44.ナナナシア、行くってよ
しばらく話を聞いていたんだけれど、やっぱり話が抽象的すぎてよく分からなかった。
ついでに姉が、目をつむったまま一言も言葉を発しなくなったことで、必然的に僕が相手をすることになったんだけれど……。
「それで、僕を呼んだ理由って何なのかな」
「感謝をお伝えしたく。そしてまた、今回の助力に対しても重ねて感謝を――」
いや、無理だって。
実際のところ、僕は何もしていないんだけどな。
「じゃあさ、どうしたいのかとか、どうすればいいのかとか教えて?」
「イブキ様の御心のままに。我々機人は、戦力として。そしてイブキ様の手足としてお使いいただきたくお願い申し上げる次第です」
「駄目だこりゃ……」
これはあれかな、優秀(?)な手下ができたって、思えばいいのかな?
「姉さんヘルプ」
「ああ、そうだな、弟専用の手下でいいと思う。ハッキングして記録を全部見てみたが、確かにどの世界線でも弟がキーパーソンとして、機人の危機に動いている。必然なのか、偶然なのかは全く分からないがね。まあ弟だから、いつもの世界の忖度だろうが」
「そんな忖度いらないよ。ついでに、僕、何も言っていないんだけど……」
「そしてこの機人の衛星だが、どうやら折り畳めるようでな。最小サイズがゴルフボールくらいで、出入りする場合は扉サイズに展開するようだ。まあ、今のこのサイズが基本らしいから、相当な大きさがあるが」
「科学だよね? 魔法よりよっぽど魔法っぽいんだけど」
僕が姉と話している間、静かに待っていた金髪機人がすっと頭を下げた。
「それでは、よろしくお願いいたします。それから保護の件なのですが、あの先の星の、原住民であるエルフ氏族、約3000名の保護を」
「やっと本題か。それは構わないが、その人数だけではあるまい?」
「はい。我々がこの星に目を付けてから1000年ほど経ちますが、辿り着いた時には既に宇宙烏賊、宇宙蛸の侵略を受けており、約3000名は喫緊で対応し保護できた現地民の数になります」
「烏賊と蛸の生態は、生物の捕食、さらに植物すらも捕食対象になるから、同時に深刻な自然破壊も起こす……と。現在の星がどうなっているのか、分かっているのかい?」
姉の言葉に頷いた金髪機人は、近くの使用人機人に何か指図をする。
静かな機械音がして、ガラス側の天井から大型モニターが降下してきた。
星に下りた小型宇宙船の映像が流れる。
蛸が、空を駆けるドラゴンのドラゴンブレスで一瞬で燃え尽きるところが、しっかりと記録されていた。そして次に小型宇宙船がドラゴンの標的になったらしく、ドラゴンブレスで映像が真っ白に染まりそこで途切れた。
「いや、こっちも普通にやられるの!?」
びっくりするよね、普通に攻撃を受けて破壊されてるんだもの。
画面が切り替わって、新しい映像に変わった。
今度は海、海面近くに降りていく烏賊が、海面から首だけ出した海竜のウォーターブレスで爆散した。そしてやっぱり、小型船の映像は海竜の放ったウォーターブレスに押しつぶされて、ノイズとともにブラックアウトする。
巨大な鳥が突然炎を纏い、烏賊を焼却させた映像も、やっぱり小型宇宙船が攻撃対象になって燃え尽きた。巨大な、たぶんビルほどもある蜘蛛が、蛸を雁字搦めにして捕食している映像も、さすがに無事だと思った次の瞬間、猛烈な速度で地面に叩き付けられた。かろうじて回ったカメラに写ったのは、山のような巨大なゴーレムが両腕を振り下ろして残心している姿だった。
グリフォンなんかは、普通に飛びかかって前足で蛸頭を粉砕して、残った足を食べ始めた。結局この映像もまた、視界が真っ白に染まって消えた。どうやら別方向に、ドラゴンがいたらしい。
いや何この魔境。
恐らくある程度以上の高さを飛んでいると、大型生物のテリトリーに入るのか、排除対象になっている感じ。いやほんと、マジ魔境。
ふと、既視感を感じた。前にもこんな光景、夢とかで見たような気が……?
「よし、地上に向かおうか」
「ちょっと、姉さん!? この破壊されるだけの映像で、どうしてそういう結論に達するのさ!?」
「こちらはダンジョンだ。破壊不能オブジェクトが壊れるなら、それはそれで諦めが付くだろう。何よりこの星は、地上に下りることさえできれば確実に安全が保証されている。チャレンジする価値はあるだろう」
「本気で言ってるの!?」
「……イブキが、方舟のコアに魔力を注ぎ続けるなら、耐えられる公算は高そうね。一応だけれど、賛成票に一票入れるわ」
「ミモザも!?」
どこまで本気なのか。両側に座る二人の顔を交互に見て、どうも意志が固いことを再確認して僕は、大きく深くため息をついた。
まあ確かに、僕たちが移住できそうな惑星が目の前にある。
宇宙烏賊と宇宙蛸の襲撃を受け続けている極大の危険性はあるものの、それも現地にいる大型生物がある程度は駆除してくれそうだ。その宇宙烏賊と宇宙蛸は、基本生息域が宇宙空間で、捕食のためだけに地上に下りる感じだ。だとすれば、逆に安全なのか?
「まあ、方舟ありきの計画だがね。うかつに外を出歩けば、烏賊や蛸に襲われる可能性は高い」
「駄目じゃん」
そんなわけで、目の前の星。ナナナシア星に下りることになった。
方舟に戻り、姉は状況説明のために僕らと別れて執行部に向かっていった。少なくとも青い海と緑一色の大陸が見える星に、行かない選択肢はないと思う。
さて僕らは、再び方舟ターミナルにいる。
「ここのターミナルから下りられるの?」
「モモカさんから立体図を貰っているわ。極秘データだから、この携帯電話でしか見られないけれど。入って左が方舟ターミナルのエレベーター、右が下層へアクセスする階層エレベーターよ。最下層の移動と認証は、マシキがやってくれるらしいわ」
『お任せください。特殊権限を受信済みです』
無人のターミナルを、ミモザの案内で進んでいく
例の、金髪機人は難民エルフ氏族の移動処理のため、姉と一緒に執行部に向かっている。用事が済み次第、僕のいる場所まで来ることになっている。何でか分からないけれど、僕の周りには常にミモザと金髪機人がいる状態になるらしい。
そして機人の衛星は、金髪機人の額に収納された。意味が分からなかった。
ちなみに、金髪機人に固有名称はない。
機人の個々に意思は別だけれど、全部が同一個体な為に個別の名称がないって言われた。呼ぶ時困るんだけど、考えてみれば会話が成り立たないだろうし、あまり会話する気が起きない。やっぱり名前はどうでもいいかって思い直した。
階層エレベーターに乗って、農業層、工業層、海洋層を通過して、最下層である機関層に下りる。連絡通路を歩き隔離扉の前に辿り着いた。壁の認証機器に僕の携帯電話をかざすと、隔離扉が奥に向かって一つずつ開いていく。
まさかまた、ここに来ることになるとは。ミモザと顔を見合わせて、どちらともなく手を握った。
そうして僕らは、メインエンジンルームに入った。
相変わらず広いメインエンジンルームの中心には巨大ダンジョンコアがあって、そのダンジョンコアを中心にして、周囲を円形に囲むように数百機の補助エンジンがあった。今も補助エンジンが、静かに稼働音を立てている。
中心まで進んで僕らは、ダンジョンコアの前で立ち止まった。
何か、緊張してきた。




