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18 : ローブの効果とフローラ

『魔王はいる』


確信をもって放たれたラティヌの言葉は私に重くのしかかります。


「レーコ、レーコぉ?」


目の前のフローラが私の方を振り返って読んでいました。


『ごめんなさい。ボーっとしていました』


「レーコもそういうこと、あるんだね」


フローラが笑います。


『それで、なんでしたか?』


「魔王ってどこにいると思う?」


先ほどラティヌはロルホ王国内と言っていましたが、その話しぶりから言って大聖堂がある王都のどこかのはずです。


そして、私は聖女の力に並々ならぬ執着を見せているキャラクターを一人知っています。


『推測でありますが、バーラの周りかと』


「私も同じ考え」


そして、それこそが私たちの目的達成が一段か二段困難になっただろうと思える理由です。


単なる才媛ではなく、魔王の増援すらも考えられるわけですから。


向こうが二人に対して、こっちも私を含めて二人だとはさすがに言えません。


私はフローラをゲーム知識で『導く』ことはできても、一緒に戦うことはできないからです。


だからこそ、フローラをさらに強化することが必要になります。


それが私の嘘がバレる諸刃だとしても。


『ですので、これからはいっそう修行や聖女クエストに励む必要があります』


「うん、わかってる」


フローラの目には強い意志がこもっています。


遺跡に入る前、慢心していた気配は消え去っていました。


なぜか嬉しさを感じます。


私は思わず、口角が上がってしまいました。


『とりあえずは今日は休んで、明日から一日、魔物を倒しつつアイテムの回収をしましょう』


「うん。レーコ、キャンプのやり方教えて」


フローラは真っすぐに私を見ています。


『もちろんです。まずは腰のナイフを取り出してください』


そうして、遺跡の近くで野営を取りました。


次の日、まだ日が完全に登り切っていないときにフローラは目を覚ましました。


「おはよう、レーコ。見張り、ありがとう」


『おはようございます、フローラ』


いつも起きている時間なので体が勝手に起きたのでしょう。


寝ぼけ眼で伸びをするフローラの髪は、すこしボサボサです。


櫛で梳かしてあげたい欲求にかられますが、現実に作用ができませんから指摘するしかありません。


私が寝ぐせについて言及するとフローラはリュックから櫛を出して髪を整え始めます。


『遺跡から森の深い方へと進むと谷底が見えます。そこに川があるので、それを目印にアイテムの回収をしていこうと思います』


「今思ったんだけど、拾うアイテムの量ってこのリュックに入りきるの?」


フローラが櫛をリュックに戻しながら、私にリュックの口を広げて中を見せました。


入っているのは水筒、食料、そして櫛などの最低限の身だしなみを整えるもの、などです。


それでも、そこまで大きなリュックではないので半分くらいは埋まっています。


『大丈夫です。今回疲労アイテムは回復薬などもありますが、多くは装備できるものですし、かさばりません。それに、聖なる護符も、初代聖女のローブも、どっちも装着感がないでしょう?』


私の問にフローラは「確かに」と呟きます。


『ということです。もし、溢れてしまいそうなら、そのとき考えましょう』


「わかった」


そのまま、雑談をしながら朝食を済ませると、いよいよ森の奥へと歩き始めました。


手にはしっかりと聖なるメイスが握られています。


「そういえば、なんだけど、初代聖女のローブってどんな効果があるの?」


今までのフローラなら、聞いてこなかった類の質問に少し驚きました。


どこか私に従えばいいやという感じで細かいことを聞いてこなかったのが前のフローラです。

それが、知の試練で私からの指示がなくなる状況になった影響でしょうか。


自分から情報を集めようとしています。


フローラの後ろから切り離されたときは肝が冷える思いでしたが、この成長は私としても嬉しいものです。


ラティヌに感謝しないといけません。


今回のことで私は二つのことを学びました。


一つ目が、ゲーム的要素はゲームのまま作用することです。

これは、イレギュラーがありつつも、クイズに答えて試練を突破したらローブがもらえたことからも明らかです。


そして二つ目が、裏にある背景や人の気持ち、そして人の動きはゲーム通りにはいかないということです。

ゲームはゲームをするために必要な情報だけをプレイヤーに見せていて、他の側面はあっても知らされていないと見るべきです。


だからこそ、この世界の住人として生きてきたフローラからの意見が重要になってきます。


『すごくシンプルな強化です』


私が効果を説明しようとしたとき、目の前から一体のアーウェイ・フォックスが出てきました。


その体躯は狼くらいで、体毛は麦の穂のような豊かな黄金色です。


最大の特徴は尻尾が二本あることで、猿のように尻尾を使って木々を縦横無尽に駆け巡ります。


冒険者の中でも中位レベルでしか倒せないため、平原に出てくるアイサイト・ワームと同じくらいの強さだと言われています。


フローラはアイサイト・ワームの巨体に苦戦していたわけですから、ローブの効果をハッキリと感じられるはずです。


『勝てない相手ではありません。いつも通り、落ちついていきましょう』


私の言葉にフローラは静かに頷きます。


その目は正面にいるアーウェイ・フォックスへしっかりと向けられています。


油断のようなものは感じらず、しっかりと警戒しているのがわかりました。


『今回は私は指示を出さないので、フローラなりに戦ってください』


私の言葉にフローラは「え?」と声を漏らしました。


それが開戦の合図だったのかアーウェイ・フォックスが一瞬で木の上に飛び上がり、そして上から勢いをつけて突進してきます。


すぐさま、木の間へと飛び込んで攻撃を避けたフローラがメイスをしっかりと握りしめました。


避けられたことを悟ったアーウェイ・フォックスはまた木の上へと飛び上がります。


RTA でも散々苦しめられたヒット&アウェイです。


攻撃はあたりづらいですし、ずっと下手をするとひたすら攻撃をよけて時間が過ぎてしまうことすらもあります。


ただ、解決方法は至ってシンプルで、ギリギリで避けてそのままカウンターを決めるだけです。


現実の戦闘になったことによる悲惨さは初めての戦闘で血みどろになったフローラからもよくわかっています。


だからこそ、その恐怖心に勝てるかどうかというのが私が見極めたいことです。


今回は知の試練でした。


次にあるのは錫杖(しゃくじょう)を手に入れるための力の試練です。


また、フローラ一人で戦わなければいけなくなる可能性が高いのです。


さらにはラスボスとの戦闘も、です。


フローラは何度もアーウェイ・フォックスの攻撃を避けては体勢を立て直しています。


アーウェイ・フォックスが地面に衝突する瞬間を逃げた先で見れていることからも、自身の速度が以前とは比べ物にならないくらいに上昇していると気づけるはずです。


でも、今のフローラは逃げることに必死で全然周りが見えていません。


これも私がこれまで指示を出し過ぎた影響でしょう。


何かの漫画で戦闘 IQ という話が出ていましたがフローラにはそれが圧倒的に足りていないのです。


このままだとアイテム回収の予定も崩れますし、埒が明きません。


ヒントを出しましょうか。


『フローラ、逃げてばかりいるつもりですか?』


少し厳しい言い方になってしまいましたが、でも一人で知の試練を突破した今のフローラならちゃんと受け止めてくれるはずです。


フローラは私の言葉を聞いてハッと立ち止まりました。


上から見下ろしてくるアーウェイ・フォックスに初めて観察しました。


そして、メイスをしっかりと握りしめます。


アーウェイ・フォックスはフローラの変化に気づいた様子でしたが、それでも突っ込んでくるつもりで枝を蹴りました。


敵とフローラの距離が拳一個分になったとき、フローラは自分の体を回転させ、突進をかわします。


いくら魔物と言っても地面へと飛び降りた瞬間に方向転換はできません。


その隙に、フローラはメイスをアーウェイ・フォックスの頭に振り下ろしました。


ゴンと鈍い音を立てて頭蓋骨がひしゃげ、そのまま力なく黄金色の毛を地面へと触れさせます。


息が上がっているフローラは、まだメイスを握りしめて、アーウェイ・フォックスの死体へと注意を払っています。


本当に、成長しましたね。


フローラ。

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