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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ルナリア編

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71.月の呪い

 呆然と、姿を追う。

 僕に背を向けたアンジェリーナは、少し離れたベンチに座った。

 なんだか懐かしい笑顔で、隣を軽く叩く。一瞬、ミモザと顔を見合わせて、大人しく隣に腰を下ろした。


「まず先に今の私は、仮初めの姿だって言っておくわね」

「じゃあ、さっき消えたように見えたのも……」

「そうね。実際に消えていたはずよ」


 あの、噴水広場の違和感がそうだっていうのか。

 ミモザが立ち上がって、アンジェリーナの前に立つ。大きく息を吸って、一瞬、僕に視線を向けた。


「ねえ、イブキが観測者ってどういうことよ」

「そのままね。観測する者よ。ちなみに私はね、世界を見る者。そしてイブキの父、レイジは……貪り尽くす者――」


 空気が止まったような錯覚を覚えた。

 貪り尽くすって、何だよ。意味が分からないんだけど。


「かつてレイジ君はね、世界を破壊して回っていたの。その特性の作用で街を、都市を消滅させて、最後には世界までをも壊した。そして行方不明になったレイジ君は、長い年月かけて私の元まで戻ってきたわ。その時は、その悪い特性は治っていた」


 大きく息を吸い込んだあと、絞り出すように吐き出した。


「治っていたって、思い込んでいた」


 俯いたアンジェリーナの瞳から、一筋の涙が流れる。


「そしてわたし達の息子のイブキにその、破壊因子が継承されていたのよ。それを知ったのは、帝都の遺構を探索していた時……」

「遺跡探索とかを、仕事にしていたんだ?」

「ええ。過去の技術は、お金になったのよ?」


 アンジェリーナの前で腕を組んでいたミモザが、何度か口を開けて閉じてを繰り返した後、そっと僕の隣に移動してきて座った。

 そして肘で僕をつついてきた。何だろう? アンジェリーナの方を気にしつつ、ミモザに耳を寄せる。


「ねぇイブキ、これって何の話なの? 観測者が分からないままよ」

「僕にもわかんないよ。ミモザってもう、昔の記憶って残っていないの? そっち関係だと思うんだけど」

「もう、何も覚えてないわよ。でもイブキのおかげで、全然問題になっていないし、不便だなんて思わないわ」

「アンジェリーナさんにはさ、物知り顔で、何かズレていること言われている気がするんだけど……」

「私もそう感じているわ。どうする? 逃げる?」

「さすがにそれは。一応、イブキの母親みたいだし」


 僕にとっては、他人ごと。たぶん『イブキの何か』は継承しているんだろうけど、その程度の認識なんだよな。

 アンジェリーナは、そんな僕らに気づかずに独白を続けている。


「探索の最後に遭遇した、女帝スカーレットの紅い魔力禍に呑まれて、わたし達は消滅したわ。ミモザちゃんも一緒にいたから、知っているはずよ」


 そういえば、ミモザが東京湾の連絡船で、そんな話していたかも?


「ごめんなさい。あなたには、苦労をかけるわ。今までも、無限に破壊と再生を繰り返してきているのよね? そしてそれを観測するしかできない」

「……うん? ちょっと待ってよ――」

「みなまで言わなくてもいいわ。今朝だって、破壊された事象が、書き換えられていたわ。恐らくわたし達が遺した咎よね」

「……?」

「魔力は、月より涙となりて、七に零れ落ちる。そしてその逆もしかり。今は全ての鼓動が止まっている状態なの」


 待って、途中からやっぱり何か意味が分からない。


 僕が理解できずにアタフタしていたら、何かを悟ったらしい。輪郭が少し横にブレたアンジェリーナが、僕の頭を優しく撫でてきた。少しずつ、アンジェリーナの体が薄くなっていく。


「ごめんね、時間切れみたい。私はあの星。ナナナシア星で、待っているわ。ルナリアは、この世界樹の地下に――」


 何だか、中途半端に語って消えていった。


「いや、知らないし」

「イブキに同感よ。何なのかしら、これ……」


 魔法の防護膜越しに、何だか冷たい風を感じた気がした。


 残ったのなんて、意味不明な空気だけ。

 話だって半分くらいしか分からなかったし、この情報の使いどころも不明。

 ただ、利点はあった。


 ここは紛れもなく、宇宙空間だ。


 しばらくミモザと、螺旋階段と木の上を往復したけれど、特にここの場所が変化する様子は見られなかった。

 もし、ブロンデの機人としての能力が健在なら、宇宙に出られる。


 そうしてミモザと二人、慌てて迎賓館に向かった。




「ごめん、ちょっと道に迷った」

「大丈夫ですよ。これから晩餐会が始まりますから」


 辺りはすっかり暗くなっていたけれど、何とか間に合ったらしい。


 とはいえ、僕らが戻るタイミングが本格的に準備開始を始める合図だったらしくて、しばらく待合室で待つことになった。


「イブキ様、ミモザ様。お帰りなさい、こちらは準備できていますが――」


 待合室では、ブロンデが応接テーブルに腰掛けて待っていた。

 さっきまでアンジェリーナと会っていたから、今のブロンデの姿がうり二つなだけに、何だか違和感が半端ない。不思議そうに首を傾げるブロンデとは対照的に、僕とミモザは顔を見合わせて苦笑いだ。


「三つほど、月からの脱出案があります。念のために、防音処理は可能ですか?」

「よしきた、任せろ」


 今回の魔法のイメージは、部屋の6方を壁で覆う、魔法の壁。もちろん音は通さず酸素は通す。毒物劇物は遮断して、何かいい感じに余計な魔法もあれば遮断、排出だ。


 さあどうだ!


 やってくれました、僕の魔法。

 天井と床が真っ黒に染まり、四方の壁は暗幕が上から垂れて降りてきた。そして一瞬、部屋が完全に暗闇に染まる。

 天井から煌めくミラーボールが降りてきて、キラキラと輝き部屋を照らす。その周りを、三つの衛星が赤、青、緑に輝きながら回り始めた。


 いや、何でだよ。


「さすがですね、イブキ様完璧です」

「そう来るとは思わなかったわ、完敗ね」


 二人の評価が高いのは何故なのか。


「そ、それでブロンデ。何が分かったんだ?」

「はい。まず、内部に合法的に侵入した結果、分かったことですが。いつもの事象改変が起き、この世界樹が星を覆う今が、正史となりました」

「……うん、それは何となく」


 アンジェリーナも言っていたしね。


「そのうえで、星を出てあの惑星、ナナナシア星に向かう方法ですが。まず、潰れた案から。私が機人衛星が使えず、外に出て直接宇宙船で向かうことが不可能になりました」

「え、世界樹の螺旋階段から、外に出られるよ?」

「次に、時間はかかりますが宇宙ステーションからの連絡船を待ち、それに乗り込む。ただこれは、エネルギー不足から半年先が最短らしいです。ナナナシアの雫が落ちて来れば、出航可能で、それが半年後らしいです」


 何か、さっき聞いた気がするぞ?


「ほらイブキ、アンジェリーナさんが言っていたあの最後の句。何だったかしら、確か『魔力は、月より涙となりて、七に零れ落ちる。そしてその逆もしかり』だったような気がするわ」

「それだ!」


 あの話が、ここで出てくるとか。


「そして最後が、どこかに眠っている『ルナリア』を眠りから起こし、月の涙を落とす――」


 息を呑む。


 それは、最後に言っていた……。


 世界樹の根元。その地下だと。

 思わず、今日何度目か。ミモザと顔を見合わせた。


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