11 : 初の魔物討伐
最初の聖女クエストの日から二週間が経ちました。
フローラには相変わらずレクスハルトを避けさせています。
また、デュランとの距離は前よりも進展することはしていません。
聖女クエストはあの日から順調に積み上げており、ゲームの経験からすれば十分な成長率だと言えます。
その証拠に、昨日初めて回復魔法が使えるようになりました。
これは自身にも、そして他者にも作用する魔法であり、初期状態では擦り傷などの軽傷を完治をさせることができます。
そして今日、初めて魔物と戦う日です。
戦うと言っても、どの平原にもいるプレイン・シープを倒すだけです。
この羊型の魔物はのんびりとした性格で、かつ草食系の魔物には珍しく群れで行動しません。
初心者でも簡単に倒せる魔物です。
「レーコ、これで本当に倒せるの?」
フローラは手に持ったメイスを不安げに見つめています。
棒の先端に金属球がついているのが一般的なメイスですが、フローラが持っているのは宝石のように装飾がされたものです。
聖女クエストを進める最中、序盤では十分な性能を持つアイテムを拾っておきました。
RTA においても必須級の武器である『聖者のメイス』は攻撃力に聖女レベルを参照し上乗せするというキメラ的武器です。
聖女クエストをひたすら進めるチャートにおいては願ってもない性能となっています。
しかし、現実の武器としてみると部屋を飾るインテリアのような印象を受けますし、貧弱な気がするのも頷けます。
『倒せるはずです。無理そうなら逃げましょう』
「私の足の速さで逃げ切れるのかな」
初めての魔物との戦闘ということもあってフローラは少しだけ弱気になっていました。
前世感覚だと中学生の少女に闘牛に出てくださいと言うのと同じですから仕方もないことでしょう。
『プレイン・シープの走力は馬鹿にできるものではありませんが小回りが利くものでもありません。草食動物の四足形態自体が、そもそも後ろ向きに進むことができないのですから、逃げ方に頭を使えば逃げきれると思います』
「レーコが指示してくれるんだよね」
『もちろんです』
「それなら、うん、やってみる」
そうしてフローラは寮を出ることになりました。
街から平原に出る際に門番がいますが、彼らは中から外に出る人に対してはザルです。
さらには聖女であることも知られているため、外から入るときも呼び止められることはありません。
何の問題も起きずに平原に出たフローラは吹いたそよ風を一身に浴びて気持ちよさそうに目を細めました。
春の陽気が心地よく降り注いでいます。
『日が暮れるまでには戻れるはずですが、念のため急ぎましょう』
私の言葉にフローラは頷きます。
この二週間の聖女クエストは基本的にゲーム通りであり、落ちているアイテムも必要なものや余分に拾えるものは集めてきましたが、そこもほとんどゲーム通りでした。
ゲームと違うのは人の動きだけでしたので、恋愛ルートではなく聖女ルートの攻略を目指すという方針は間違っていなかったのだと思います。
早歩きで歩き始めたフローラは、道を逸れてだだっ広いっ平原の中へと足を踏み入れました。
草花は膝くらいの高さまでありますが、周囲を見渡すにはまったく邪魔になりません。
フローラには戦闘ということもあり、テキトウな店で買った運動用の服を着てもらっています。
前世でいうところのジャージがあるのは違和感ですが、元がゲームの世界であるので言っても仕方がないでしょう。
制服と同じ紺色のジャージを来たフローラも可愛いものですで、私としては文句はありません。
少し進んだ先に一頭のプレイン・シープがいました。
「アレを殺すの、心が痛い」
小声でフローラは顔を歪ませます。
のんびりと草を食んでいるプレイン・シープは牧歌的そのもので愛嬌もあります。
ゲームなら倒して剥ぎ取ってを何も考えずにしていましたが、現実となるとその命を奪うというのに重みが増します。
それでもフローラのレベル上げはマストです。
聖女クエストにおける聖女レベル、そして魔物を倒すことによる基礎レベルが一定値以下だとバーラに歯が立たないのですから。
『真後ろから不意をついて一発。メイスで殴ってください。それで死ぬはずです』
励ましの言葉も思いつかなかったので、倒し方だけを言います。
血も涙もない、そんな顔をフローラに向けられましたが気にしないフリをしました。
それでも、フローラは意を決してゆっくりと近づいていきます。
草食動物の目は前ではなく横についており、真後ろ以外の大半は見えています。
プレイン・シープ自体は魔物なので正面から行っても逃げたりはしませんが、ここで怪我を追うと後々のタイムに響きます。
そして、これは現実でありフローラの回復魔法は軽傷しか治せないので問題になります。
逃げ帰ることができる傷ならば、教会や学園の保健室に行けば回復魔法を使ってもらえます。
しかし、例えば肺に肋骨がさされば致命傷になるかもしれません。
フローラは体を低くして遠回りでプレイン・シープの背後まで来ました。
春風のおかげで草原は絶えず草の擦れ合う音を出してくれています。
メイスを振り上げて飛び掛かったフローラにプレイン・シープはギリギリのところで気づいて飛び上がりました。
しかし、体を反転させてしまったせいで、振り下ろされたメイスが脳天に直撃をします。
瞬間、ザクロのようにプレイン・シープの頭がはじけ飛びました。
「きゃあっ」
自分でしておきながら、フローラは悲鳴を上げます。
私も声にならない悲鳴が出ました。
前世、平和な日本で暮らしていたアラサーにはこのグロさは耐えられません。
ゲームだとプレイン・シープの目がバッテンになり倒れるだけでしたのに。
フローラは全身に血を浴びて、狂気さが感じられる見た目になっています。
頭部を失った死体は確かな質量を持って地面へと落ちます。
『フローラ、落ち着いてください』
幽霊の私ですら存在しない心臓がどくどくと音を立てているのですから、フローラのソレは比ではないでしょう。
何度も言い含めるように深呼吸をさせます。
私の頭が冷静になり始めた頃、フローラも落ち着きを取り戻しました。
「聞いてない」
お化け屋敷で驚かされた人のようにフローラは私をジト目で睨んできます。
私も聞いていませんでしたが、指示を出したのも私です。
『ごめんなさい。まさか、ここまでとは』
寮ではストレッチや軽い筋肉トレーニング。
そして、聖女クエストをみっちりとした二週間の成果はしっかりと出てきました。
それ自体は嬉しいのですが、頭蓋骨もろとも弾けさせるとは。
「わざとじゃないなら、いいけど」
フローラはしぶしぶ矛を収めてくれました。
でも、これで今日は終わりではありません。
この街の何倍もある平原で、今日はまだまだやることがあります。
『あと八匹。行きましょうか』
そう告げた私に、フローラは今度こそお化けでも見たような顔をしました。
読んでいただきありがとうございます!
前作はおかげ様で毎日更新で完結まで走ることができました。
今作では毎日更新に加えて文章の推敲もしていきたいです。
楽しんでいただけると幸いです。
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