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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ナナナシア星編

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50.トレントの知恵

 大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。

 隣でミモザも一緒に深呼吸をしている。ほんと、生きた心地がしなかった。この星怖すぎだろう、とか、じゃあさっき金髪機人が倒したのは何だったのかとか、色々と思うところはあるけれど、取りあえず飲み込んだ。


『落ち着いたかね? 小さな客人は、確か三億年ぶりだの。昨日のことのように思い出す。あれはわしが、この火山の噴火を止めた時だったかの――』

「それでトレント様。さっきの話、よろしくお願いしますね」

『あい分かった。地脈経由で、他のトレントにも伝えておくでの』


 僕らは今、火山口の中腹にいるらしい。斜面からちょうどいい感じに飛び出ている岩棚は、どうも即席でトレントが造り出した物だろう。綺麗な切り口は、よく見れば交差する切れ込みが入っていて、滑り止めの処理までされているじゃないか。

 それはそうとなんだろう、いい匂いがしてくるんだけど?


「イブキ様、ミモザ様。緊張したらお腹が空いたことと思います。ロックボアのトレント若葉包みが、いい感じに焼き上がりましたので、少しお食事にしませんか?」

「……待って、金髪機人は何してんの?」

「お料理ですが。ちなみに焼き網の下の薪ですが、トレント様に枯れ木を提供していただきました。継続的な火力がとてもお料理向きで、キャンプファイヤーにすれば一晩中、踊り明かすことができますね」

「煮込み料理にも良さそうね。確かに、お腹が空いたわね」


 見れば、トレントも根っこを使って、焼き上がったロックボアを、幹の口に運んでいる。何このカオス? トレントって、食事できるの?

 一方で、普通にお肉を頬張り始めたミモザを見て、少しだけ安心した。方舟で実は一番、黒竜の理不尽に晒されたのは、ダンジョンコアでもあるミモザだった。その黒竜に相対して、僕以上に恐怖を感じていたはず。


 ミモザに、笑顔が戻っている。


「僕もお肉、貰おうかな」

『どれ、わしが取ってやろう――』


 こうして始まった即席のバーベキューは、空が茜色に染まるまで続いた。




『つまり文明の足跡を探しておるのだな』

「違います」


 話はできるけれど、話が通じない。トレントとの会話は、そんなイメージだった。裏に控えた金髪機人が何となく頷いている気がするけれど、今のでなにか理解できるのか?


「色々聞きたいんだけど、どこまで何を知っているの?」

『そうじゃなぁ、千年前にこの星の文明が滅んだ。そして自然に還った程度かの。黒いドラゴンが落とした魚が、おぬしらの乗り物だと、そこの機人から聞いたな。その程度じゃろうが、聞きたいのはそれではないと?』

「魚だと、思われた……」

『そりゃあな、蛸に烏賊、海月とくれば次は魚であろう。小魚もうろちょろしていたようじゃし、よほど腹に据えていたのであろうな』


 なるほど、話が通じなかったのはスケールというか、感覚の違いだったのか。

 ミモザが寝返りを打って、トレント掛け布団(葉っぱ)がずれたのを掛け直して、思わず天を仰いだ。これは、この星のと言うか、この世界のルールをじっくりと確認しながら移動する必要がありそうだ。


 なら、ちょっと質問の方法を変えてみるか。


「魚の尾びれから、小魚が散ったと思うんだけれど、どこに落ちたか分かる?」

『ふむ。それならば、西にあるちょっと大きめの池の東側であろう。少し前に、鳥がそんなようなことを話しておったな』

「あと、星のコアが危ないって言う話は……?」

『その件は任せるがよい。船を探しておるのだろう? 明日の朝までには、いくつかのダンジョンを絞り込んでやろう。なに、森の下のことならば大抵何とかなる』


 やっぱり、話がかみ合わない。想定外の答えに頭を抱えた。


 しばらく話をしたけれど、眠気に勝てなかったからトレントの相手を金髪機人に代わって貰った。話の法則自体は何となく分かってきたけれど、いかんせん昼間の緊張が尾を引いているみたいで、僕の思考が追いつかなくて。

 ミモザの隣に横になると、一気に意識が遠退いていった。




 翌朝。想定以上に爽やかな目覚めに、改めてこの葉っぱ布団の効能を実感した。凄いなこれ、持って帰ってもいいのかな。


『昨夜のうちにの、機人の嬢ちゃんには場所を教えてあるでの。なに、そんなに離れてはおらんようだから、じきに見つかるだろう。出発するのであろう?』

「朝食は、用意してあります。トレントの樹液ミルクに、トレント若葉とボアベーコンの炒め物。あとは焼きたての若葉パンです」


 金髪機人の料理の腕に、脱帽した。

 なんだろう、方舟だと僕たちが普通に作っていたから知らなかったけれど、こう設備がない場所で野営とかすると、途端に有能になる気がする。機械だから、一切睡眠を取らないみたいだし。


『では旅立つ若者に、選別を送るかの』


 そう言うとトレントは、複数の根を伸ばしてっぺんの方からたくさんの葉っぱを千切って、僕の身長を越えるほどたくさん積み上げてくれた。ありがたく、二人と一機で収納する。

 もちろん、葉っぱの布団も入手済み。これで夜は快眠間違いなしだ。


「お願いがあるのですが」

『どうした、機人の嬢ちゃん。遠慮せずに言うがいい』

「機人の一機を、ここに置いていってもいいでしょうか?」

『構わぬが。話し相手という意味であれば、嬉しいのう。ここは孤独での、三億年はさすがに長かったわい。なに、300年に一度くらい話しかけてくれればよいでの』

「それでは失礼して――」


 金髪機人の額の宝玉から金属が延び、扉に変化した。中から、金髪機人そっくりの機人がゆっくりと出てきた。あ、この機人、もしかしてあの時の機人?


「私の直接の分体です。普段は体育座りでじっとしておりますので、路傍の石とでも思ってください。もちろん、話しかければ応じるかと」

『あい分かった。希にわしも……そうだなぁ、短いかもしれんが2年に一度くらいは話しかけてもよいかの? 少ししつこいか?』

「トレント様の喜びを満たせるようであれば、短くはありませんよ」


 いや、ほんと。金髪機人すごいな。


『魔力は星を巡る。巡り巡って星の力になる。ほれ、今おぬしが使っておるように、魔法を使うんじゃ。それが資源になり、命に変わるのじゃよ。励むがいい』


 こうして僕らは、トレントと機人に手を振りながら富士山火口を後にした。




 火口の縁で、再びロボットと防護服を取り出し、順番に装着していく。


「イブキ様、今後の予定はいかがなさいますか?」

「予定通り一旦、方舟に戻って物資の準備かな。予定外の遭遇で、いろいろとやることができた気がするし」

「そんなに収穫あったかしら?」


 僕は虹色箱の中から、魔力結晶を取り出した。


「これの処分をさ、考えないといけないんだ」

「どうしてかしら。それがないと、イブキの魔力が暴走しちゃうじゃない」

「この星だと、たぶん大丈夫だと思うんだ。魔法を――というか、魔力を星が欲している。だから、僕の余剰魔力はきっと、星の力になる」

「そうなるとそれ、どうするの?」

「分からない。解放するとまずいってことだけは分かる。そこを含めて考えないとって」


 もう一度、魔力結晶を収納してから、僕らは方舟に向かって飛び立った。


 ふと振り返ると、富士山に生えている木々が大きく揺れていた。思わず僕も、手を振り返した。


「トレントさんが、手を振っているみたいね」


 ミモザも嬉しそうに手を振る。


 僕らは一路、方舟へ。

 空は透き通るほど青く澄み渡っていた。


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