私のフローラを守るという目的、そしてフローラの聖女の力を覚醒させ両親を生き返らせるという目的。
そのどちらにも適っているけれど、明確に一つだけ取りこぼしていることがあります。
それは、フローラの現実としての体験です。
恋愛がわからないとは言っても十四歳の女の子。
同い年の魅力的な異性と時を共にすれば恋心が芽生えるかもしれません。
私の指示はそれを事前に摘み取ることになります。
前世の学校とは違うことは承知しています。
けれど、本当にこれでいいのか、それだけが喉の奥に引っかかっています。
読んでいただきありがとうございます!
前作はおかげ様で毎日更新で完結まで走ることができました。
今作では毎日更新に加えて文章の推敲もしていきたいです。
楽しんでいただけると幸いです。
皆さまの応援が励みになりますので、
よろしければブクマや評価の方もお願いいたします。




