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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ルナリア編

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74.僕の覚悟

 螺旋階段の終点にあった、何か膜のようなものを抜けた先は、宇宙空間だ。

 喧噪がピタリと止んだ。完全なる静寂。


 僕の魔法が忖度して、僕とミモザを包み込む防護膜を形成する。

 本当は、防護服があれば最高だったんだけど、前の世界で大樹に突入した際に、砕け散っちゃったんだよな。新しく作っている時間もなかったし。


『かっ……はっ――』

「無理ですよ。生身での宇宙空間は、命を落としますよ?」


 後ろではルナリアが、膜の向こう側に押し込まれていた。そんなブロンデは、久しぶりの宇宙空間に、絶好調みたい。肌が虹色に輝いている。

 会話の音がこっちに届くのは、たぶん僕の魔法。だから、僕らの声は今、ルナリアには届かない。


『ですが、イブキさんとミモザさんは、宇宙空間にいるじゃないですか』

「あの二人は、特別なんです。一緒になんてなれませんよ?」

『でも私は、あなたの残滓なのですよ。それにイブキさんの魔力も頂いています。少なくとも、同列だと思うんですが』

「それは……闇より深い深淵に。最初から、無かったことになっていますよ」

「いや、言い方」

「置いていけばいいのよ、あんな人……」


 たぶん、容姿だけじゃ駄目なんだと思う。


 そうして思い出す。

 あの言い方は、ちょっと卑怯じゃないかな、って。




 ルナリアの発言の後にできた、静寂。

 噴水広場に設置した、特設会議室は異様な雰囲気に包まれていた。


 首を傾げる僕に、目を瞑るブロンデ。

 そして、ミモザの大きなため息が、横からはっきりと聞こえた。


「それで、わたし達に何を期待しているのかしら?」


 少しだけ、ミモザの言葉に苛立ちが混じっている。何て言うか、いつものミモザと雰囲気が違う。どうした、何があった?


『いえ、お二人が螺旋階段を上っていった時に、後ろから付いていったのを視ていました。関係者なのでしょう? あれがナナナシアから来た異分子であると、前々から気づいてはいましたが』

「その話は、今はどうでもいいのよ。それで本題は?」

『いえ、全く無関係ではないのですが……』


 苦笑いを浮かべるルナリアは、ちょっとだけ呆れが混じっているように見えた。何だろう、この互いに話が通じていない感は。

 前にもあったな、あれはここでアンジェリーナと話をした時か。何だか同じ様な状況に、ちょっと戸惑う。


『月と七星との循環が滞ったことで、力を搾取された肉体が限界を迎えつつある――はずなんです。そのための接触だったのでしょう?』

「待って、それってどういうこと――」

「ごめんイブキ。今日は……」


 そっと添えられたミモザの手は、いつもより冷たかった。思わず手を握り返す。喋らない方がいいのかな。

 視線をブロンデに向けるも、目を瞑ったまま身じろぎすらしない。


『私を、この身体を持って行き、そして直接補填する。そう言う話が為されたと、認識していますが』

「それで?」

『いえ、その……私が力を失っていて、雫が落とせなくなっていたのは間違いありません。イブキさんのおかげで力が戻り、それでも間に合わない。だからこそ私を作り出したのでしょう?』

「ええ、それで?」

『私をナナナシア星に連れて行けば、悲願が叶います。同行の許可を』

「好きに、したらいいわ」


 できれば、同行して欲しくない。そう思った。

 なんだろう。話が通じるような気がしない。独善的にも見えるし、そもそも僕らは。僕たち二人と一機は、帰りたいだけなんだ。


 まあ……その、帰る方法は模索中なんだけど。


『イブキさん』

「ああ、はい。何でしょう?」

『アンジェリーナさんを、助けてあげてください。家族なんですよね?』

「まあ……うん。そう、なのかな?」

『言質は、取りましたからね』

「うん?」


 言質って、何なんだろう?




「ですから、ご自分で考えたらどうですか?」

『普通ならば、宇宙空間に出るためには宇宙服が必要ですよね。もしかしたら、あちらのお二人は、着ている?』

「いえ、着ていませんが。その目は節穴ですか?」


 僕が回想していた間も、一機と一体の攻防は続いていたんだけど。何でブロンデは、あそこまで頑ななんだろう。


「ねえ。イブキは、どうしたいのかしら?」

「どうしたい、とは?」


 ペンチに並んで座って、僕の肩にもたれ掛かっていたミモザが、思い出したように呟く。

 言われて、何も考えていなかったことに気づいた。


「アンジェリーナも、ルナリアもそう。イブキに『主人公』としての動きを、当たり前のように期待している。それがどれほど身勝手で、独善的であるかに気がつかずによ」

「それは……うん。そう、かも」

「その上で、聞きたいのよ。たまたま事故でここにいるだけなのに、イブキが平穏を望んでいるだけなのに。それ以上を望まれている」

「僕に、力があるから……?」

「力なんて、いくらでも示せるのよ。あの程度のしょぼいダンジョンなんて、簡単に掌握できるわ。ブロンデだって、機人の衛星を投入すれば、物量で一気に殲滅可能よ。イブキだってそう。全力で魔力を放出するだけで、全てを思い通りにできるわ」


 紛うなき、チート集団。

 でも、と。少し視線が揺れる僕を、しっかりとミモザが抱きしめてくる。


「イブキが行くなら、付いていくわ。ブロンデだって同じよ。だから、そんなに悲しい顔はしないで――」


 僕の、覚悟が足りなかった。

 それだけのこと。


「ブロンデ、駆逐艦級。出せる?」

「お任せください。機人の衛星より、とっておきを出しましょう」

「お願いするよ。ミモザは、念のためその駆逐艦級をダンジョン化補強して、僕が魔力を全力で込める」

「ふふふ。いいわよ。ブロンデとの連携なら、たやすいわ」

「あとはまあ、おまけでルナリアは乗せるけれど、その身体は使わない。アンジェリーナだって、絶対に何とかする」


 僕の声が届いたルナリアの目が、大きく見開かれた。そのままぬるっと、世界樹のダンジョンを隔てていた膜から、飛び出してきた。


「だって僕は、わがままなんだ。家族は、絶対に失わない。そう誓ったんだ――」


 巨大な、月よりも遥かに大きな駆逐艦級の宇宙艦から、タラップが降りてくる。ミモザを横抱きに抱えて、その豪華絢爛なタラップに足を乗せた。

 振り返ると、いつものように後ろにブロンデ。その向こうに、尻餅をついたルナリアが、忽然と現れた巨大宇宙艦を見上げて大口を開けていた。


「ルナリアもほら、行くよ。理不尽は、理不尽で上書きするんだ。それが、僕たちのやり方だよ」

「ふふふ。強がっているイブキも素敵よ」

「そこは突っ込まないでよ」

「私も、本領発揮できる機会をいただき、ただただ感激しています。殲滅ですか? 殲滅しましょう」

「殲滅は、しないかな」


 ゆっくりと立ち上がったルナリアが、あほ面のまま首を傾げる。


『私は……なにか、夢を見ているのでしょうか……?』

「現実は小説よりも奇なり。有名な言葉だよ、もしかして知らなかったりする?」

『知って、いるわ。知っていてなお、現実感がないって言うか……』


 そうして僕らを乗せたタラップが、ゆっくり移動し始めた。


 月が、徐々に小さくなっていった。


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