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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ナナナシア星編

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49.やさしい世界

「行くのよね?」

「もちろん。そこに樹がある限り、僕に行く以外の選択肢はないよ。さあ、いざ逝かん」

「逝ってはいけません。二度目のフラグは、ちゃんと折ってから進みましょう」

「僕は心が折れた」


 当初の予定を変更して、ここまでしか進めなかったことにした。

 普通の森ならさ、気にならないんだけれど、これは僕的には絶対外せない。だって、火口に樹が生えているんだよ?


 ロボットを収納し、防護服すらも収納し、僕らは火口を下る。寒さはパッシブ魔法で無効化済み、ついでに半身でもあるミモザも対象にする僕の魔法の紳士ぶりに、僕は心から脱帽した。


「ねえ、イブキ。幹に顔があるわよ」

「そう来たかぁ」


 大きな石がゴロゴロと転がる火口斜面を、足下に注意してゆっくりと下っていく。時々躓きそうになりながら、横目で火口に転がっていく金髪機人に、目が点になった。いや転がっていくのかよ!?


 異変はすぐに起きた。

 金髪樹人の進行方向の地面から突き出した巨大な根が、瞬時に受け皿のように丸く広がって、転がる金髪機人を優しく受け止めた。思わず僕らは、足を止めた。


『慌てて下りるとぉ、そうなるんだぁ。わざわざこんな辺鄙なところにぃ、何しに来たんだぁ。ほぉ、それはまた酔狂なことでぇ』


 息を呑んだ。


 なぜ、言葉が理解できるんだ?

 どうやら下で金髪機人が対話を始めた感じなんだけれど、トレントらしき樹が喋り、耳に入ってきた音は、紛れもなく日本語。ミモザに顔を向けると、同じようにびっくりしたんだと思う。目を大きく見開いていた。


「どうしようイブキ、震えが止まらないわ」

「逃げられる気がしない。どう考えても火口は奴の領域だ、もしかしたら山頂付近の木も末端で、敢えて見てみないふりしていたとか……」

「ロボットだったから、襲われなかった?」

「その可能性はあるかな。でも、ここで防護服出して、ロボット出してなんてやっている間に」

「確実に仕留めに来るわね。嫌な予感なんて、全然していなかったから油断したわ」


 体を寄せると、ミモザがぎゅっと腕に抱きついてきた。


『ほぉ機人なのかぁ。わしわぁ、トレントだぁ。いやぁ、大きな客人ならぁ、普通に来るんだがなぁ。今もほらぁ、黒いドラゴンがわしの葉っぱをついばみに来たぞぉ』


 二人してその場にしゃがみ込んだ。トレントの言葉が事実なら、僕らはもう……。


 ゆっくりと上に顔を向けると、山があった。数百メートルはあるだろうドラゴンの眼球と目が合った気がして、呼吸が止まる。飛びかける意識を、必死につなぎ止めて、ミモザを両腕で抱え込んだ。


 小さく口を開けたドラゴンが、遠慮がちにトレントの葉を食べている。何だこれは、どうなっているんだ。草食ドラゴン?


『他にかぁ。お昼時だしぃ、そろそろ猫も来る頃だなぁ。猫と言えばおぬしの聞きたい言う星の成り立ちはなぁ、最初は猫の額くらいだって聞いたことがあるなぁ』


 突然、ドラゴンの顔を遮って巨大な猫の顔が割り込んできた。じっと僕たちを覗き込むその双眸だけで僕たちの身長を超えるほどの大きさがあって、この猫の額の話ならなるほど大きいな。


 いや、待て。


 ちょっと待て。


 デカすぎないか猫。体長数百メートルの猫って何だよ!?


『にゃあ?』

『おお、噂をすれば猫来たなぁ。そちらの客人もぉ、こっちに来るといいぞぉ。だが慎重になぁ、ゆっくり下りてこないと、この機人みたいに転がるぞぉ』


 バレてるし。

 巨大な猫が可愛らしく鳴いて、首を傾げているけれど、こっちはそれどころじゃない。八方塞がりとはこのことで、これ、本当の意味で詰んでないか?


 しばらく僕らを観察していた猫は、不思議そうに首を反対側に傾げた後、すっと消えた。違うな木の枝が擦れる音がした方に顔を向けると、トレントの枝に飛び乗っていた。するすると、上に昇っていく。


 全く見えなかった。


「襲われ……なかった? どう、なっているの……かしら……?」

「いつの間にか、ドラゴンもいなくなっている」

『足でもお、挫いたのかぁ? どれ、少し揺れるがぁ、我慢するんだぞぉ』


 僕たちの左右から根が、岩をゆっくり退かしながら、崩れないように積み直すなんて器用な動きをして地上に伸び上がってきた。


『それで続きなのだがなぁ。最初の塊はなぁ、紫色の水晶なんだってなぁ。そこに宇宙から岩が引き寄せられてなぁ、星になったんだぁ』


 さらっと語られている創世神話。でも僕らはそれどころじゃない。


『そしてなぁ、この今の大きさになった時にぃ、わしらぁトレントがなぁ。108体星の各地に生えたんだぁ……いや、やめよう。この話し方疲れるわい。普通に話すがよいか? おぬしの突っ込みが楽しくてのぉ、ついついやってもうたわ』


 しゃがみ込んだまま抱き合っている僕らは、籠に組み上がった根っこごと地面から離れていく。ミモザが無言の悲鳴を上げた。

 その籠が動き出した。ガリガリと地面が削れる音が聞こえる。


『まぁそこからは端折るがの。その原初の紫水晶が、死にかかっておるのじゃよ。そうさな、ざっとだが、もう一万年程度しか持たん』


 そして籠がゆっくりと地面に下ろされて、解けて地中に戻っていった。

 平らに削られた岩棚に、金髪機人が笑っていた。


『いやいや、すぐではないか』

「ですから、私たちにすればそれは遙か未来の話です。しかし億年兆年の歴史をもつトレント様ならば、なるほどもうじきの話でしょうね。おや、イブキ様、ミモザ様。一体どうされたのですか?」


 安定の金髪機人に、二人して体の力が抜けた。緊張が解れたからか、何だか無性に胸がつまって声を押し殺して涙を流した。


「まあ、何か怖かったんですね。それよりトレント様、どうしてこの星のコアは衰退しているのでしょうか?」

『還元魔力がな、不足しておるのだ。あの蛸、烏賊、海月どもがせっかくいい感じに増えていた魔族を攫っていきよった。残念ながら、既に地上には一人もおらん』

「ああ。それならお力になれ――」


 意識を保っていられたのは、そこまでだった。

 薄れ行く視界の中で、目を瞑ったミモザだけは離すまいと、しっかりと腕に抱え直したところで、完全に視界がブラックアウトした。




「あ、お二人目が覚めましたか?」


 いつの間にか横になっていたのか。大きな葉っぱの布団(?)の上にいた。隣にちゃんとミモザがいることを確認して、安堵してか自然に大きく息を吐いていた。

 しかし何だこれ、どう見ても葉っぱなのにフカフカだぞ。


「トレントの若葉です。大きさもそうですが、柔らかさと同時に、リラックス成分が体に浸透する親切設計です。今ならなんと、無料で提供することができますよ。この機会に、是非是非、購入をご検討ください」

「どこの悪徳商人だよ。それよりありがとう、金髪機人が寝かせてくれたんだろう?」

「いいえ、トレント様ですよ。自分の葉っぱを千切って、根っこで優しく寝かせていましたよ。精密計測したところ、23兆年のおじいちゃんでした」

『よろしくな、若いの』


 思った。


 金髪機人、トレントと馴染みすぎだろう。


 なにか、想定と違う優しい世界に戸惑いながらも、僕は体を起こした。


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