59.空飛ぶ移民艦
「行くぞマシキ、初陣だな。ついでに今日は、竜肉のパーティだぞ!」
『イエス、セカンドマスター。しかしセカマスは、食事が不可能と具申します』
「…………この恨み、はらさでおくべきかっっ」
『それは逆恨みです、セカマス』
いきなり省略するなよ。
上空に躍り出たマシキは、やはりというか高く飛びすぎてドラゴンのテリトリーに侵入していた。奇しくも黒いドラゴンは最初の一撃で仕留めていたこともあって、残ったドラゴンはどれも小振りなものばかり。数十メートル級が小さいのは別として。
八方から押し寄せるドラゴンブレスを、盾を鮮やかに回して振り払う。ジェットパックで急加速の直後に、肉薄してドラゴンの下、死角に潜りながら首を跳ね飛ばした。
絶命したドラゴンは、回転しながら盾を打ち付けて、瞬時に収納する。そのまま加速して次のドラゴンへ接近する。
圧倒的な機動力に翻弄されるドラゴンたち。
そうして襲い来る幾多のドラゴンを鮮やかに切り伏せると、そのまま空中に滞空した。
『高機動要塞マシキ、これより通常形態に移行します』
相変わらずのライブカメラが、そんなマシキを多角的に映していた。それはさながらテレビで特撮を見ているかのような臨場感があって、23にもなって年甲斐もなく胸の高鳴りを感じる。駄目だ、心臓バクバクしてて耳がうるさい。
ガシャンガシャンと、モニターから変形音が聞こえてくる。
直角に曲げた膝には盾を装着し、大剣は2つに割れてそれぞれ両腕に嵌まった。流れるように体を折りたたみ、盾に収納。盾は船底か!
両腕の剣でその上に蓋がされ、甲板になる。やや後方に残った頭部は、そのまま艦橋だ。
すげーな、移民艦だ。
「イブキ、あれ! 見てっ、黒いドラゴンっ!!」
「…………えっ、嘘だろ? 絶命したんじゃなかったの?」
ゆらりと、森の向こうに黒い巨体が動くのが見えた。ゆっくりと、立ち上がった頭が高層のうろこ雲を越えている。
胴体に巨大な穴が開いているにもかかわらず、羽ばたき空中に浮かび上がった。
あれは、ヤバい――。
「魔式。主砲の準備を、相手に不足なしっ!」
『読みが若干違います修正を、セカマス。マシキとお呼びください』
「分かった、マシキ。鋭角シールド展開だ。わたしの勘だが、主砲より先に来るッ」
『鋭角シールド展開。次元砲の準備を開始します――』
いや、待てマテ。次元砲って? さっきの消滅レーザーと別なの?
首を後ろに反らし、ブレスを吹き出すのとほぼ同時に、要塞マシキから伸びた虹色の針がドラゴンの喉を貫通した。
ギイヤアアアァァァ――
吐き出されたブレスが鋭角シールドを削りながらも、その大半が円形に拡散されて、大地を深く抉っていく。
……ふ、防いでる!?
『発射準備、完了です』
「ふぁいやああぁぁぁっ!」
『発射します――』
静かな何かが、空を突き抜けていった。
透明な何かが鋭角シールドを消し、雲を、そして黒いドラゴンの上半身を削り取る。巨体が完全に力を失って地上に落ちる。
遙か遠くで、砂塵が巻き上がった。
そして、筒状に遙か彼方まで空気が真っ白に凍り、やがて煌めきながら消えていった。
「ではこれをもって、本艦はベース基地に帰還……の前に、忘れていることがあるな」
どうした、姉よ。
「父と母は。残りの冷凍睡眠装置は、どこにあるんだい? 探していたはずなんだが」
…………ああそうだよ。そっちが本命じゃんね。
『目的地を把握しました。原速前進。到着予測時刻は、イチハチマルマル』
「空飛んでるよね? 普通に行っていいんだけれど」
『では、方舟には10分ほどで到着します。その間に、上手く調整をされてはいかがでしょうか?』
「調整?」
『ダンジョンマスターですから、この高機動要塞マシキの中の構造は、自由に動かしていただけます』
そう言うことになった。
まず、姉に退いてもらう。
「キャプテンはわたしだからな、ここだけは弟だろうと、絶対に譲れないぞ」
「いや、別に僕はこんな大きな要塞? は、動かす気はないから。何なら改造とかの権限は――」
『権限拡大であれば、可能ですね。それでは――現時点より、セカンドマスターの権限が拡大されました。壊滅権を除く全ての権限が、セカマス権限で使用可能です』
「よし、この艦はわたしのものだ。やったっ」
「あー、はい。もうそれでいいよ」
スキップしながら、ガーデンテーブルに向かう姉に、何だかほっこりした。楽しそうだったもんな、基本好きにさせようと思う。
次は……金髪機人かな?
「えっと、データ取れた?」
「あ、イブキ様。観測史上最大のデータが記録できました。これで、この星はイブキ様の支配下ですね」
「いや支配とか、いらないからね?」
「そうですか……なら、わたしからは、以上ですね」
なんか、怪しい。
じっと金髪機人の瞳を見つめていると、すっと視線を反らされた。
「……私はイブキ様の配下ですから。もしこの星を蹂躙せよと、心から思われているのであれば――」
「ストップ。絶対駄目だからね? 機人の衛星を使うのも、もちろん大量の機人を投入するのも無しで。そもそもだけれど、僕は――僕たちは、移民先を探していただけなんだ。逆に、この星から見たら、侵略者なんだよ」
「それは……そうですが……」
「望んでいるのは安寧であって、過去の侵略者側。烏賊や蛸、海月の真似はしちゃ駄目なんだと思う」
「であれらは放置すると?」
「いや。もちろん侵略してくるなら、戦うよ。それが、僕らのこの星に対しての誠意であり、受け入れて貰うなら、戦う。でも、棲み分けはしないとなんだ。だから、これからも僕の後ろで笑っていて欲しいかな」
「…………では、後方腕組みで、ニヒルな笑みを浮かべ、イブキ様を嘲笑することにします」
「ははは、そうして」
願わくば、機人が戦わない世界が訪れますように。僕の努力目標かな。
あとは、ミモザか。
「話は、終わったかしら」
「ちょっと待たせちゃったかな?」
「むしろ早かったわよ。なによこの、また『世界が忖度しました』な結果。虹色のダンジョンコアなんて、星そのものじゃない。まあ、それがイブキらしいけれど」
「でも、僕はダンジョンなんてまともに操作したことがないからさ。一緒に見て貰ってもいいかな?」
「ふふふ、もちろんよ。夫婦でパトナーなのよ、当たり前じゃない。やるわよ――」
二人で、一緒にコックピットの虹色ダンジョンコアに手を置いた。
イメージが、スッと頭に流れ込んできた。
森の香りが鼻を抜けていく。
僕たちの共同作業は、ちょっとだけ変わっているらしい。
方舟が、見えてきた。




