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『追放悪役令嬢の発酵無双 〜腐敗した王国を、前世の知識(バイオテクノロジー)で美味しく改革します〜』  作者: 杜陽月
腐敗の王国と科学の夜明け

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新たなる夜明け

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

王太子と聖女は断罪され、王国の腐敗は一つの終焉を迎えました。

しかし、物語はまだ終わりません。これは、終章であると同時に、次なる物語への序章です。

絶望の淵から王国を救ったイザベラとレオンハルト。二人が蒔く「未来への種」が、これからどのような芽を出すのか。新たな時代の幕開けを、どうぞ見届けてください。

 王都エーデンガルドは、静かだった。

 数日前までの暴動の熱狂が嘘のように、人々はただ、静かに配給の列に並び、ヴェルテンベルクから運ばれた温かい麦粥をすすっていた 。その光景は、復興にはまだ程遠い、この国の深い傷跡を物語っていたが、しかし、人々の瞳には、飢えと憎悪に代わって、微かな安堵の色が戻りつつあった 。


 王城の執務室は、レオンハルトによって臨時で設えられた合同作戦司令部と化していた 。



「バルド将軍、食料の配給ルートは確保を。クラウス、君の騎士団には王都内の治安維持を頼む。反乱分子の炙り出しも重要だが、飢えた()()力で(・・)抑えつけるな(・・・・・・)。我々は、略奪者ではない」

 レオンハルトの的確な指示が、よどみなく飛ぶ。それは、長年、国の最前線で戦い続けてきた彼だからこそ可能な、混乱を収拾するための力強い指揮だった 。


 私は、その喧騒から少し離れたバルコニーで、王都の空を眺めていた。手の中には、あの水晶の砂漠から採取した、白い結晶が一つ 。



(これは、単なる塩化ナトリウムではない……。土壌の生命力――マナ(・・)とでも言うべき有機的エネルギーが、聖女の魔法によって強制的に触媒とされ、珪素化合物と融合した結果……。一種のガラス化現象。だが、これだけの質量を変換するには、どれほどのエネルギーが……)



 思考の海に沈みかけた私の肩に、そっと、上着が掛けられた。振り向くと、いつの間にかレオンハルトが隣に立っている 。



「夜は冷える。研究に没頭するのもいいが、君は今や、この国の未来そのもの(・・・・・・)なのだからな。風邪でも引かれたら、俺が困る」

「……ありがとうございます、レオンハルト様」

 そのぶっきらぼうな優しさが、今は心地よかった。私たちは、言葉もなく、しばらく王都の夜景を見つめていた。無数の家々から、ぽつり、ぽつりと、灯りがともり始めている。それは、まるで、絶望の大地に蒔かれた、小さな希望の種のようだった 。


「……イザベラ」

 不意に、彼が私の名を呼んだ。その声は、いつになく真剣だった 。



「君は、これからどうするつもりだ。……いや、俺たち(・・・)は、どうすべきだと考えている?」

 その問いに、私は手の中の結晶を強く握りしめた 。



「まずは、土壌の再生です。この水晶の砂漠を、もう一度、緑の大地に戻します。時間はかかりますが、私の科学なら、必ず可能です」

「……そうか」

「ですが、それだけでは足りません。この国は、あまりにも長く、聖女(・・)という偽りの奇跡(・・)に依存しすぎていた。その根を断ち切らなければ、同じ過ちが繰り返されるだけです」


 私の言葉に、レオンハルトが息を呑むのが分かった。彼は、私が何を見据えているのかを、正確に理解したのだろう 。



「……それは、教会(・・)と、その背後にいる者たちを敵に回すということだぞ。俺がこれまで戦ってきた北の蛮族など、赤子同然の、見えざる帝国(・・・・・・)との戦いになる」

「ええ、存じております。だからこそ、あなたが必要なのです、レオンハルト様。私の科学が、この国を立て直すための『(すき)』や『(くわ)』ならば、あなたは、その未来を守るための『(つるぎ)』であり、『(たて)』ですから」



 私がそう言って微笑むと、彼は一瞬、驚いたように目を見開き、それから、ふっと、氷を溶かすような穏やかな笑みを浮かべた 。



「……面白いことを言う。鋤や鍬が、剣や盾を必要とするか。ならば、その契約、受けよう。俺の剣は、君の未来のために。この身も、この心も、全て君に捧げよう。……我が、未来の王妃陛下(・・・・)

 彼は、私の手を取り、その甲に、恭しく口づけを落とした 。



 ざわめく胸の痛み。それは、もう、未知の変数などではない。私の計算式を、良い意味で狂わせてくれる、唯一の、そして最も大切な定数 。


 しかし、私たちは、まだ知らなかった。

 その時、遥か西方の『(せい)アグネス神聖法国(しんせいほうこく)』の奥深く、ステンドグラスに囲まれた一室で、一人の老人が、水晶の盤に映る私たちの姿を、冷たい瞳で見つめていたことを 。



異分子(イレギュラー)……『エデン』のシステムに干渉する、予測不能なバグめ。だが、それもここまでだ。愚かな羊には、羊飼いの導きが必要なのだよ」

 老人の傍らには、顔をフードで隠した、謎の人物が控えていた 。



「次の『駒』の準備は?」

「は。いつでも」

「よろしい。新たな聖女を立て、異端(いたん)魔女(まじょ)に、神の鉄槌を下すがいい」



 ヴェルテンベルクで産声を上げた科学の光が、この世界の深き闇を照らし出すまで、物語は、まだ始まったばかりであった 。

最後まで第一部をお読みいただき、誠にありがとうございました。

イザベラの逆転劇は、ひとまずの幕引きとなります。しかし、彼女の、そしてこの国の物語は、まだ始まったばかりです。

本日12時10分に更新予定です。

第二部では、さらにスケールアップした王国改革、そして新たな脅威との対決が描かれます。

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