48.遠足
「と言うわけで、いけるところまで行って一泊。翌日、方舟まで戻ってくる計画で、いいこうか」
「いいと思うわよ。ここの星のこと、何も知らないわけだし」
「軽くネタ切れの私は、どういうコメントを返せばいいでしょうか?」
「いや、知らないよ!?」
一ヶ月。
機人達に製作を手伝って貰って防護服が……防護服なのか? まあいいや、防護服が完成したわけなんだけれど、いや正直言えば時間がかかったなって。予想だと一週間でできると思っていたんだけど。
方舟自体、表層と棺部分は失われているけれど他の部分、下層の全4層に関しては、全て完璧な状態で稼働可能な状態だった。電気も通っているし、原料設備は完璧。だったんだけどなぁ……。
「……どうしてこうなった?」
「正常進化ですが、何か?」
「無理だと思うわよ。それ、元の防護服の面影ないもの」
「破損した防護服を検証し、設計理念は理解しました。その上で、最高効率を求めたまでです」
陣頭指揮を執っていた、金髪機人が暴走した。
見上げる高さは4メートル。新たにどこからか導入したらしい、流体金属をベースにしたメカメカしいその威容は、どこからどう見てもロボットだ。
背面ハッチが開くと、連動して腕と脚が開く。そこに『防護服を着た状態で』搭乗すると、背面ハッチが閉じて動かせるようになる。
気をつけないといけないのが、生身では絶対に搭乗できないことかな。
あくまでも防護服の補助装置であって、単体だと単なるオブジェにすぎないと言う無駄仕様が特徴だ。いいんだけどね、男心くすぐる格好いいデザインだから。
「ちなみにですが、ジェット推進機構はロボット側に搭載してあります」
「ロボットって、ロボットって言っちゃってるし!?」
「ロボットですが、なにか? 両腕にパイルバンカーも搭載済みですが、それでも使われないのでしょうか?」
「ごめん、使う!」
何だろう、この懐かしいやりとりに何だか顔が緩む。
金髪機人はたくさんの『僕』を知っているって言っていたっけ。たぶん僕より、僕の家族のことを知っている。知っていて、金髪機人なりの立ち位置を模索してくれているのかな。そんな気遣いが温かい。
ぼくが、弄られる対象なのはちょっと納得しかねるけれど。
「それがイブキだもの。それはそうと、金髪機人さん。この流体金属って何なのかしら。方舟はおろか、地球でも見たことも聞いたこともないわ」
「先日ですが、夜風に当たろうと方舟の外に散歩に出かけた時のことです」
「え、いつの話?」
「PAの開発に行き詰まったイブキ様が、眠りキノコの山菜鍋を食べて爆睡していた時ですね」
「あれよね、食用ってダンジョンメニューに書かれていたから、イブキが食べたいって言ったあの事件よね」
「うぐっ……」
特大ブーメランで僕撃沈。
いや美味しかったんだよあのキノコ。フォレストウルフのお肉と相性抜群で、煮込めば煮込むほどいい味になって、眠り成分も凝縮したみたいだけど。
いや待って、そもそもPAなんて開発していなかったじゃないか。防護服だってば。
「はぐれていたメタリックなスライムを発見しまして」
「僕もう突っ込まないからなっ」
「イブキ、普通に突っ込んでるじゃない……いや、そもそもそのスライム捕まえたってことよね?」
「事前にミモザ様から、お借りしていた黒紫蝶コア(プチ)をライフルで撃ち込みまして、魔物のコアを入れ替えました。あとは、方舟に持ち込みダンジョン資源として登録したまでです」
「ああ、それでいきなり体が柔らかくなったのね。納得したわ」
流体金属の使用で関節を、動物のように動かせるようにした。そんな説明に、納得。
試運転でも、めちゃくちゃスムーズに動けたもの。動けすぎて、体が全く制御できずに盛大に頭から地面に転んで、そのまま文字通り七転八倒して。いや、意味が違うな、まあいいか。派手に転がった先で、アニメみたいに壁に大の字にぶつかって止まった。
そんな苦い思い出が脳裏をよぎった。
「ま、まあいいか。でもロボットが二機しかないのはどうして?」
「そんなの当たり前ですよ。私はこのまま行きますから」
驚愕。忘れていたけれど、金髪機人はもともと機械だった。
防護服を着て、防護服補助防護機……長いな、ロボットでいいか。名前はまた考えよう。
ロボットに乗り込んだ僕らは、何となく富士山を目指して森の上を低空飛行していた。ロボットの背中のジェット推進で飛んでいるんだけれど、どうしてこの重量で飛行ができるのか、正直理屈が分からない。
「頭部に、反重力発動機を搭載しています。動力源と同時に、機体にかかる重力を軽減しているのがポイントですね。エネルギーは、防護服のエリクシルから得ていますから、実質無限稼働が可能かと」
「魔法っぽいのに、科学の塊だった」
富士山までまっすぐ飛んで100キロほど。出力30パーセントでどれくらいの時間がかかるか、まずそこから取りかかることにした。
森の上を飛べるのは想定外だったけれど、想定外の景色にワクワクしている僕がいる。
「接敵。殲滅を開始します」
少し離れて体のまま飛んでいる金髪機人が、何かを察知して戦闘モードに移行した。僕らも進むのをやめてその場でホバリングする。
額の機人の衛星から扉が展開されて、そこから機人が、ものすごい数の機人が地上に向かって投下されていく。百機を超え、千機を超えた機人の戦隊は、何かを討伐して再び扉の中に戻っていった。
そうして額に扉を収納した金髪機人が、動かない僕を見て首を傾げた。
「もうさ、金髪機人だけで調査とか探索とかできるんじゃないかな」
「いえ。あくまでも私は、イブキ様のサポートをする機人機体です。そして技術サポートが主としての存在意義でもありますから、背後で傅く以外の行動はいたしません」
「傅かれている気がしないんだけど」
「そうですか? 気のせいではないでしょうか。こんな美人を捕まえて、よよよよよよ……」
棒読みな金髪機人はさておき、実際のところ接敵の度に殲滅してくれている。今の世界線では、早いうちに機人全体にエリクシルを導入しているらしく、稼働制限なんかも克服している。大概チートだなって思う。自発行動しないのが、制限かも知れないけれど。
そうして実質、何の障害もないまま富士山の麓に辿り着いた。ここからは今度は、ロボットの地上性能の検証だ。
といっても何だこれは、遠目に見ていて気づいてはいたけれど、何で山頂まで森なんだろう。普通は植生の性質、森林限界っていうのがあって、大体標高2500メートル辺りから高木が少なくなっていく。はずなんだ。
「隙間は、広いんだけどなぁ……」
「植物としての強さが違う感じよね。もしかしたら途中からトレントだったりして」
「いや、まさか」
取り立ててフラグが立でもなく、山頂まで登ることができた。
そして今、二人と一機は首を傾げている。ある意味で異常事態。そしてある意味でなるほどと納得する光景。
火口の真ん中から巨大な樹が生えていて、火口を丸く塞いでいた。ほら、あの『この木なんの木』のCMの樹みたいなのが目の前にあるんだ。
「……えっと、取りあえずお昼にする?」
「そうね、まずはお腹を満たした方がいいわね」
ロボットから出て、防護服を脱いで、いや面倒くさいなこれ。
そうして山頂の縁に、レジャーシートを広げた。




