表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけが、ハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ルナリア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/99

83.エレベーター直下の建物

 エレベーターに併設された建物は、豆腐だった。


「待ってイブキ、さすがに豆腐建築は言い過ぎじゃないかしら」

「僕、そこまで言っていないよ?」


 真っ白な立方体。窓はなく、あるのは入り口の横スライド式の自動扉のみ。その扉ですら、真っ白という徹底ぶり。

 入り口がガラスじゃないんだよなぁ。もしかしたら、それだけセキュリティが対策された、重要な施設だったのかも知れない。


 そうして扉の前に立つと、予想通り左右にスライドしていく。


「受付があって、応接セットもあるな。大型の業務用コーヒーマシンまであるとか」

「つまり作ったのって、地球出身の誰かってことかしら」

「表示されている言語は日本語ですが、これ自体は特別不思議なことではないですね。むしろ英語表記がないのが不自然です」


 そういえば、ずっと日本語で会話している。

 ルナリアだってそう。イブキもアンジェリーナも、何ならトレントとだって会話は日本語だった。

 そして、コーヒーマシンのパネル。普通なら『HOT』とか『COLD』と書かれているはずの場所は『熱い』と『冷たい』だった。


「つまり、何で日本語?」

「恐らくですが、何者かによって統一された共通言語かと。逆に、魔法的な機構は英語のようです」


 そうしてそのコーヒーマシンの本体扉を開いた先、プレートに刻印された文言は、確かに英語だった。


『This is a large commercial coffee machine.』


 そのまんまかよ!?


 何だか釈然としない物を感じつつ、扉を閉める。確かに、動いているよな。


「その一文で魔術が発動して、実際にこの機械が稼働しているのね」


 そう言いながら、ミモザがコーヒーが注がれたカップを取りだして、応接テーブルに並べはじめた。

 香ばしいコーヒーの香りが部屋に広がる。


 ふと見上げて視界に入った直管の蛍光灯は、見なかったことにした。きっとどこかに書いてあるよね、『This is a fluorescent light.』って。


「イブキ様、成分解析しますか?」

「大丈夫だと思うけれど、一応お願い」

「了解しました」


 そうしてカップを持ったブロンデが、そのままコーヒーを飲んだ。


 いや、飲むのかよ!?

 って言うか、機械のブロンデが飲み物を口に運ぶ姿、初めて見たんだけど。


「モカが基本の、ブレンド系のコーヒーですね。あっさりとした後味が特徴的で、酸味は抑えられています。ミルクを加えると、飲み味が柔らかくなると考察します」

「ミルクのボタンあったから、もう一杯入れるわ」

「ありがとうございます、ミモザ様。お願いします」

「……??」


 いったい、何が起きているのだろう。


 おかわりを普通に口に運ぶブロンデと一緒に、ミモザも普通にコーヒーを飲み始める。

 首を傾げつつも、僕もカップを口に運んだ。


 うん、コーヒーだ。

 もっとも、僕にその違いなんて分からないんだけれど。




 気を取り直して、部屋の中を見回してみる。


 空の鉢には、観葉植物が植えられていたのかな。中を覗くと、土だけが入っていた。

 他には、奥にある重厚な両開きの扉だけ。最低限度のものしか無い印象だ。


「奥よね」

「億ですね」

「なんか今、ちょっとニュアンス違ったよね?」


 そして扉は、開かない。


 押しても引いても、それに横スライドかなって思って、思いつく限りの方法を試してみたけれど開かない。

 いや困ったな。ここで詰まるとか。


「そもそもです。これは本当に扉なのでしょうか?」

「ああっ、それだ!」


 そうだ。そうだよ。

 扉があるから、扉だって思うだけ。実際には扉じゃないなんて、こういう機密っぽい施設だと当たり前のギミックじゃないか。


「待ってイブキ、何が分かったのよ」

「扉はたぶん、ここじゃない」

「どういうことよ。壁でも開くって言うの?」

「いやむしろそれかも」


 入り口から入って真正面にある、扉っぽい壁は開かない。

 中央に応接セットがあって、その後ろにあったのが植木鉢だ。向かって右の壁際に受付があるんだけれど、何で壁際にあるんだ?

 湾曲していて、その奥の壁には受付自体を回り込まないと、辿り着けない。


 そこか。


 受付を回り込んで、壁――の前に、受付の裏側を見て、足が止まった。


「普通にボタンがあるんだ……」


 正面扉。

 給湯室。

 仮眠室。


 うん、何となく知ってた。ここ、普通の設備っぽい建物だもの。何で僕は、勝手にギミックがあるって思い込んでいたんだろう。

 実際に、ギミックはあったけれど、ごく一般的なギミックだった。


 ブロンデが反対側の壁際を調べ始めたタイミングで、仮眠室のボタンを押す。


「イブキ様、部屋を見つけましたよ」


 ブロンデの前にあった壁がスライドして、奥にある部屋が露わになる。

 訝しんだミモザが受付を回り込んだタイミングで、給湯室のボタンを押す。


「……イブキ?」

「扉が開いたよ?」


 給湯室の扉が開いたことで、ミモザも意味が分かったらしい。苦笑いをしながら側に来て、正面扉のボタンを押した。


 奥の扉が開いた。


 やばい、面白いぞ。


「面白くもなんともないわよ?」

「……ごめんなさい」


 そうして僕らの探偵ごっこは終わりを迎えた。




 正面扉を通過すると、階段の踊り場だった。折り返し階段が、下に向かって続いている。


「ねえ、この階段。最初に塔から地下都市に降りる時に、延々と下った階段と同じ気がするわ」

「設計者は一緒だと思われます。階段の幅、段差の高さまで、ほぼ同一規格で形成されています」

「え、ブロンデいつの間に解析したの?」

「歩けば分かりますよ? イブキ様には無理そうですが。ぷぷー」

「そうか機械だもんな。さすがブロンデ」

「……失敗しました。やり直しを要求します」


 しかし、相変わらず長い。

 気の長くなるほどの折り返し。真ん中の吹き抜けから覗いても、上にも下にも正方形の空間が、遥か遠く霞んでいる。

 明かりは壁に灯っている薄暗い明かりのみ。途中から魔力視が起動して視界がクリアになった。ミモザとブロンデの分の魔力視も、忖度魔法さんにお願いしておく。


 そのまま、どうでもいい会話をしながら階段を下っていくと、何となく肌に感じる温度が変わってきた気がした。

 少し、寒くなってきたか?


「地中深くって、暑くなるんじゃなかったっけ?」

「そうですね。現在は地下五千メートル付近ですから、理論値としては150度は超えていてもおかしくありません」

「……もう、そんなに深くまで潜ったのね」

「待って、もう少し頑張れば星の中心?」

「イブキ様、桁が違います。中心部は6400キロ。遥か、先ですよ?」


 そうして気の遠くなるような下り階段にあったのは、また想像を超える建築物だった。


 いや、これは建築物と言っていい物なのか?


「建築現場の……足場?」

「単管パイプを継ぎ手で組み合わせて、足場板を渡し、簡易階段までありますから、そうです。ここが工事現場です」

「しかし何だこれ、足場の迷宮?」


 その足場の一番上。

 見渡す限り遥か彼方まで組まれた足場。それがさらに遥か下まで、複雑に組み合わされている。そして、その足場に霜が付いていた。


 ふわっと、防護膜の魔法が起動した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ