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僕だけが、ハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ルナリア編

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82.迸る光の奔流

 重い水をかき分けて、螺旋階段を下っていく。

 ここが青い色の中なのに、肌に風の流れを感じる。


「イブキ、本当に防護膜の魔法、使っているのよね?」

「うん。でもちょっと挙動がおかしいかも」


 魔法のイメージとしては、肌にぴったり張り付いている、膜をイメージしているんだ。だから、隙間なんてないし、空気の流れだって感じられない。はずなんだけど。


 肌に風を感じる。

 そして鼻に薫るのは、青。


「待って、青って何さ」

「ちょっとイブキ、いきなりどうしたのよ!?」


 立ち止まった僕に、後ろから下りてきていたミモザがぶつかってくる。

 なぜか今回、先頭を歩いているブロンデが振り返って首を傾げた。


「ミモザって普通に嗅覚あるんだよね?」

「えっと、それは何か試している系? では無さそうね。ええ、普通にイブキと一緒の感覚だと思うわよ」

「だったら今、鼻から感じる匂いって、青じゃない?」

「だから、青って何!? ても、言われてみれば……た、確かにそんな気がするわ……」


 視界を埋め尽くす透明な青は、下に下りるに従って色味が徐々に薄くはなっている。ただ、嗅覚に働きかけてくる違和感は、徐々に強くなっているんだよな。

 今、肌を流れるのは、ざらつくような風。


「イブキ様、もしかしたらプラシーボ効果かも知れませんよ?」

「んなわけ――あるのか?」

「使い方の間違いには、突っ込まれないのですね……」


 思い切って、僕の防護膜だけ消してみる。


「ちょっ、イブキ!?」


 肺の空気が泡になって抜けていく。視界が青に染まり、すぐに透明に変わった。

 溺れる感覚は一瞬で、すぐに水で呼吸ができることに気がついた。これって、もしかしたら――。


「エリクシル?」

「そんなわけ無いじゃない、あれはイブキのいた時代の、桃華さんの発明品なのよ。こんな所にあるわけがないじゃない」

「でも、僕は今。呼吸している」

「……ど、どうなっているのよ」


 そして、当たり前のようにミモザと会話ができる。

 さっきまでの肌を抜ける風がなくなって、自然な空気みたいな凪いだ感覚になった。いやこれ、本当にどうなっているんだろう。


 ミモザの意思も確認して、解除。

 一瞬。溺れる様子を見せるも、すぐに水で呼吸を始めた。


「ほ、本当に、水で呼吸しているわ……」

「つまりあれですね。私たちの解析が正確ではなかったと」

「でも、間違いなく純水だったんだよね?」

「はい。成分組成は純水、ですが申し訳ありません。魔法的ななにがしまでは、解析はできません。問題はここでしょうか」


 つまるところ、ここは地下都市の本質に向かっている。そういう意味なんじゃないかな。


「でもイブキ、エリクシルだったら紫よ?」

「そうなんだよなぁ……」


 念のためもう一度、僕とミモザに防護膜の魔法をかける。

 それから、再び重くなった青をかき分けるようにゆっくりと、螺旋階段を下りていった。




 螺旋階段の終点は、両開きの扉だけある小部屋だった。

 両隣にある壁の松明が、青い炎を揺らしている。


 不思議に思って魔力視を切ると、青い明かりが暗闇を照らしていた。これ、意味があるのか?


「演出にしては、稚拙なんだよな」

「また魔力視を切ってみたのね?」

「うん。青い炎の明かりがさ、この扉付近だけ照らしていた」

「つまりここは、生きて……いるのかしら?」


 唾を飲み込む音が、大きく聞こえた。

 この扉の先に、ナナナシアがいる。もしくは、もっと別の何かが――


「まあ、開けましたけど」

「おい嘘だろ?」

「い、イブキっ!?」


 僕とミモザが抱き合って慄く中、ブロンデだけがさっさと扉の先に歩いて行った。

 しばらく動けないでいると、部屋の入り口からブロンデの顔だけが、ひょこっと出てきた。


「お二人とも、来ないのですか?」

「逆になんで行けるのさ」

「だってここ。重要施設の地下ですから、別に罠とかないですよ。それにどうやらここは、コアルームみたいです」

「コア……ってことは、ダンジョン?」


 ミモザと抱き合ったまま、ゆっくりと扉をくぐる。


 そうして見えたのは、床に転がった青い宝石。僕の身長ほどもあるそのダンジョンコアが、ゆっくりと明滅していた。

 さっきより、身体の動きがが重い。まるで、砂の中をかき分けながら進むような、そんな重さが身体にかかる。さすがにこれは、退くべきか。


「ミモザ、下がろう。ここは目的地じゃ無さそうだ」

「そうね。それがいいと思うわ」


 僕はミモザを抱きかかえて、全身に魔力を回した。


 そして僕の身体の動きが、世界が静かに止まる――




「なるほど、既に吸われていたと。そういうことですか」


 浮き上がったダンジョンコアが、ゆっくり回転しながら徐々に輝きを増していく。

 光が壁を照らし、幾筋もの光のラインが天井に向かって走り出した。


 そんな光景を、僕とミモザは動けないまま見ていた。


「お二人とも、失礼しますね」


 ミモザを抱きかかえる僕を、ブロンデが抱きかかえた。そして颯爽と、螺旋階段を駆け上がる。


 周りが徐々に白く染まっていく。


 螺旋階段を、青い水を飛び出したブロンデは、そのまま建物の外まで駆け抜けた。


 迸る光が視界を白く染める。


『ありがとう――』


 遠くで、そんな声が聞こえた気がした。




 地下都市が、その景観を取り戻した。


 ブロンデに運ばれた僕らは最初の落下地点、エレベーター直下の建物まで退避していた。

 風が木立を揺らす。

 今もあの、僕らが最後に調べていた建物から、絶え間なく光が吹き上がっている。その光が落ちるたびに、緑が芽吹き、世界が色を取り戻していく。


 建物がすり鉢のちょうど中間くらいにあるからか、そんな鮮やかに変わっていく様子がよく見えていた。


「結局さ、何がどうなってこんな状態になっているんだ?」

「もしかしてあの青い水自体が、何らかの魔法組織だったのかしら?」

「イブキ様。これは私の推測なのですが――」


 あの青い水は、最下層のダンジョンコアが精一杯手を伸ばしたような、そんな状態ではないかと。

 そんなブロンデの言葉に、思考が追いついた途端にゾッとした。


 水中でも大丈夫だと、防護膜の魔法を断ったブロンデは、ずっと水の中を普通に行動できていた。機械だから呼吸の必要が無くて、同時に水中ではないような違和感だけは最初から感じていたそうだ。

 僕とミモザが、水中で明らかに動きが重くなったのを見て、その時点で吸収されている可能性は感じていたらしい。


「つまり、僕らは魔法を使って水に入った時から、魔力を吸われていたと?」

「そんな感じでしょうか。私は魔力を扱えないので、状況とあと目の周りが重くなった状況からの、推測でしかありませんが」

「だとするとよ、イブキが未来視で見たって言う、そのナナナシア? は、どこにいるのかしら」


 そうなんだよな。

 明らかに重要そうな施設なんて、あの今も光を振りまいている中心の建物だけ。他に大きな建物なんて無い。敢えて次に大きいとするなら、ここか。


 ……ここ?


「ねえ、イブキ。どうしてこのエレベーター直下の建物周りだけ、植物が生えてこないのかしら」

「確かにそうですね。まるで、ここだけ管轄が違うとでも言わんばかりに。それに倒れたエレベーターの周りには、普通に木が生えてきていますよ」


 これこそ、灯台もと暗し。


「もしかして、この建物?」

「……それは、盲点だったわね」


 そんな僕らに何かを告げたいかのように、エレベーターのボタンが明滅を繰り返していた。


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