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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ナナナシア星編

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64/72

64.星の異常

 きりもみ状態で、落ちていくミモザが見えた。

 悲痛な視線が、交差する。


「ちくしょおおぉぉ――」


 体の魔力を全開で回す。

 一瞬、視界がぶれる。世界の色が濃く、鮮やかになった。

 血が沸き、体が灼熱したように錯覚するも、それどころじゃない。


 ブロンデが、ものすごい早さで落ちていく。


 絶対に、間に合わせてみせる!!


「まずブロンデ!」


 強烈な風が、僕の背中を押す。一瞬、風で前に流れた前髪が、いつの間にか黒から真っ白に変わっている。

 そして、弾けるように射出!


「盾なんて、箱でいいんだっ!」


 もう、感情のまま叫んでいた。


 ブロンデの側まで一直線に飛んで、ブロンデを片手で抱えた。同時に、二人を守る盾を展開させる。カップ状の盾が僕らを包み込み、衝撃を散らす。


 次はミモザっ!


 視線を一瞬さまよわせる――いた、まだ上だ。

 再び風を、盾にぶつけて急加速。ブロンデから手を離して、両手をミモザに伸ばした。


「ミモザっ!」

「い、イブキっ――」


 しっかりと、両手で受け止めた。勢い余って、二人で盾に転がった。


「ブロンデ!?」

「大丈夫です。五体満足です」

「ミモザはっ!?」

「ううっ、イブギぃ……」


 濡れた服と、震える声が胸元から聞こえて、大きく息を吐いた。


 そして――


「え、マシキ?」


 遠ざかる視界に映ったのは、人型ロボットに変化した要塞艦マシキの、左腕が吹き飛んだ瞬間。


 気が抜けてか、流されるままに盾がその現場から離れていく。


「イブキ、その髪……それに、容姿が――」


 顔を上げたミモザが呟くも、悪寒が走ってとっさに盾を閉じた。視界がいっきに暗くなる。


 直後に来た、強烈な衝撃に僕らは、一瞬にして意識を奪われた。




「……ここは……?」


 気づけば、展開した盾が解除されていた。

 森の香りが鼻をくすぐる。


「イブキ、ごめん……」

「何でミモザが謝るのさ」

「だって、魔法が使えていたら、何とかできていたと――」

「それは違うよ。絶対に違う」


 腕の中にいたミモザを、そっと抱きしめる。


「ミモザが魔法を使えなかったから、僕がミモザを助けられた。ブロンデだってそう。とっさに何もしなかったから、僕が両方とも救うことができたんだ」

「ありがとうございます。緊急事態のプロセスは、どうも苦手なようです。こちらこそ、助かりました」


 背後からブロンデに抱きしめられて、ちょっとドキッとした。

 背中から感じる硬い感覚と、機械特有の冷たい質感の向こう側で、微かに震えている。僕はブロンデの心も、助けることができたのか。


 でも……ここは?


「どこなんだ?」


 深い森の中。盾が押し潰した地面だけ円形に抉れて、地面が露出していた。




「空は……飛べそうにないな」


 防護服を着て、防護ロボコンを装着する。

 そうして空を見上げれば、たくさんの翼竜が空を飛び交っていた。心なしか、森が騒がしい。


「ねえ、イブキ。容姿が地球で出会った時の姿に戻っているわ、気づいてる?」

「どういうこと?」


 とっさに、魔法で鏡を出す。直後に目の前に顕れた鏡が落下。ゴトンと言う間抜けな音を立てて、地面に落ちたらしい。


「イブキ様。さすがに鏡を地面に落とすのは、やり過ぎだと思います」


 ブロンデが拾ってくれた鏡は、無残にも粉々にひび割れていた。でも、色は分かる。防護ロボコンのヘルメット。その先の防護服の中に見えるのは、あの日変わった僕。


 中が暗いからか、真っ白い髪が鏡に綺麗に映っている。

 奥に微かに揺れる瞳の色も、青みがかった白。恐らく顔は、洋風の甘いイケメンフェイスだと思う。今となっては逆に懐かしい顔だ。


 ――そうか、また何かが変わったのか。


 体の中に意識を向けると、そうか違和感なかったけれど。


 魔力が――漏れている。


 僕の暴走する魔力に対する、ストッパーだった魔石結晶は、今は要塞艦マシキの中。つまり、この流れは止まらない。

 でもそれは、星に還元されて活性化するはず――。


「活性化……したから……?」


 ゾッとした。

 悪寒に体が震える。


 僕のせいか?

 この何だか異常事態っぽいのは、また僕の為したことなのか?


「イブキっ! ちょっと、大丈夫なの!? 強制排出するわよ!!」


 目の前で防護ロボコンから飛び出したミモザが、僕の背後に回った。


 僕の防護ロボコンが開き、防護服ごと外に引きずり出された。なすがままの僕は、防護服からも引っ張り出されて、そのまま抱きしめられた。


 ミモザの体温が、温かさが、視界を滲ませる。

 ブロンデもそっと頭を抱えてくれる。その冷たさが焦る思考を鎮めてくれる。


「イブキのせいじゃない。何だか分からないけれど、そんなに自分を追い詰めないで!」

「そうですイブキ様。あなたは決して独りではありません」


 ぼくは、そうか。

 大切な。本当に大切に思っていた、ミモザとブロンデを守れたのか。


 そして、そんな僕もミモザとブロンデに支えられている。


 憚る必要なんて何もなくて。


 ――大声で泣いた。




「……ありがとう。不安だった」

「そのためにいるわ。行くんでしょう? イブキの魔石結晶は、マシキに返して貰えばいいのよ」

「地の果てまでも、付いていきますよ。地の果てが崖だったら、一緒に落ちます」

「いやいや、落ちないで。それに崖じゃないし」


 肩が軽くなった。


 さて、気合いが入ったところで、現在地の確認からか。

 甲板から飛ばされた時に、空中で視界によぎった影も気になる。


 それに、人型化した要塞艦マシキが、壊されていた。こんな状況。なにか、前にもなかったか?


「富士山に待機させていた機人と、通信ができました。現在地を特定、地球でいうところの、日光東照宮付近のようです」

「そんなに? いや、飛ばされすぎだろう」

「急ぎましょう。何だか体が落ち着かないわ」

「ミモザがそれ言うの、珍しいな」


 防護ロボコンを装着し直して、一斉に駆け出す。

 隣を走るミモザも防護ロボコン。ただ、その機体のまま、当たり前のように付いてくるブロンデは、やっぱり機械なんだなって、改めて思う。


 時折、魔獣とすれ違う。


 でも襲われない。

 どちらかというと、何かから一目散に逃げているような、そんな駆け方で横を過ぎ去っていく。明らかな異常。


 上を見上げれば、枝葉の隙間から見えるドラゴンの数が、増えているような気がする。

 フィルター越しに吸い込む外気が、肺に纏わり付くような違和感を感じた。


 夕焼けが、森を赤く染めていく。


「あと、どれくらいかしら?」

「1時間程度でしょうか。確実に、夜になります」

「もう、生き物の気配がしないな……」


 そして、森を抜けた。

 夜が、一気に深くなる。


 ミモザが足を止めた。つられて、僕とブロンデも足を止める。


「な、なによこれ……?」

「崖じゃなくて、壁だ――」


 見上げる。視界が全て、複雑に絡んだ枝で埋め尽くされていく。


 巨大な樹が、まるで壁ほどの大樹が、海から立ち上がっていた。


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