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13 : 謎解きの試練1 side フローラ

レーコが見えない。


さっきまで後ろにいたのに今は声すら聞こえない。


途端に心細くなった。


聖女になった日。


私は二つの驚くことに出会った。


一つ目は世界がひと際輝いて見えたことだ。


両親がいた頃のように鮮明で透明。


どこまでも美しいバラ色が視界に色づいていた。


そして二つ目がレーコだ。


昔、お父さんが私にお化けの存在を語ったときは夜眠れなくなったのを覚えている。


でも、親戚の家で明かりの届かない暗がりの倉庫で寝起きするようになってから、そんなものは怖くなくなった。


魔物であれば街には出現しないし、魔物でないお化けなんて存在しないと知ったからだ。


でも、教会での洗礼を受けた瞬間から私の後ろにはお化けがいた。


この世界の人とは違う顔立ちと、白い独特な服に長い黒髪とが合わさって迫力があった。


そして何よりも、その体が透けていたのだ。


周りに人がいることなんて考えずに叫んだ。


アレは恥ずかしい記憶だから、できれば忘れたい。


でも、そんなレーコは私にすごく優しかった。


普通に話すことができたし、それどころか私のことを大切に思ってくれているのが言葉の節々からも伝わってくる。


教会の人が聖女としてあがめるのとは違い、レーコは私を一人の女の子として案じてくれていた。


それに両親を生き返らせることができると言い切ってくれた。


それも二回も。


私は、それが嘘だってなんとなく知ってる。


知ってるというのは違うかも。


感づいている、かな。


レーコは本人が思ってるよりも嘘が下手だ。


普段嘘をつかないせいか嘘をつくときは言葉に力がこもりすぎてる。


今までさんざん親戚の家で心無い嘘をつかれた私からすれば、すぐに嘘だとわかるほどだった。


嘘をついたのは私の原動力が両親を生き返らせることにあると考えてるからだと思う。


それは完全な間違いじゃない。


いくらレーコがゲームというもので私の行く末を知っていたとしても絶対的に正しいわけじゃない。


聖女としての力が高まれば、という望みは私の中に残ってる。


でも、レーコには悪いけれど私は両親とは私が死んだ先で会うものだって、もう割り切っちゃってるんだ。


両親が死んでから七年。


この期間は私にとって短くなんてなかったから。


聖女になったとき最初に私が願ったのは誰にも頼らないで生きていくことだった。


誰かから守られる必要も誰かに依存する必要もない。


ちゃんと自分の足で立つこと。


それが私の望みだ。


結果的に、今の私はどうだろうか。


レーコがいなくなって心細さを感じている自分は、たぶんレーコに甘えていたんだろう。


強くなった。


でも、それは私の心じゃなくてステータスとかいう数値が大きくなっただけ。


一人でどうしようもなくなれば、これ以上ないくらいに怖くて足が震える。


目の前にある謎解きは読んでみても答えがわからない。


勉強だって、授業は真剣に聞いていたけど、そこまでちゃんとやっていない。


レーコに教えてもらえるのなら、レーコが道順を示してくれるのなら、そう思って自分でさらに勉強することなんてしてこなかった。


学園に入学してから一か月間、思えばレーコの指示ばかりを頼りにしてきていた。


それなのにレーコが心配してくれたら、気にしすぎだと私は笑いとばした。


どうすればいいのだろうか。


棄権しますと言って辞めさせてもらえるようには見えない。


部屋は最初にいた広間のようになっていて、しかし入ってきたはずの道もなければ、他に通路があるわけでもない。


部屋を照らすのは言われて唱えた聖なる光(トーチ)だけ。


そして中央の壁には堂々と謎がある。


『初代聖女より、次代の聖女へ。

あなたは一人で森の真ん中にいます。

右を向いても左を向いても何もありません。

さて、私は上と下のどちらから来るでしょうか』


そして、壁の前には”上”と書かれた石板と”下”と書かれた石板の二つ。


でも壁を見てもはめ込める窪みなんて見つからない。


答えをテキトウに言えばいいだけなら、叫ぶのも手だけど石板がある以上は違うよね。


試しに石板を手にとってみたけれど何も変わんない。


レーコは簡単だって言ってたけど、それは何度も同じ問題を解いたことがあるからじゃないのかなぁ。


あっ、でもレーコはそれなりに階級の高い生まれだったかもしれないし、もしかしたら頭がいいのかも。


そうじゃなきゃ、あそこまで博識にならないはず。


せめてレーコにヒントを聞いておけば、こんなことにならなかったのに。


というか、そんな簡単な対策ちょっと未来に不安を持ってたらわかるのに。


むぅ、反省できるのが私のいいところだって思おう。


悔やんで状態が良くなったことなんて、今まで無かったんだから。


レーコは前に考えが煮詰まったら声に出すと理解の手助けになるって言ってた。


独り言みたいで恥ずかしくてやってなかったけど、でも今までの自分だとまた同じ失敗をする。


喉を唾でしめらせて、息を吸った。


「初代聖女より、次代の聖女へ」


「これは遺跡の最初の広間でも見た。だから、この問題には関係ない、はず」


声を出していたら、なんだか気持ちが前向きになり始める。


「よしっ、次は・・・あなたは一人で森の中にいます、かぁ」


漢字字体は教会の初等学校でも習う簡単なものだし、聖女が何歳であってもいいようにって感じなのかな。


そういえば、レーコがひらがなや漢字を見て驚いていたけど、なんでなんだろう。

それなりに難しい漢字も読めているようだから、レーコが前にいた世界にもあったはずなのに。


「森の中ってのがココのことなら、次の文の左はこっちかな」


そう思って左を見たけど、壁だった。


「それで、右がこっち」


右も左と同じく壁。


壁際まで歩いてみても、変なところなんてない。


「右も左も何もないって書いてあるけど、壁はあるじゃん」


とか言ってみても意味はない気がする。


「聖女は上か下どちらから来るかと言われたら、上っぽいけど。上に行ったら遺跡からでちゃう。もう死んでるから幽霊とかお化けって言われたら、下なんだよね」


自分の頭で考えたことをなんでも口に出していくと、確かに頭がスッキリするようだった。


次からは勉強中もやろうかな。


レーコなら笑わないだろうし。


そして地面を見てみるけど、これも何の変哲もない石畳でそれ以上はわからない。


「よしっ、下はなし。なら上、上ぇ?」


聖なる光(トーチ)で照らされた天井は、壁と同じような素材でできていて、でも変なところはなかった。


それに仮に何かあっても手が届かない。


「ふんっ」と力を込めて飛んでみても、私のジャンプ力じゃかすりもしない。


しょせん、魔物を倒せるパワーも聖女と聖なるメイスのおかげなんだね。


っといけない。


すぐにナイーブになっちゃってる。


「これ以上、情報はないっ。よって、わからない」


ふてくされて投げ捨てることができたら楽だけど、でもそれじゃあ、レーコがいないと何もできないまんまだ。


「ヒント、ください」


頼んでみたけれど何も起きない。


ちょっぴり顔が熱い。


何か、レーコがそれっぽいことでも言ってなかったかな。


そういえば、道中に『謎というかナゾナゾです』と言っていた気がする。


確か、そのあとにナゾナゾとは何か聞いて、そしたら『見方や考え方を変えると答えが出る遊びで、知識のない小さな子供でも解ける』と言っていた。


そこからレーコの何かのスイッチを押しちゃったのか、製作者がどうとかの前世話を始めちゃったけど。


でも、そうだ。


「見方や考え方を変える、か」


改めて文章を見てみる。


「最初の文章は除外。聞かれてるのが上か下か」


レーコが考えるときにしているみたいに顎に手を当ててみる。


別に賢くなるわけじゃないけど、賢くなった気がする。


「そういえば、真ん中にいて、右と左には”何もない”なのに、上と下の”どちらか来るか”なの、ちょっと違和感ある、かも。でも、そもそも右と左に何もないことと上と下どちらから来るかなんて関係ない気がするんだけど」


そこでハッとする。


関係ないのに、そういう表現をしているのなら意味があるんじゃないかな。


「そうだよ。ここが森の中だからスルーしてたけど、問題文に森と書く必要だってない。別にどっちから来たかなら街でも家でもいいはずだもん。だから、森であることも意味があるはず」


森、森、森。


「木、川、魔物、岩、草」


思いつくものを口に出してみてもピンとこない。


「見方や考え方を変える?」


私は目を細めたり、遠くから見てみたりしてみたけど、何も思いつかなかった。


さすがにとは思いつつも、その場で逆立ちをしてみる。


文字が反転してひらがなは読めたもんじゃなかった。


でも、だからこそ対称な漢字が際立って見える。


森、真、中。


森、木・・・。


「わかったっ」


私は逆立ちをやめて問題文のある壁へと近づく。


森の真ん中にいる、っていうのはつまり森という漢字の中心にいるという意味だったんだ。


で、右と左には何もないというのが、そのまま漢字の形的に閉じてないってこと。


それで言うなら、上は木があるから閉じてるけど、下は木と木の間が空いてる。


つまり、何もないってこと。


だから、どっちから来るかと言われれば、下だっ。


”下”と彫られた石板を手に取る。


そして、もう一つ思い出す。


ここに来るとき、浄化魔法を使ったことを。


今出している光は二つだから、一つを消して、そして聖なる光(トーチ)を唱えた。


すると、問題文が掘ってある壁が二つに分かれて下への階段が姿を現した。

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