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2 : 学園入学

ロルホ王国というそれなりに栄えている国の王都。


そこにあるロルホ王立学園こそが、この乙女ゲームの舞台です。


入学式は毎年の春にあり、学園内には桜が咲き誇っています。


聖女になった日に引き取られた教会ではフローラは仲の良い人はできませんでした。


両親を流行り病で亡くし、そのあとに移った親戚の家では虐げられていたので心を許せる人はいません。


そんなフローラが、心細さに手を握りしめながら学園の門をくぐる一枚絵は人気の高いシーンです。


しかし、目の前のフローラは違います。


背後霊である私がいること、そして両親を生き返らせるという決意。


それが胸を張らせ、勇み足にしています。


紺色のセーラ服をなびかせながら進むフローラに周囲からの視線が集まります。


この学園は、優秀な成績であれば平民であっても入学できます。


貴族、王族は原則入学で、また周辺国家の子女も受け入れているため、とてもバラエティに富んだ学生が集まるという設定です。


その誰もがフローラを見ています。


白金という珍しい髪色や、愛くるしい見た目もあるのでしょうが、それ以上にそれが当代の聖女としての目印になっていることが大きいのです。


『フローラ、今朝言った通り、真っすぐ会場へは向かわず、裏手の方から寄り道をしてください』


フローラには人前で私に話しかけないように言ってありますから、フローラが私を見ることも喋りかけることもありません。


なので、私からの指示に対しては軽く顎(あご)を引くと了承、何もアクションをしないと拒否と決めてあります。


今回はフローラは顎を引いたので、了承なのだとわかります。


入学して最初の選択肢、それがどのルートで入学式の会場に向かうか、です。


真っすぐ進めば、攻略者である第一王子と遭遇します。


また、校舎の中を通るようにして進めば、宰相の息子。


そして、裏手を進めば、商家の息子と出くわすのです。


もちろん、これで攻略キャラが選択されるわけではありません。


しかし、小さくでも好感度を稼いでおくことは馬鹿にはならないのです。


人目を避けるようにして裏手に入ったフローラはほっとした顔をして進みます。


教会では、基本的に自室でずっと一人、たまに司教やらシスターやらが来る程度だったこともあり、大勢に注目されるというのに慣れていないのでしょう。


裏手を進んだところにある木の枝に一人の少年が座っていました。


茶色の髪に赤みがかった瞳、そして、深緑のブレザーは紅葉を思わせる色味です。


「聖女がこんなところに一人で来るなんて、なんかあったの?」


明るい声で少年はフローラに話しかけました。


「注目されるのに疲れたから」


フローラは驚かずに冷静に帰します。


「そっかぁ、聖女だとわかってからまだ数日だもんね。こっちは静かでいいでしょ」


猫のように笑う少年は木から静かに飛び降りました。


「僕の名前は、デュラン・マクナード。王国一の商会の御曹司だよ。よろしく」


デュランは手を叩いて汚れを落とすと、フローラに手を差し出してきました。


「私はフローラ」


フローラは躊躇(ちゅうちょ)せず、デュランの手を握り返します。


デュランは何かを見定めるようにフローラへと視線を向けます。


これが、このシーンで一番デュランの好感度を稼げる選択肢です。


商人だと見下したり、逆にお金持ちだと媚びたりするのをデュランというキャラクターは嫌います。


「僕、あんまり貴族の子得意じゃないからさ。フローラみたいに平民の子相手だと安心するんだ」


また、令嬢というものに対して一種の苦手意識のようなものも抱えているのです。


要領が良く、成熟も早かったデュランは幼少期の頃から親の仕事について回っていたという話が過去話として語られます。


見た目の良さのせいで、令嬢たちから可愛いと詰め寄られることにより苦手意識が芽生えたそうです。


乙女ゲームの攻略キャラなのですから、見た目を良く設定されているのは自然ですが現実ともなると大変そうです。


フローラも今後は主人公として巻き込まれる話なので他人事ではありません。


「そうなの。なら良かった」


さて、ここからはゲームにはないシーンになります。


ゲームでは各シーンごとにイベントか会話があり選択肢が用意されています。

しかし、その途中経過に関しては当然ですが省略されています。


だから、二人が一緒に会場に向かう間にどのような会話をしているのかは製作者の頭の中にしかないのです。


フローラには、私のことと目標のことを話さないというルールを設けてアドリブで話すように伝えています。


それは、今後の途中経過についても同じです。


鐘が重く鳴りました。


「行こっか」


デュランは体についたほこりや土を払いながら、進み始めます。


「会場って遠い?」


フローラが前にいるデュランに聞きました。


「全然。ここから五分」


「なんで知ってるの? 案内板なんてなかったよね」


「僕、さっき一度会場まで歩いたから」


後ろから見ていると、二人の身長差は他の攻略キャラと比べても、お似合いであることがわかります。


主人公であるフローラを含めて全員が十四歳ですが、デュランを除いて他の全員が百七十センチを超えている設定です。


デュランだけが百六十なので、フローラとは頭一つ分くらいの差で収まっています。


こう見ると兄妹のようにも見えてきます。


「それよりさ、フローラは寮に入るの?」


「うん、そう言われてる。司教様から」


寮とは、学園寮のことで王族や高位貴族などの学園に近い場所に家がある者以外は基本的に入寮することになっています。


「へぇ、聖女であっても、寮なんだね」


「そうみたい」


フローラの素性は目ざとい商人や貴族にはもう知れ渡っています。


ですから、フローラが貴族のような待遇でなくとも受け入れられるのでしょう。


「ここが会場みたいだね。僕たちのクラスは・・・こっちかな」


掲示板にはクラスごとに座る場所が色分けで指定されていました。


フローラとデュラン、そして他の攻略キャラ全員を含めた主要キャラのほとんどが特待クラスに在籍することになります。


前世ではなんと手抜きな、と思いましたが、有力な家の子供をひとまとめにしてしまうのは王族や貴族のパワーバランスを調整しなくてよいという意味で都合がいいのかもしれません。


フローラとデュランは別れて指定された席に座ります。


続々と他の人たちも席を埋め始めます。


定刻になり、トランペットのファンファーレが吹き鳴らされました。


ここからが、ゲーム本番です。

読んでいただきありがとうございます!

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