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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ナナナシア星編

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54.無限回廊

「さすがにダンジョンで、エスカレーターはどうかと思うんだけれど……」


 隣で笑ってるミモザと手を繋ぎながら、動く階段を下っていく。びっくりして、伸ばした手をミモザが繋いでくれた――まではいいけれど、離すタイミングがなくてそのままになっている。ちょっと。いや、だいぶ恥ずかしい。

 後ろを振り返ると、視線を反らす金髪機人。


「確かにダンジョンに入った途端、階段が動き出すなんて思ってもいなかったわ」

「どんな意図で動いているのか……浮かせてみるか」


 浮遊の魔法をイメージしたところで、失敗に気づく。ごっそりと抜けていく魔力に、異様に明るくなる周囲。思わず横を見た。


「おおっ、天使がいる……」

「うふふふ、ほんとね。ふふふ……イブキの天使姿なんて、似合わないわ……く、ふふふ……」

「さすがに、普段何も着ていない私が、トーガを纏う日が来るとは……生きてはみる物ですね」

「いや金髪機人、そもそも生きていないし」


 二人と一機分の天使の輪が通路を照らし、背中の翼が無駄に神聖っぽいキラキラエフェクトを辺りに振りまく。まただよ、僕の魔法。

 まあ、ミモザと金髪機人の天使姿は、それだけの価値があったけれど。


 本題はここじゃない。


 下を見ると、案の定というか階段が停止していた。背面を振り返って、息を飲み込んだ。


「いや……なっ、待ってナニコレ」


 僕の感情に反応して、魔法が消えていく。ゆっくりと、天使三点セットが空中に解けるように消えていった。


「イブキは、何がしたかったの?」

「い、いやさ。これが罠だったとして、慌ててジャンプしたりしたら、どうなったのかな……って、飛ばしてみたんだ」

「入り口まで戻されていますね。移動した認識も、ありませんでした」

「真ん中までは進んでいたはずよ、ルールが分からないわね」


 この、現代的な設備のダンジョンが、どんな意思を持っているのか。ダンジョンにとって僕らは餌でしかない。ある意味生きた悪意。

 でもこの、あまりに優しい罠に、胸の内がモヤモヤする。いやこれ、罠だよな?


「金髪機人。移民艦には、何人くらい乗っていたのか分かる?」

「定員1万名の移民艦に、2000名程でした。日本国籍艦は全部で4隻です」

「呑まれた人が、多すぎるわね」


 階段に片足を乗せて、体重を移動したら再び動き始めた。これ普通に最新式のエスカレーターの挙動だ。


 違和感に、少し呼吸が荒くなる。


 手を伸ばして、ミモザを引っ張って抱き寄せる。もう不安しかなくて、触れていないとどこかに行っちゃう気がして、思わず腕に力が入っていた。


「どこにも行かないわ、心配しすぎよ」

「僕が知っているダンジョンは、ミモザだけなんだ。今日だってさ、強がっているだけで本当は――」


 唇をそっと塞がれる。

 喉まで出かけていた言葉が、ゆっくりと溶かされていく。自分が思った以上に力が入っていたみたいで、優しく肩を叩かれて気づいた。ごめん。


「知っているわよ。夫婦でしょう? あなたは、あなたのままでいい。全力で支えるわ、だからそのまま行って。いつまでもついていくから」

「私のことも忘れてはいけませんよ、イブキ様の盾であり矛ですから。何ならこんなダンジョン、破壊しましょうか?」

「ありがとう。でもそれは勘弁して」


 知らない世界が、こんなに不安だなんて知らなかった。

 物語だと転生者とかが喜んで入っていくダンジョンだけれど、僕にはとても耐えそうにないな。ミモザと、金髪機人がいてくれることが、ほんとに心強い。


「さあ進みましょう、モモカさんとお義父さん、お義母さんを取り戻すのでしょう? ダンジョンなんて掌握しちゃいましょう」


 エスカレーターが一旦止まり、扉が左右に開く。そして再び、動き始めた。




 地の底まで続くような、長いエスカレーターが続いている。

 数メートル先の左右に見えるのは、お店のショーウィンドウだ。それが碁盤の目のように遙か彼方まで、びっしりと敷き詰められている。その店内から漏れる明かりが、遙か彼方で霞んで消えていた。


 エスカレーターの振動音すら聞こえない。僕とミモザの呼吸の音だけが聞こえる世界に、次第に心臓の音も混じり始めた。


「手すりが欲しい。落ちたらって思うと……」

「イブキ様、戻されるだけだと思いますよ。ほら、さっき」

「あっ、ああっ。えっ、待ってさっきのってそこ?」

「確かにさっきのって、この状況を見越しての処理ってことなのね」


 やっぱり、おかしい。


 見えている店舗内は全て無人で、焦点が定まっていないマネキンが陳列されているだけ。


「イブキ、念のためシールドの魔法使っておいて欲しいわ」

「いやそうか、僕ら無防備……」


 慌ててシールドの魔法をイメージ――いや、シールドの魔法って、どんなだ?


 いつもより気持ちがざわつく。


 創作だと、どういう感じだったかな。ドーム状に包み込むようなバリアだったかな、それとも壁で箱形に囲むんだったっけ。


 動いている上に、捕まるところがない不安定な足場に、視界が滲んでくる。


 そうして出てきたのは、強化ポリカーボネートの盾が5枚。それが四方と上を囲むように浮かんでいた。予想外の魔法の挙動に、緊張が霧散した。

 いや、ははは。何だこれ、現代装備って。


「いいわね、最高だわ。あとで手に持てるわね。ちょっと疲れたわ、座ってもいいかしら?」

「座……ろうか、そうだよね」


 座った途端に、ふわっと体が浮くような感覚とともに、階段が斜めに落ちていく。でも、背中からそっと支えてくれている金髪機人のおかげで、もう不安はなかった。


 そして体感1時間。


 エスカレーターが、底に着いた。




 そこにあったのは芝生が広がる、円形の中庭だった。

 正面には金属質な正方形の建物があって、扉が一つだけ付いてた。左右とも相変わらず、お店のショーウィンドウが並んでいて、そこから漏れる光が金属質の箱を照らしていた。


「他に選択肢はないか」


 ポリカ盾を僕が片手に、ミモザと金髪機人には両手に持って貰って、扉に近づいてゆっくりと開けた。

 ひんやりと冷たい風が、扉の奥から流れ出てくる。

 扉の向こうには、無機質な金属質の通路が延びていた。明かりは非常灯だけ、今までが明るかった分、やけに暗さが目立つ。


「でも普通の通路に、何だか妙に安心するな」

「この通路は知っているわ、前に方舟のホームページで紹介されていた。移民艦の通路よ。やっと繋がったわね」

「熱源センサーを使いましたが、非常灯以外に熱反応がありません。少なくとも感知できる範囲に危険は無さそうです」

「よし、気を引き締めよう」


 不思議そうな顔をするミモザと金髪機人に向き合い、大きく深呼吸をした。


「ちょっと取り乱して、頼りなくてごめん。ここからは、ちょっとだけ頑張る。ご安全にだ」

「ふふっ、そんなの気にしないで。ご安全にっ」

「背中はお任せを、ご安全に」


 そっと足を踏み入れる。


 通路を進み、最初の扉に書かれていたのは、日本語。


『第1冬眠室』


 緊張に、長く息を吐いた。

 そしてドアノブに手を乗せて異常に気づく。


 手が、ノブに張り付いた。


 …………えっ?


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