47.ぼくのかんがえたさいきょうののりもの
自動車作りは、何だか難航した。
「問題は、道がないってことなんだけど……」
通常、車は舗装された道路を走るように考えて作られている。だから平坦な道でないと走ることができないって、箱形のバンを作って貰ってから気がついた。
だったら、オフロード車輌はってなって、ここでも、そもそもが道がないと駄目だって、気づいた時点で、完全に手が止まった。
「二輪バイクも……」
「あれでは無理でしょうね。躓いて、転んでたら、置いてかれます」
「やめて。それは駄目、絶対」
上空から墜落しながら見えていた日本列島は、もれなく森林だった。
同じ轍は踏むまいと、作る前に数日かけて、方舟が作ったクレーターの縁まで登って確認したから間違いない。二輪バイクですら、走破が不可能な世界だった。
まず、天を突くほどの巨木がびっしりと生えていた。
長い年月をかけて淘汰を繰り返してきた森林は、確かに木々の間隔は普通の森よりも遙かに広かった。ただ根が、互いに制地権を主張し合ったことで複雑に盛り上がった根っこが、複雑に凹凸知多地形を作り出していたんだ。
走ることは、ゆっくりならできるかも知れない。ただ走破はどう考えても不可能だ。あれだったら絶対に、歩いた方が早いって。本気で思った。
「狼ってさ、あんなに大きかったっけ?」
「フォレストウルフは、魔獣です。肩高は3メートル、尻尾を除いた頭胴長が5メートルはありますね、出会ったらまず絶対に目を反らしてはいけません。どっしりと腰を落とし、体を可能な限り大きく見せるのがコツです。また、群れで行動しますから最初の一頭は斥候と見ていいでしょう」
「いや待って、そういう話じゃない。普通に魔法で倒したし」
「むしろ何も役に立てなかったわ。足手まといで、ごめんなさい……」
「いやミモザもさ、あれは想定外だったんだし――」
そして森から現れた、魔獣が襲いかかってきた。
魔獣――金髪機人のデータベース参照結果では、動物よりも凶暴な『魔獣』という種別の生き物らしい。体内に魔石を持っていて、類似する動物に比べて2倍から3倍の大きさになる生き物で、肉質はしなやかで柔らかく、食用にするととても美味しいとのこと。
待って、途中から何か違う説明になっていた気がするんだけど。
「つまり、15頭ほど回収してきたけど、食べた方がいいってこと?」
「私は機械ですから、食べられませんよ?」
「いやそれは知ってる。しかし、狼食べるのかぁ……」
「フォレストウルフですよ? イブキ様の耳は節穴さんですか?」
「いや、聞こえてるって……」
「ではちゃんと聞いていてくださいね?」
方舟に戻る道すがら、横でミモザが口に手を当てて震えている。
後で聞いてら、どうも僕が金髪機人に弄られているのが何だかツボにはまって、でも戦闘の直後だったから笑うにも笑えず、耐えていたんだとか。普通に笑ってくれてよかったんだけれど。
僕としては、柏崎家の日常が戻ってきたような感覚で、何だか自然に楽しかった。
なお、フォレストウルフは金髪機人の情報通り、肉質がとても柔らかくて美味しかった。魔力が通っていると筋肉がしなやかになるらしくて、死んだ後も変質とかしないのだとか。
解体を教えて貰いながら、ふと思った。
僕はあの日、崖から落ちてハーフエルフに変わったわけだけれど、意識とか考え方が変わっていないって思っていた。でもこうやって特に忌避感なく生き物を解体できる自分は、本当に僕のままなんだろうか?
「イブキの疑問はもっともね。もう理解していると思うけれど、世界ってね、今いるここだけじゃないのよ。遙か過去から誰かの選択の度に分岐して、膨大な数の世界線として横に存在しているわ」
「……僕、声に出ていた?」
「いいえ。でも以心伝心、お見通しよ。それでね、普通ならその縦の世界線の『魂』しか宿せないんだけど、イブキは横の世界線の魂を同時に宿すことができるの。むしろ宿しているだから存在値が桁外れているのよ?」
「あ……つまり……」
僕の存在。それは個であり全で、逆に全であり個。
そんなふわっとした感じでいいって、何となく分かった。
さて、移動手段だ。
「そもそも、タイヤで走るから無理なんじゃないかしら」
「ああ……先入観ってやつか。移動イコール車とか、あと飛行機とか」
「そうですね。私たちならば、宇宙船が基本の移動手段でしたから、データベース上とは言え地球の自動車には馴染みがありませんでしたね」
ふと、虹色宝箱が震えた気がして、思わず手を突っ込んだ。
肩口まで入れたところで、手先に触れた物をしっかりと掴んで、一気に引きずり出した。勢い余って、その場で仰向けに倒れるまでが、どうやらセットだったらしい。さらに運悪く、僕に覆い被さるように出てきた。ちょっと重い。いや、だいぶか。
「いてて……」
「それはまた、今となっては懐かしい物を出してきたわね」
「防護服に見えますが……何か、特別なんですか?」
「聞いて驚くがいい、ふはははははは。825万したんだ、ちなみに支払いは終わってる」
「そう…………なんですか」
呆れた金髪機人に、肩を震わせて笑いをこらえているミモザ。
うん、言うこと間違えた。なんだよ、ふははははって、ただの頭おかしいやつみたいじゃないか。でもこの防護服、結構思い入れがあるんだよな。
「その、お腹の辺りに大きな穴が空いていますね。背中まで貫通していますが、それ、使えるのですか?」
「いや、使えないよ?」
「記念だもんね、ある意味私たちが、この世界で出会った日の記念かしらね」
全ての始まりの防護服。
降灰世界で活動するだけだったら、数万で替える防護服に、エリクシル救命装置を始め、無駄なデジタル機器を搭載し、さらに宇宙空間でも活動できるよ――なんてキャッチフレーズに惹かれて、買った防護服。おかげで命拾いして、何だかハーフなエルフになったわけだけれど、やっぱり思い入れがある。
あの廃村で泣く泣く放棄してきたのを、郷田さんが憶えていて回収してきてくれた物なんだよね。膝から下がないから、間違いなく僕の防護服。
「これは……どこの世界線のデータベースにもありませんね。今回の、イブキ様がいた世界線独自の物でしょうか」
「性能的にはあれね、呆終末ゲームのPAに似てるかしら」
「僕、突っ込まないからね?」
「でもそうですね、これは使えますね。製作は……現在の設備で余裕ですね。なるほど、ここの下層二層の工業層に未知の工場設備がありましたが、パワー○ーマーの製造工場でしたか」
「防護服だから! それ架空のパワードスーツたよ!? まあ……性能的に、ほぼ同じだけど。同じだけどさぁ」
二人と一機で大笑いした。
そんなわけで、移動手段は懐かしの防護服に決まった。
こうなったら背中にジェットパック背負って簡易的に飛べるようにしたり、パイルバンカーを装着したり、色々架装するんだ。
ぼくのかんがえたさいきようののりもの。
あ、防護服。乗り物じゃないや。




