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エメラルダの卵  作者: 佐藤 綾
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クリステル=アディール 59


寒い・・・

私は両腕で体を抱きしめるようにして、寒さを逃れようとしたが奥のほうから冷たい風が流れ込んでくる。


「ここは、巻物の中よね?」


パックは頷いてくれたが、怖いのかブルブルと胸元で震えている。

クレイブの肩に乗っているアクアも厳しい顔をしている。


「主様・・・ここは嫌な感じがしますわ」


「ああ、奥にすごい魔力を感じるな」


「その魔力が妖精エリザベートなのかしら。でも、初代の妖精がまだ生存しているのかしら・・・」


「いま、気にしてもしょうがないだろう。それより、覚悟はいいか」


私は先輩の目をまっすぐ捕らえて頷いた。頷きながら、見送ってくれたダニエル先生のことを思い浮かべた・・・


ダニエル=スティーブン。生物の先生でもあり、ダスト様と同じ家名をもつ方。私をこの世界に興味を持たせるきっかけになった人。思えば、最初から誰かに誘導されていたのかもしれない。順調に知りたいことが次々にでてきたことに、疑問をもてばよかった。

私を誘導させてなにがしたいのだろう・・・

でもここまできたら、指定された道だろうと自分の意志をしっかりもたないと!


「もちろんよ。ライアー先輩も覚悟はいいかしら?」


「ああ」


そう言って、私の頭を撫でる。撫でられながら、ありがとうと呟くと先輩は、さらにめいいっぱい頭を撫でる。


「さあ、いくぞ!」


奥へ向かって私達は踏み出した。これが、私の自由な時間が終わると心の中で思った。最後に私がやりたいことをやる。それが、誰に憎まれようとも私の意志を貫きたい。そのためには、犠牲にしないといけないものがあるけれど・・・


奥に進むと、水晶で囲まれた部屋にでた。一歩部屋に入ると、冷たい魔力を感じた。


「主様・・・!」


隣でアクアの叫び声が聞こえた。

見ると、足下からみるみる水晶で固まっていく。まるで、この部屋の水晶のように・・・

先輩の炎をもってしても、水晶は破られない。どうすればいいの?


「穢れし者が、なにをしにきた?」


氷のように冷たい声にぞくっとした。水晶の奥から、聞こえてくる。声の主は、だんだんと水晶の奥で姿を現していく。燃えるように真っ赤な髪に、満月のように輝く瞳。人間と同じ大きさだが、一枚だけある透明な羽が妖精であることを主張している。羽を優雅に煌めかせた1人の妖精がそこに佇んでいた。


「妾は、水晶の宮の主エリザベート。そこにいる妖精は、ここに相応しくない」


なんて美しい・・・


エリザベートはとても冷たく美しい妖精だった。その瞳に魅せられると、平伏したくなるほどだった。


「アクアになにをする!早くなんとかしろ!」


クレイブの悲痛な声が響く。アクアは、後少しで顔まで水晶に覆われてしまう。エリザベートがふぅっと息を吹きかけると、水晶化が止まった。


「煩い人間じゃのぉ。こやつは、主従契約をした穢れた妖精じゃ」


「契約をするのが妖精ではないのですか?契約の善し悪しに何か意味があるのですか?」


「面白い女であるなぁ」


エリザベートが高笑いをした。


「なにがおかしい?あんたら、妖精はみんないっしょだろ。仲間なんじゃないのか?」


「この何千年で、妖精も人間もそんなことも知らなんだ・・・主従契約とは、人間を食べて乗っ取る契約だ。純粋な契約とは違うぞ。どれ、こやつの記憶でも貰ってやる」


エリザベートは、アクアの胸に手を当てた。アクアの胸からキラキラと輝く石を取り出した。石は、エリザベートの手のひらに溶け込みなくなった。その瞬間、アクアの全身が結晶化される。


「お前っ!!」


「そこの人間の妹を食べたのか。なぁ、クレイブとやら。妹を食べた妖精のことを本当は憎かろう?そなたの望みを叶えるには、その妖精では無理じゃ。そなたは、契約の石碑が知りたいのかぇ?私はそのありかを知っているぞ」


アクアの記憶を読みとったのか、教えていないことを知っている。胸元のパックをみると、ぶるぶると震えが止まらない様子だ。


エリザベートが、呪文を唱えると二つの石碑が現れた。それが私達が捜していたものなのかしら。エリザベートの威圧感で石碑にまったく近寄ることができない。


「契約の石碑をだしてやったわ。さぁ、そなたの大切なものを頂くぞ」


エリザベートはクレイブに手を伸ばす。私は先輩に肩を押さえつけられてなにもできない。


「先輩・・・」


「いまは、だめだ。隙がなさすぎる」


エリザベートのゆっくりとした動作に誰もがみとれるほどに美しかった。クレイブの顔を両手で挟み込み、優雅に微笑んだ瞬間、クレイブの胸から石を取り出した。


「ふむ・・クレイブそなた、隣国の血が混じっているのか・・・穢らわしい。エメラルダの血も混じってるせいでここまで来れたようだが。でも・・・残念じゃ、それもここで終わりじゃ」


クレイブは足元から水晶に覆われ始める。


「やめて!」


必死で懇願するも、エリザベートはふぅっと息を吹きかけて水晶化の速度を速めた。あっという間に、クレイブが水晶に覆われてしまった。


ひどい・・・


美しい妖精は、自分が悪と思ったものは容赦しない。こんな妖精と対等に話し合うことなんてできるのかしら・・・


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