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僕だけが、ハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ルナリア編

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84.単管の牢獄

 足場板に乗せた足が、一瞬だけくっ付いた。

 そのままの勢いで転けそうになった僕を、後ろにいたブロンデが、優しく服の襟を掴んで引っ張る。僕は、首が絞まってむせた。


 ぜんぜん優しくなんか、なかった。


「これって、相当寒い?」

「簡易計測ですが、マイナス250度ですね。とても快適です」

「宇宙空間快適少女だからなぁ、ブロンデ」

「ですが、さすがの私も。マグマ温泉なんかはちょっと暑いから苦手ですよ?」

「駄目だ。突っ込んじゃ駄目だ」


 明かりはない。

 でも何でだろう、この超低温下では光の動きでさえ凍るのか、単管パイプの霜に囚われた光が微かに発光している。それで視界が、遥か彼方まで確保されている感じ。


 二歩目で、後ろから転けたブロンデに押し潰されつつも、階段を頼りに単管パイプの迷宮を下りていく。実際に、凍った仕切りシートやブルーシートが壁になっていて、通れないケースが多いんだよな。文字通りの迷宮。

 たぶんこれ、防護膜の魔法がなかったらヤバいやつだ。


「これは難儀だわ。全てが超低温で凍っているせいで、シートすら動かせないじゃない」

「こんな時にはイブキ様の超魔法で――」

「それだけは止めて。足場が吹き飛んで、重大事故になる未来しか見えないわ」


 酷い評価だ。事実だけど。


 そんないつもの感じで、階段を探して下りてを繰り返していて、ふと視界に妙な物が映り込んだ。


 何だろう。単管パイプ人間?

 1メートルほどの単管パイプに、可動継ぎ手を無理矢理組み合わせて、手と足だけがある単管パイプの人型。それが、足場板を担いで歩いている。

 しばらく見ていたら、少し先の空いた空間に足場板を置いて、どこかに去って行った。


 そういえばこの階、まだ完成していないのかスカスカだ。

 切れ目まで行って下を覗いたら、ここから下はまだ足場の骨組みだけのようだ。


「よし、ここからなら下りていけそうだ」

「ねえイブキ、あの単管パイプ人間はいいの?」

「ちょっと私が、お話を聞いてきますね」

「ちょ、ブロンデ――」


 放置しようとしたのに、ブロンデが行った。

 完全に単管パイプジャングルを、お猿さんのごとく下りる体勢になっていたのに、止まらざるを得なかった。ブロンデめ。


 そうして待つこと1時間。

 ブロンデ、どこに行った?


「さすがに……遅いわね。まあ、ここまで待つイブキもイブキだけど」

「え、僕。ミモザとお話しいただけな気がするんだけど」

「ええ、確かに。それはそう」


 ちょうど、階段持ちの単管パイプ人間が通りがかったので、手を上げて止めてみる。何となくだけれど、僕に気づいた感じで止まってくれた。すごいな、どこで見てるんだろう?


「あのさ、うちの連れのブロンデってのが、君ら探しに行ったんだけどさ――」


 聞いてみたところ、何となくジェスチャーで判明したのは、休憩室にいるとのこと。アホかと。ミイラ取りがブロンデになっているじゃないか。


 ミモザと顔を見合わせて、ため息をついた。


 単管パイプジャングルを一旦諦めて、その単管パイプ人間に付いていくことにした。




「あ、イブキ様。聞いてください、この方達なんですけど、ナナナシアさんが生みの親らしいです」

「まず先に、報告しに帰ってこような」

「ブロンデ、あなた今度は何飲んでるのよ……」

「これですか? 液化ヘリウムです。のどごし最高ですよ」


 しばらく歩いた先。足場の一部がコンパネで囲われていて、扉を開けた先にパイプ人間と和んでいるブロンデを発見した。

 そうして僕たちが休憩室に入ると、すっと立ち上がっていつもの定位置。僕の半歩後ろに移動する。つまり、ここに何かがある?


「その……液体ヘリウム、沸騰していない?」

「ええ。このなんとも言えない沸騰した液体ヘリウムを、グッと喉に流し込むのです。イブキ様もいかがですか?」

「さすがの僕も、身体の中まで人間辞めてないよ」

「でもイブキなら飲めそうなのよね。何の気休めにもならないわ」


 ミモザ酷い。


「ところで、単管パイプ人間さんとお話しして、色々と分かったことがあります」


 そうしてブロンデが、額にある機人の衛星から機人に運ばせたのは、ホワイトボード。そして書き始めたマーカーは、マイナス250度でも書ける、特殊なマーカーらしい。何だそりゃ。


「まず、ナナナシアさんは、非常に衰弱しています」

「……書かなくて、よくね?」

「しっ、駄目よイブキ。雰囲気、台無しじゃない」


 そうしてすらすらと書かれていく線文字は、読めない。そもそもが、どこの言語だかすら分からない。


「あと色々と端折りますが。一番下にいるみたいで、この単管パイプ人間さん達が、せっせと下に向かって足場板と階段を繋げて、ナナナシアさんが上がってこられるように準備している所みたいです」

「端折るとか。意味なくね?」

「普通に、見れば分かるわね……」


 確かに、そう。


 休憩が終わったのか、単管パイプ人間達が休憩室から、右腕パイプを振りながら去って行った。




 単管パイプ人間達を見送って、僕らは少し考える。


「状況確認しようか。まず、何でナナナシアは魔力無いんだ?」

「知らないわよ。おおかた、元々枯渇気味の所に、魔術塔の移動でコアとの接続が切れたんじゃないかしら」


 なるほど。原因は僕か。


「それなら、どうしてこの足場が組めたんだろう? 単管パイプ人間を生成するのにだって、魔力使うよね?」

「恐らくですが、一時的に、魔力が注がれたのではと。具体的には、イブキ様の魔力とか」

「あー、もしかして扉を直した――」


 つまり、またもや僕か。


「ちなみによ、イブキ。あの月に落ちていった虹色雫、イブキの魔力だったわ。今頃、月が大変なことになっているかも」

「え、マジで?」

「いま思い出したのよ。何だか知っている魔力だとは、思っていたのだけれど」


 さらに因果の起点は僕と。

 これはもう、一級戦犯じゃなかろうか、僕。


「で、でも。月の雫は落ちてくるよね?」

「ここまで辿り着ければね。可能性の話、あの地下都市で止まるか。もしかしたら弾かれるわ。あそこにも、イブキの魔力がしみ込んでいるわ」


 ……責任重大だ。


 まとめると。ナナナシアを救出して、地下都市を越えて地上まで運ぶ。そこまでやらないと、何だかまずいことになりそう。

 あれ、まとめる意味すら無かった。


 そうして僕らは、単管パイプジャングルで、猿になった。




 単管パイプジャングルに囲まれて、小さな家がポツンと建っていた。


「現在、マイナス1250度です。絶対零度を超えましたね、おめでとうございます」


 想定を越えて、灼熱の空間が広がっていた。

 絶対零度の向こう側は、灼熱の世界だったらしい。


「こんな過酷な場所に、ナナナシアがいるのか?」

「イブキの未来視ではどんなだったの?」

「普通に寒い場所に――」


 周りを見回す。

 単管パイプが、真っ赤になっている。空気が揺らぎ、超高温な場所だってことは分かる。


 そしてここは、冷やすことができない。


「もう、僕の魔法でなんとかしていい?」

「ここまで来れば、諦めが付くわ。やっちゃって」

「ワクワクしますね。特等席です」


 僕は両手をを大きく広げる。


 さあ僕の魔法、奇跡をおこすんだ。


 世界が、呼応する――


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