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僕だけが、ハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
イブキがいない世界

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91.防護ロボコン

「ブロンデ、例のあれを」

「了解しました、マイマスター」

「うふふふ。ちょっと駄目よ、イブキもブロンデも、ノリが良すぎて笑っちゃうわ」


 シリアスさんが、一瞬で飛んでいった。


 テントの外。借りていた防護服を脱いで、僕らは歩いていた。

 ちなみに、郷田さんはちゃんと防護服を着ている。普通の人だからね、僕が大丈夫だって言っても、頑なに防護服を着てきた。


「あ、あのな、篤輝。下に下りて松本に行くんじゃないのか? なんで山奥に行くんだよ」

「いいから行こう。それで自衛隊の撤収は、後は大丈夫なんだよね?」

「ああ、そこは引き継ぎしてきた。問題はない、問題はないんだが」


 自衛隊のキャンプ地が遠くなっていく。

 降り積もった火山灰をかき分けて谷間の道を進むと、やがていい感じに広くなっている場所に出た。うん、だいぶ離れたし、ここなら大丈夫かな。


「ここを、キャンプ地とする!」

「だめ。くふふふ、イブキ何で、真面目な場面じゃない。何でそれ言うのよ、うふふふふ――」


 ミモザが笑い袋と化した。

 呆れ顔の郷田さんも、何だか手持ち無沙汰だ。掴みはオッケー。


「ブロンデ、例のあれを」

「その台詞は、さっき言いました。やり直しを要求します」

「……あー。一旦、ボックス拠点を置いて欲しいかな。ここじゃさすがに、火山灰が入って気持ち悪くなりそうだし」

「了解です、イブキ様。少々お待ちを――」


 上を見上げると、相変わらずどんよりと曇った空から、細かい火山灰が降り続いている。黄砂とか、季節になると霞んでいたけれど、これはその比じゃない。

 気温は、やっぱり寒いんだろうな。防護膜の魔法のおかげで、いい感じに遮断された外気は僕には快適に感じる。


 広い場所。とはいえ、一面に立ち枯れた木が生えていて、本当の意味で終末世界だ。積もった火山灰が、視界のモノクロさをさらに際立たせている。


 そこに、巨大な箱が落ちた。


 メキッ、と。

 木をすり潰し、火山灰を少しだけ巻き上げてそれは、僕らの目の前に聳え立った。


「……ブロンデ、これじゃない」

「間違えてビルを展開しました。仕様です」

「も、もう……くふふふ。やめて、お腹が痛いわ……あははははは」


 肩が叩かれる。


「な、なあ。篤輝、これは何だ? ビルだってのは、見りゃ分かるが」

「簡易拠点だよ。着替えが必要だし」

「簡易って、お前。30メートルはあるだろう、これが……簡易?」


 一緒にビルを見上げる。

 確かに、ちょっと大きいな。ブロンデらしいけど。




 1階の天井が異様に高いビルは、都心にあれば普通の高さなんだけれど、この場所だと異様に高く感じる。いや、実際に高いのか。

 呆然としたままの郷田さんを連れて中に入ると、広い1階フロアに3体。ロボットが鎮座していた。


「ちょっと改良型です」

「ありがとう。いつも助かるよ」

「もちろんです。あなたのブロンデですから」


 高さは約4メートル。流体金属をベースにしたメカメカしいその威容は、どこからどう見てもロボットだ。

 背面ハッチが開くと、連動して腕と脚が開く。そこに『防護服を着た状態で』搭乗すると、背面ハッチが閉じて動かせるようになる。そんな仕様だ。


 ただし。気をつけないといけないのが、生身では絶対に搭乗できないことかな。

 あくまでも防護服の補助装置であって、単体だと単なるオブジェにすぎないと言う無駄仕様が特徴だ。尖ったデザインの格好いい外観は、相変わらず男心をくすぐる。


「な、何だこれは……?」

「防護ロボコンだよ」

「……なんて?」


 防護服着用したまま入るロボット、そのコンパクトサイズ。の略だったかな?

 もうね、防護ロボコンが正式名称になっていて、元のネタは怪しいんだよな。初期試作モデルは全高15メートル超えだったから、だいぶコンパクトだ。


 そして壁際の収納棚には高性能な防護服。それを郷田さんに1着手渡して、僕も急いで着用する。首を傾げつつも、郷田さんは新しい防護服に着替えてくれた。


「いや待て、この防護服は何だ? なんで動きが補助される。何で身体が軽いんだよ!?」

「エリクシル補助駆動だからね。設定変えれば、最大で10倍力だよ。やったね」

「んなバカな、これだけで大抵の地形が踏破できるじゃないか! こんなん、どこで生産されたんだよ」

「僕が、元いた地球だよ?」

「……は?」


 そんな会話をしている横を、同じように防護服を着たミモザが、笑いながら通り過ぎていった。

 もう、郷田さん面倒くさいな。


 取りあえずわめく郷田さんの背中を押して、防護ロボコンの裏まで誘導した。

 一つ飛ばしの隣で、ミモザが防護ロボコンの背面を展開しているのを見て、再び振り返って僕の両肩を掴んで、揺さぶってくる。待って待って、目が回る。


「おい、もしかして、防護服を着たままあいつに、防護ロボコンとやらに乗るってのか!?」

「ちょっと落ち着いてよ、早く姉さんのところに行かないとなんだから」

「いや分かった、それは一応は理解している。だが、あれは何なんだ? ロボットは飾りじゃなかったのか!?」

「もう。時間がないから早く乗り込んでよ。いくら空を飛べたって、松本シェルターまで、時間かかるんだから」

「ん、はああぁ? 空まで飛ぶのかよ。まじか、俺。もしかして判断を間違えたのか……」


 頭を抱える郷田さんを、また後ろから押して、無理矢理防護ロボコンに搭乗させた。そうしてすぐに、操作を理解したのか、防護ロボコンが動き出した。

 さすがは自衛隊。素直に感心した。


 そして、僕らは空を飛ぶ。

 ちゃっかりブロンデが、ビルを収納したのを郷田さんは見逃していた。たぶん初めての飛行に、ワクワクが止まらなかったんじゃないかな。


「おい、これ普通に世界獲れるじゃねえかよ……」

「おー? なんだって!?」

「うるせぇ篤輝。何でもねぇよ。てか、なんでブロンデのねぇちゃんは、そのまま空を飛んでんだよ!?」

「仕様ですが、何か?」

「ふふふ、駄目よ。郷田さん、面白すぎるわ。ふふ、うふふふ」

「ちくしょおおぉぉぉ――」


 叫び声が火山灰色の空に木霊する。


 僕らは一路、松本シェルターを目指して空を飛んだ。




「前方2キロ、松本シェルターを確認できました」

「近くに人影は?」

「半径2キロ。完全無人ですね、近くのビルの陰に簡易拠点ビルを展開します」

「お願い」

「……お願いじゃ、ねぇよ……ほんと、勘弁してくれ……」


 初飛行に、だいぶお疲れの郷田さんを引っ張って、僕らは松本の市街地の外れに降り立った。

 拠点ビルで防護ロボコンから脱出した郷田さん。すぐに膝から崩れ落ちて、両手を突いてうなだれた。


「ちくしょう、何で30分で木曽から松本に着くんだよ、おかしいって……」


 ほんと、松本が近くて助かったよ。

 防護服のままビルから出た僕らは、急いで松本シェルターに向かった。


 ビルの陰を伝って、できるだけ静かに、灰を巻き上げないように進む。

 そうしてやがて、松本シェルターが見えてきた。


「ドームが、壊れている……?」

「生存者はいます。イブキ様、判断を」

「行くぞ。癪だが、俺なら何とかできる。付いてこい」


 郷田さんが、ミモザが駆けていくのを、呆然と見送る。


「イブキ様……」


 背中を軽く押してくれたブロンデに、初めて足が止まっていたことに気がついた。


 壊れたシェルターから、黒煙が立ち上っていた。


 なにが、起きた……?


「イブキ様!」


 見かねたブロンデが、手を引く。

 僕も遅れて、駆け出した。


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