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僕だけが、ハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ルナリア編

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76/99

76.南極の巨塔

 巨大な塔なのに、入り口が小さすぎる件について。


 防護ロボコンに乗り込んで、意気揚々と塔に向かった僕らを待っていたのは、あまりにも悲惨な現実だった。

 物理的に、通ることができない。


 そうして小型船に出戻った僕らを待っていたのは、ルナリアの涙に濡れた顔だった。いや何か、ごめん。


『本当に、置いて行かれるとは思っていなくて。私、もうどうしていいのか分からなくて――』

「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったのよ」


 それは、どんなつもりだったのか。


 ミモザの胸の中で服を濡らすルナリアを見ながら、思った。不謹慎だけど。

 もっとも僕だって、放置して出かけたことには変わりないから。やっぱりそんなつもりじゃなかった、って言うんだろうな。ごめん、ルナリア。


 ブロンデの指示で、工作機人に防護服を作って貰っている間、今はもう懐かしい、防護ロボコンを見上げていた。


 はっきり言って、大きい。

 そもそもが防護服を着た状態で、背面ハッチを開けて乗り込むんだから、単純に体積倍々ゲームなんだよな。そのかわりに、中の人は二重の安全を確保出来る。

 当然ながら、普通には動かせないから、ダンジョンの技術は使っている。ついでに、動力自体はエリクシルだから、ロボット然とした機械でもあると。もう何でもありで、色々とハイブリッド感は否めない。


「イブキ様、防護ロボコンを小型化しますか?」

「それは、無しかな。これはこの大きさだからこその、ロマンなんだ」


 分かってて聞いたんだろうな、振り返って見たブロンデの顔は、なんだか嬉しそうだ。


 まあそりゃそうか、戦艦級頼んだら月超えサイズが基本だもんな。

 小型船ですら超大型戦艦だ。規模が違う。


「そもそもなのですが、防護服すらも着用不要ではありませんか?」

「魔法で? でも、あの忖度魔法は僕が意識して使っていないから、安全性が確実に確保できるとは言えないんだ。信頼はできるけれど、信用はできない」

「過去にも、別の世界線で何度も魔法一辺倒の世界も経験しているのですが……」

「そういえば、色々な世界を記録しているんだっけ」

「そのうえで、イブキ様の魔法は異常だと。確たる意思を持って、イブキ様をサポートしている。何て言いますか、母性のようなものを感じます」


 確かに、いい意味で裏切られる場面はあれど、常に僕の魔法は僕に寄り添ってくれているし、たぶんこの先も。

 そうか……そういう、ことなのか。


「だったらこの魔法は、僕の家族か。信用、できるじゃん」

「魔法が家族……ですか、それは私も……?」

「何を今さら。ブロンデだって、大切な家族さ。そこは、譲れない」

「……ふふふ、イブキ様らしいですね」


 リリィーン――


 澄んだ音色が、辺りに響き渡った気がした。

 でもそれは気のせいなんかじゃなくて、泣いていたはずのルナリアも、そして優しい笑顔のミモザも僕の方を見ていて、たぶんこの瞬間。全員が聞こえている。

 何なら、ブロンデと違って感情を見せないはずの機人までもが、手を止めて僕の方を見ている。


 家族、増えたなぁ。

 でも何だか安心する。


「ミモザ、行こうか」

「頼んである防護服がまだよ、それでもいいのかしら」

「いいよ。みんな僕が、僕たちが何とかするから」

「分かったわ。ルナリア、行くわよ」

『えっ、わ……私の、防護服は……?」

「いらないわ。そもそもそんなもの、家族の信頼に比べたら塵芥よ」

「私は、元々いらないんですけどね」


 頼むよ、僕の魔法。


 そうして、ぐずるルナリアをなだめつつ、僕らは着の身着のままで再び外へ。

 機人達に手を振られながら、その過酷なナナナシア星に足を進めた。




 塔の中は、凪いでいた。

 若干、温度は低め。らしいんだけれど、ブロンデ以外の3人を包み込んでいる魔法の防護膜が、僕らをきっちり守ってくれている。

 なるほど、これが僕の魔法か。


「現在の塔内気温はマイナス80度ですね。とても快適ですよ」

「いやそれ、普通に極寒だよね!?」

「ブロンデ基準だと、ちょうどいいかもしれないわね。でもこれだと、ここの施設には――」


 上を見上げれば、遥か彼方まで吹き抜けの空洞になっていて、この塔が開いているのか閉じているのかすら分からない。2キロ先って、見えないもんなんだな。

 壁に沿って螺旋状に階段が上まで伸びている。でもたぶん、僕たちの目的地は上じゃない。


『エレベーターは、動力が落ちています。落ちるはずが、ないのに……』

「動力源は何かしら?」

『この星のコアは、私と同じダンジョンコアなのです。そしてここは、その管理施設――』


 つまり、全ての力が落ちている。

 世界がおかしいのも、もしかしてそのせいなのか?


 中央に鎮座している正方形の建物が、地下に繋がる唯一の入り口なんだけれど。必死でボタンを押すルナリアは、焦りからか少し顔が歪んでいる。

 星自体がダンジョンとか。月にいた時も同じだったから、この仕様自体が世界の標準なんだろうな。


「でもダンジョンだったら、ダンジョンマスターとかいるんじゃないの?」

「そうとも限らないわよ。現に、ダンジョンコア自体に意思があればマスターは不要。マスターがいれば、より安らいで安定はするけれど」

「惚気ですか? とっても甘い空気が充満していますよ?」

「それならブロンデ、おやつはいらないわね」

「せめて四時には、遅めの物をください。モチベ下がります」

『何なのよ、この人たち……』


 そっと、エレベーターの扉に触れる。

 確かに冷たい。一瞬、冷たさに手が張り付くも、すぐに冷たさが引いていく。確かにこれは極寒なんだろう。

 でも、感じられる程度に魔法が気を利かせてくれている。


 ボタンも押してみたけれど反応無し、と。


「他に、入り口とかないのかな?」

「普通なら非常口とかあるはずよ。建物の後ろ側とか?」

『あります。あるはずです』


 そうして建物の後ろに回る途中で、異常に気づいた。


「ひしゃげた扉が、地面に転がっていますね」


 それに何か、ちょっと焦げ臭い様な気がする。

 飛び散った瓦礫が扉の先に散らばっていた。まるで何かが爆発したような。それに何故か建物を含めて、瓦礫、扉が。


 ――色を失っていた。


 とっさに駆け出したルナリアが、両手を口に当てて止まった。

 追いついた僕らが見たのは、真っ白なナニカ、だった。


『れ……レイジ、さん?』

「ブロンデ、急いで担架を――」


 ブロンデの額の宝玉が輝き、担架を持った機人が二機飛び出してきた。わずかに身じろぎしたその、レイジらしきその塊を、みんなでゆっくりと担架に乗せた。

 たぶんだけど、まだ間に合う。間に合わせることができる。


 そして、僕らは再び小型船に出戻ることになる。


 ……その前に。


「なあ、この入り口って一旦修理してもいいかな?」

「イブキの魔法で? いいと思うわよ」


 そっと、建物に触れる。


 思い出して。元の姿を。さあ、再生の時間だ。


 建物が、淡く輝いた。

 扉がふわりと浮かび上がる。


『あの……何で扉が、逆再生で戻っていくの……ですか?」

「イブキ様の、仕様ですからね。その辺は諦めてください」

「いや、仕様って何だよ」


 焦げ臭かった匂いが、空気中に融けて消えていった。


 そして建物は、元の形を取り戻した。


 さあ、怪我人の治療をしなきゃ。


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