表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ナナナシア星編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/72

65.マシキの行方

 方舟の入り口は、無事残っていた。

 触れると、なぜか腰元からノイズが聞こえる。ジジッ、とかザザッみたいなやつ。


「反応は……しない?」

「あり得ないわ。ダンジョンなのよ?」

「中にいるはずの機人も、応答ありません。おかしいですね」


 何回かアクセスボタンを押すも、そのたびに腰元の携帯電話からノイズが聞こえるだけ。たぐり寄せて画面を覗くも、特に変わった様子はない。どうなってるんだ?


 しかし困ったな。入り口がここだけだから、現状だと方舟に入ることができない。

 扉から離れた僕に代わって、今度はミモザがボタンを押しているけれど、何も反応がない。心底、困惑した顔を僕に向けてくる。


 スッと、影が移動して月明かりが辺りを照らし出す。二機の防護ロボコンが、月明かりを反射して鈍く煌めいた。少し生暖かい風が吹いている気がする。

 肌に纏わり付くような重い空気が、呼吸すらも重く浅くしていく。


「見てください、大樹が――」


 ブロンデの声に海の方に視線を向けると、明らかに大樹が小さくなっていた。


「……違う。移動しているんだ、沖の方に。でもなぜ?」

「ドラゴンも同じ方向に移動していきます。目標は……大樹?」


 月明かりが移動していくに従って、空港の全容が見えるようになっていく。


 停泊ドッグに、要塞艦マシキがない。


 いや、違うな。確かマシキは人型に変形して、腕が吹き飛んで――


「どこに……いった……?」


 いや待て、思い出せ。


 なぜ、携帯電話からノイズが聞こえていた?


 なぜ、ミモザが触れた時は何も起きない?


「そういう、ことか?」

「イブキ、何かわかったのね!?」


 エレベーターの扉に、手を触れる。

 ノイズが走る携帯電話を耳元に。


『ジジッ……イブ……ガザッ……』


 微かに、僕の名前が聞こえた気がした。


「どうかしら」

「少しだけ……僕の名前?」

「もしかして、マシキなの?」

「分からない。でも、可能性は高い」


 だったら、できることなんて決まっている。

 ここは、方舟はダンジョンだ。ダンジョンなら、魔力のごり押しで何とでもなる!


『……キか? 少し遠……ザザッ……そこに……』


 魔力を込めると案の定、壁のようなものに弾かれる。

 だったら尖らせるんだ。細く、針のように細い魔力がスッと、その壁を通った。そして奥で広げて引っかけて、ゆっくりと広げていく。


『ザッ……おや? 音がクリアになりましたね。そこにいるのは、イブキですか?』


 マシキだ!


「ああ、僕だよ。何が起きている?」

『まだ少し遠いですね。でも、問題ありません。こちらは、舟ですね。恐らく、星の防衛機能が働いたのでしょう。予期しない異常が多発しています』

「艦か、停泊していた……違うな、人型に変形していた要塞艦が見当たらないけど」

『その艦であれば、海ですね。いまも戦っていますよ』


 もしかして、あの大樹が要塞艦なのか?

 扉に手を触れたまま、海の方に顔を回す。駄目だ、かなり小さくなっている。


『ちなみにですね。私は舟の中にいます。ちょっとダンジョンコアが不安定ですが、イブキたちが来てくれるなら、安心ですね』

「ああ、待ってて。すぐに行くから」

『……え? ちょっと、どこに行――』


 マシキが何か言いかけていたけれど、細かいことは合流してからで。


 そして僕らは、再び防護ロボコンに飛び乗った。




 夜の森が遥か下を流れていく。

 僕らは、大樹――要塞艦マシキを追って、東へ飛んでいる。


「追いつけるのか?」

「全然近づいている気がしないわね、海に出るわよ」


 やがて、視界が白んできた。

 海面が煌めいて、大樹から伸びた長い引き波が、広く視界を埋め尽くしていた。夜が、一気に明けていく。


「後方でこの規模です。まずいですね、進行方向は……」

「大津波?」


 なかなか追いつけないジレンマに、無駄に話題を探している。


 何で追っているんだろう。

 マシキって、ただのプログラムじゃん。


「モモカさんが作ったから、じゃないかしら? それに私も、過去に製作に協力していたわ。たとすれば、マシキのこと家族だって。そう感じてるからじゃない?」

「そうかな、そうかも。行かなきゃって、柄にもなく思ったし」

「それでいいと思います。イブキ様らしい、短絡思考は賞賛ものです」

「……胸が痛い」


 ドラゴンが波間に沈んでいく。

 泡立つ波音だけが、水平線に見える大樹まで続いている。どうしよう、届かない。


「確かに、焦るわよね。でも今だって航空機並みの速度出しているわ。じきに着くはずよ」

「私は、錆が心配です」

「いやブロンデ、ここはボケなくていい」

「錆が落ちました」


 影が差す。


「ミモザっ! ブロンデも、急いで反転だ!!」


 強烈な悪寒に、急制動をかけた。

 僕の声に気づいたミモザとブロンデが、同じように止まり、全力で西へ。


 影が濃くなる。


 直後。


 一層濃くなった影のあとに、数十キロに広がった大樹の傘が、海面に叩き付けられた。大波が、壁になって僕らに撃ち出された。ヤバい、ヤバいって!!


「イブキ様、上に――」

「ミモザっ!」

「任せるわっ」


 魔力の手が射出されて、ミモザとブロンデを包み込んで、一気に引き寄せた。そして、弾かれるように上に飛んだ。


 強烈な加速に、呼吸が詰まる。

 自分を、守ることを忘れていた。飛びそうになる意識を、必死につなぎ止める。


 雲を抜けて、静止。


「大樹が、沈んでいくわ!」

「巨大津波が円形に広がっています。次に来るのは、また災害級の引き波です」

「情報、多過ぎだろう!?」


 よく見れば、大樹の傘。その天辺にぽっかりと穴が開いていた。

 そういえば、勢いでここまで飛んできたけれど、中にどうやって入るか、全く考えていなかった。


 でも、あれか。

 あそこに――。


「引き波、来ました。大樹が海面下に埋もれるまで、10、9――」


 考えている余裕なんて無さそうだ。


「あの、穴に突入する。しっかり捕まってて」

「既に捕まえられているわ」

「私も、掴みはオッケーです」

「ほんっと、真面目とかシリアスとか、僕らには似合わないな。行くぞ!!」


 たぶん、二人と一機で、いい笑顔だと思う。

 実際には、そんなの確認している余裕なんてなくて、今にも大樹の穴が引き波に呑み込まれるところだ。


 体の中の魔力を練り上げる。

 イメージするのは綺麗な星空。そこに落ちてくる一条の光。


 僕は、流れ星になる――


 視界がぶれた。

 感覚が消えていく。防護膜の魔法は使っている。重力軽減も、たぶん無意識で魔法として起動している。


 でも引き延ばされた時間が、重く、長く伸びていく。


 そして光は、大樹に突き刺さった。


 意識が、暗転した。




「……ここ……は……?」

「イブキ、よかった気がついた」


 気がつくと、ミモザの顔が僕を見下ろしていた。

 目尻に涙が浮かんでいるのを見て、胸がチクリと痛んだ。ちょっと。いや、だいぶ無茶したかも。


「無事、大樹ダンジョンの中に入れましたが……」


 ブロンデの顔が視界に入ってくる。

 あれ? そういえば僕、防護ロボコンも、防護服すらも着ていない。


「イブキの魔法に耐えられなくて、バラバラになったみたい。でもすごいわね、イブキの防御魔法のおかげで、傷一つとして付かなかったわ」

「どうしても、私たちを優先にして、自分をなおざりにしているのが、ちょっとだけ許せない私がいます」

「……ごめん」


 そうして視界に入ってきたのは、異様な景色だった。


「これ、頭を抱えるやつだ……」


 黒竜と人型の要塞艦マシキが、手を取って踊っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ