↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/24

15 : フローラと離れてから

気づくと私はとても可愛らしい部屋に来ていました。


そして、目の前にいるとても美しい人の前で座っています。


「ごめんなさいねぇ。これはあくまでも聖女の試練なのよ。だから、あなたがアドバイスするのはズルになっちゃうわぁ」


どこか間延びした声で、白金の絹織物のような髪を垂らした女性は言いました。


『あなたは誰ですか?』


私がこんな質問をするのはおかしいのかもしれません。


なにせ、ゲームでストーリーに関する情報は一通り頭に入っているのですから。


でも、こんなキャラクターを見たことがないのです。


エメラルドに輝く瞳、お人形さんのような造形。


それでいてフローラよりも年齢が高い、二十歳くらいの大人っぽさも感じられるアンバランスな見た目は、ゲームに出ていれば人気が出ないはずがありません。


「そうねぇ。まずは、名乗るのが先かしら。私の名前はラティヌ。初代聖女よ」


そう言ってニッコリと笑いかけられると、自然と信じられる気がしてきました。


不思議な魅力です。


ただ、よくよく考えてみれば、この人が初代聖女である可能性は高いように思えます。


ここは初代聖女が自身のローブを隠した遺跡であり、問題の出題者も初代聖女という設定です。


『でも、初代聖女は何百年も前に亡くなったはずでは』


「ええ、確かに私の肉体は滅んだわぁ。それは間違ってない。けれどねぇ、私が初代聖女としてココにいるというのも、まやかしではないの。でも詳しい話は、今の聖女、フローラちゃんがココまで来れたらしましょうか」


ラティヌは私たちを挟んだ丸机の上に映像を投射しました。


まるで前世の科学技術のようです。


「あらぁ、アナタ、コレを見て驚かないのね」


ラティヌが興味深そうに私を見ました。


『なんというか・・・前世という話をしたら信じてくれますか』


「ふふ、もちろんよぉ。教会の聖女であるということを除いても、今の私の存在が魂というものの実在を教えてくれるもの」


言われてみれば、それもそうです。


そこで私は前世の話を軽くしました。


フローラに何度か説明していたため、すっきりと端的に伝えることができます。


「異世界やゲームと言われると信じがたいところではあるわぁ。でも、嘘とも思えないのよね」


『今すぐに信じてもらわなくても構いません。ただ、私がこの映像を投射するものを見ても驚かないのは前世で似たようなものが普及していたからです』


「まぁ、いいわぁ。別に驚かせたかったわけじゃないんだから」


ラティヌは口ではそう言っていますが、少しだけいじけたような幼い表情を見せました。


初代聖女は早世だった言われています。


今、目の前の彼女もちょうど亡くなられる直前くらいの年でしょう。


つまり、私よりもずっと年下です。


フローラと髪色が同じこともあって、なんだか初代聖女よりも、親戚の姪っ子のような感じがしてきました。


「それよりも、この子が試練を突破できるかどうか、よねぇ」


ラティヌは細長い人差し指で机の上をトントンと叩きました。


映されているのは、絶賛ナゾナゾに取り組んでいるフローラの姿です。


顔が百面相する姿は可愛いのですが、ただ私は自分が答えを伝え忘れていたことを思い出します。


迂闊(うかつ)でした。


そんな私の表情を見て悟ったのか、ラティヌは微笑みます。


「もし、アナタがゲームの知識で答えを教えていたら、私が追加で別の問題を考えたわよぉ。ズルさせる気なんて、ないもの」


ズル、と言われればそうでしょう。


クイズ本でクイズを出す人の隣で、同じクイズ本を開いて答えを教えるなんてズル以外の何物でもありません。


『一つ気になったのですけど、浄化魔法を石板に放てば答えがわからなくても、クリアできるんじゃないでしょうか』


「そこまで甘くしないわよぉ。これでも私、生前は性格が悪いって言われてたもの。ちゃんと、フローラちゃんの思考を読んで、私が納得できたら正解、できなかったら答えが合ってても不正解」


そんなのラティヌの匙加減ではないでしょうか。


私の不満が顔に出てしまったのでしょうか。


ラティヌは説明を付け加えました。


「むしろ、これに関しては優しい方だと思うわ。私、ナゾナゾで複数答えが考えられるものに一つの答えしか許さないっていうの嫌いだったのよぉ。だから、もし私が想定していない答えだったとしても、論理的に筋が通ってるなら、正解にしてあげるわ、ちゃんとねぇ」


確かに私も、そういうタイプのナゾナゾは好きではないですが。

でも、今のフローラに解けるでしょうか。


フローラは頭の回転は悪くありませんが、勉強そのものに関わった時間が短いせいで論理的に何かを考えるというのは、まだそこまでうまくできません。


するとラティヌが私の心を読んだように優しく微笑みました。


その微笑みは慈愛に満ちていて、心がスッと落ち着くのを感じます。


「信じてあげなさいよぉ。アナタの子でしょう。今も、アナタを思って頑張り始めたところじゃない」


投射された映像からは音声も聞こえますが、フローラが初めて口を開きました。


―――初代聖女より、次代の聖女へ


問題文の音読ですか。


思考を整理するのには大事だと教えたのを覚えてくれていたのでしょうか。


私の前では一切してくれなかったので、もう忘れてしまったと思っていたのですが、少し嬉しいです。


『私が生んだ子ではありません。でも、私が”見守ることを誓った”子です』


そうハッキリと言えました。


ええ、そうです。


私は、フローラに嘘をついた責任が、そして今の生き方を歪めている責任があります。


私の手を離れたフローラが何もできないと思うことこそ、フローラに対しての背任行為です。


目を見開いたラティヌは「それは、いいことねぇ」と嬉しそうに言いました。


さて、この状況が初代聖女であるラティヌの思惑通りなら、酷いことにはならないでしょう。


私がいるから簡単だ、なんて言ったことはフローラに謝らないといけませんが、今は落ち着いてフローラを応援するとしましょう。


あーでもない、こーでもない、と独り言でアレコレするフローラを見るのは初めてです。


思えば転生してから、フローラの後ろに常にいたわけですから当然です。


そこを除けば私はゲームのフローラしか知りませんし、ゲームのフローラは操作されているだけなので実質フローラという人を外部から眺めるというのも初めての体験です。


ナゾナゾ自体はゲームのときと同じで、難易度はそこまで高くありません。


この世界の文字が日本語と全く同じなのには驚きましたが、そうであれば漢字のレトリックに関しても解けるはずです。


異世界で異国の漢の字とは、もう何のことかもわかりません。


フフッ。


フローラの姿も相まって笑みがこぼれます。


その後、フローラは四苦八苦しながらも、なんとか最後の問題をクリアすることができました。


部屋の一画、私の背後に白金の光柱が立ちました。


そちらを振り向くと、キョトンとした顔のフローラが立っています。


褒めたいところではありますが、まずは一人で挑ませたことに頭を下げないといけません。


おそらく、フローラから見た私の表情はとても微妙なものになっていたでしょう。

読んでいただきありがとうございます!

皆さまの応援が励みになりますので、

よろしければブクマや下の☆からの評価をお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。