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僕だけがハーフなエルフの件について  作者: 澤梛セビン
ナナナシア星編

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46.希望

「外部映像はね、魔法的な概念カメラだったのよ。破壊されないし、今もあの何もない空中に存在しているわ」


 壁際に残った、細長い半円型の丘。

 それが僕らがいる場所、方舟の上層で唯一残った場所だ。木々がなく、草原に建っている公衆トイレと、その隣に建つエレベーターの建物だけ。


「概念の破壊だったってことなのね……」

「つまり、修復できたのって、今見えているむき出しの地面から下ってこと?」

「そうなるわね。さっき全力で修復かけていたのに、思ったより効果がないわけよ」


 座り込んだまま、僕らは体に力が入らなかった。

 姉と連絡が取れないわけだ。そもそも姉が、いない。父も母も、幸彦さんだって、もうこの世に存在していない現実に、視界が滲む。


 膝を抱えたまま、コロンと横に転がった。同じように転がったミモザと視線が合う。


「新天地に着いたけどさ、これはさすがに想定外だよ」

「そうね、ダンジョンまで壊されるなんて、自分の存在意義を失いそうよ」

「――イブキ様、ミモザ様。二人ともこちらにいらしたのですか?」


 その声に、僕とミモザは同時に上体を跳ね起こした。


「えっ……金髪機人さん?」

「はい。あなたの金髪機人です」


 なんて、無表情のまま冗談を言われて、思わず目が点になった。どうなっているんだろう、確か金髪機人とは会話が成り立っていなかった記憶しかないんだけど。


「世界の歪みで深刻なエラーが起きていましたから、会話にならなかったのも仕方なかったんですよ? 私、言いましたよね。未来はナナナシア星で終点を迎え、そして再び始まっているって」

「確かに言っていたわね。憶えてはいるけれど、戯言だと思っていたわ」

「いや待って。始まってるの? これが?」

「ええ。極限まで収束した世界線が、ここから無限の可能性に向けて広がっています」


 首を捻る。

 予定調和、そんな言葉が脳裏をよぎる。でも人々が、この方舟に生きていた全ての人々が、命を落とすことも全て決まっていたってことなのか?

 だったらこんな未来――


「ちなみにですが、宿命により全員ちゃんと生存していますよ。ただし、種族は人間のまま。移民艦でエリクシル式の冷凍睡眠のまま、先んじて旧日本と同型の島各地に散りました。紛れ込んでいた隣国の移民艦は、焼滅したみたいですが」

「じゃあ、あの散らばった移民艦の中に、方舟に乗った人たちがいるってこと?」

「ええ、そうなります。ただし、日本製の移民艦のみですが。私たちが改造を施してありますから、耐久性は機人仕様なので、生存だけは確実であるとだけ」


 なら、ひとまず安心なのか。

 逆に言えば、その移民艦を探索して冷凍睡眠を解除することができれば、またみんなに会える。希望が、確かな未来が見えたよ。


「でもそうすると、この方舟を操縦していたのは……?」

「私たちですね。方舟が地球を脱出するより、地球に私たちが到達する時間の方が早く、そこで宇宙烏賊、宇宙蛸、宇宙海月が暴れていました。方舟に改造を施し、海底火山の噴火に合わせて宇宙に旅立ちここまで来ました。ですから方舟に乗り、宇宙へ旅立った過去は変わっていません」


 ほんと、何て言うか壮絶なパラレルワールドに、苦笑いが浮かんだ。地球でそんな事態になったなんて記憶にないし、そもそも僕の無意識上でもこの星、ナナナシア星まで来た経緯に変更なり追加なりは無い。

 どこまでが現実に反映されているのか、それともこの現実さえ夢幻で再び何かのタイミングで改変されるのか。


「世界羊が居なくなっていますからね、その辺は心配ないと思います。これが正史である証拠ではないでしょうか」

「僕、何も言ってないよ?」

「成果物としては、黒紫蝶コアのミモザ様が残り、エリクシルの実用化は行われていました。ですが、昇華門は失われています」


 ふと思い立って、自分の耳を触った。相変わらず耳の先がほんのりと尖っていて、僕がハーフなエルフであることは変わっていないみたいだ。ついでに体内にも、膨大な量の魔力があって、今も虹色宝箱の中に収納してある魔力結晶が吸い続けている。


 うん、僕は僕のままだった。


「昇華門って、必要かな?」

「イブキは、作り方を知っているのかしら? モモカさんがいないと、作れなかったと思うのだけれど」

「白髪洋風イケメンだった頃の僕なら、簡単に作れたんだけどな。今は無理っぽい」

「何それ、そんなイブキ知らないわよ?」

「並行データベースに設計図が残っていますから、桃華様が発見できれば制作は可能でしょう。可能であれば、制作を進めることをお勧めいたします。この星は、人間のままでは危険すぎます」


 何だか、一気にやることができたな。

 地上が危険だってことで、一旦僕らは下層第一層、農業層に下りた。やっぱり人が誰もいなくて、広大な農地は何も育てられていなかった。気になって、第二層工業層、第三層海洋層も確認したんだけれど、全部稼働していなくて、完全に無人なんだなって分かった。


 必要なら、サポートに機人を出すって金髪機人に提案されたんだけれど、取りあえず断っておいた。方舟の各施設を稼働したところで、僕とミモザが生きていくだけなら、携帯電話の収納の中に色々な食べ物が入っている。

 水だって、魔法で簡単に出せるから大抵は何とかなるしね。まあ、蛇口が出現して水が出る謎魔法だけど。


 ただ、問題が何もないのかというと、そう上手い話はなくて。


「桃華様を始め、篤紀様や芽依様がどこに落下した移民艦に収納されているのか、追跡データがないのです……」

「自動で追跡されていないの?」

「はい。飛散したのが世界線の収束臨界点だったため、一切の追跡ができず。黒竜の概念破壊ブレスと相まって、世界線の再拡散後も一切追えませんでした。申し訳ありません」

「それはさすがに、無理だったよな」

「場所に関しては、ある程度シミュレートしてありますので、現地で地道に探索し、一つずつ確認するしかないかと。ただ、宿命に導かれていますので日本と同じこの島には日本人が、同じようにアメリカやヨーロッパだった場所には、それぞれの国、地域の移民艦が落下しています」


 つまり、僕の生まれ故郷に行けば――


「ああ、忘れていました。落下地点は移民艦に搭乗している人々の、出身地平均地点になりますので、まず地球において岐阜県があった地域を目指しましょう」


 そういうことらしい。




 翌日。


 いざ出発しようと、方舟から外に出たとこで重要なことに気がついた。


「移動手段って、何かある?」


 今いる場所は、ちょうど東京都があった場所なんだよね。だからここから、まず濃尾平野へ向かわないといけない。直線距離で約300キロある。


「私の額に縮小収納されている機人の衛星には、小型の宇宙船ならあります。ですが、制空権がありませんから、飛行してしばらくすれば確実に撃墜されると思います」

「方舟には乗り物が一台もない感じね。作り方なんて知らないし」

「ああ、それでしたらデータベースに、地球の自動車であれば設計図があります。方舟の下層第二層、工業層で機人であれば制作できます。戻りましょう」


 初っぱなから躓いて、何だかおかしくて二人と一機で大笑いした。


 何というか、僕ららしい。


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