クリステル=アディール 60
「さて、そなたらもこやつと同じ目的かの?」
エリザベートの冷たい視線がこちらへむける。その瞬間、心がつかまれたかのように心臓がドキドキした。
「私は、クリステル=アディールと申します。ダニエル先生・・・ダニエル=スティーブンに案内されてここまできました。私は、この国のことについて知りたいです。エリザベート様。なぜこの国の民に魔法を与えたのでしょうか?」
エリザベートに敬意をはらって自己紹介をすると、エリザベートはくすりと笑った。
「そなたが、クリステルか。そなたのことは、風の言霊にのってここまで噂が聞こえてくるぞ。妖精の話がでるたびに、そなたの名があったからな。ダニエルの紹介というのが、いささか信用ならんがな」
エリザベートがパチンと指を鳴らすと、水晶の一部に男性の姿が写し出される。
「初代エメラルダ王じゃ。妾は生まれ出てからずっと独りだった。そやつが初めて妾を見つけて話をしてくれたのじゃ。対等な目線でな。しかし・・・どんどん土地は痩せこけていき、作物がとれなくなった。もともと、人が住む場所ではないからのぉ。あやつは、この土地を離れるといった。またこの場所に独りになると思った妾は、民に魔法という力を与えて人が住める場所にすればよいと思ったのじゃ。さて・・こんなところかの?妾に話をさせて、対価はどうするのじゃ?」
エリザベートの問いにひやりとした。この程度で、対価を払わなきゃならないなんて・・・
胸元のパックをみると、口をパクパク動かしている。
「質問に答えてくださってありがとうございます。対価として、私の記憶をご覧いただくのはいかがですか?」
パックの助言にしたがってエリザベートに問いかける。
話を聞いただけなんだから、対価も軽くなるはずだ。
「いいじゃろう」
エリザベートが私の元に訪れる。
美しいその姿に心も体もささげたくなってしまうほどだ。
私の頬に触れたとたん、走馬灯のように生まれてから現在の私までの人生がめまぐるしく頭の中で映像がよぎった。
頬から手を離され、ふらついた私を先輩がささえてくれる。
「お主、面白いのぉ。お主が関わるとこんなにも死人がでるのだな。それに、エメラルダの血筋のものとも懇意にしておるのか。こんな面白いものを見せてもらったお礼におまけにもう一つ答えてやろう。他になにが聞きたいかぇ?」
死人という言葉に、私の胸が跳ねた。人の死を楽しむような言葉を言うなんて・・・
「ありがとうございます。では、二つ目の質問です。血の刻印と血の血界以外にこの国特有の魔法をなにかかけていますか?」
血の刻印とは、エメラルダの血を引くものは、この国でしか生まれないようにすること。
血の結界とは、そして、この地にはエメラルダの血を引くものしか踏み込めないようにしてほしい。
この二つ以外に、おかしな点がある。先輩やクレイブから聞いた隣の国の状況やメレイカ様に頂いた資料を合わせると明らかに、エメラルダで起こりえることが隣国に集中している。災害や作物の収穫、病気の蔓延や出産・・・考えられるのはエメラルダに危険を及ぼそうとするものを隣国へ肩代わりさせているということ。
「そなた、何を考えておる」
さっきの笑い声とは変わって、鋭い声に変わった。
「エメラルダ10世が契約した石碑を見せていただけませんか?私は真実を知りたいのです」
エリザベートから冷たい風が吹き荒れる。あたりの冷たさが増していく。
「知ってどうする?ほかの奴同様に、契約を取り消せというのか?ダニエルのように、新たな契約を結ぼうとするのか?」
「新たな契約?」
「ダニエルは愚かじゃ・・・あれだけ目をかけてやったのに、自分の息子がかわいくなったのか、息子と結婚させたいから聖女の子孫に力を与えろというではないか。皆には、契約で聖女のことを忘れさせたからのぉ・・・王家の血筋なのに平民並みの扱いとなっているのは妾のせいじゃないぞ。しかし聖女の血が流れているかと思うと・・・おぞましいわ」
エリザベートの瞳に憎しみの光が宿る。燃え盛る炎の髪が宙にあがり、水晶のかけらがこちらを向いている。
エリザベートが言っているのは、メレイカ様のことだわ・・・私の記憶で知り合いということは知っているはず。なぜ、そんなにも聖女を憎むの?
「なぜそんなにも聖女を憎むのですか?」
「聖女は・・・裏切ったからじゃ。よりにもよって、隣国の男と逃げおおせた。あやつがどんな思いでいたのかも知らずにな!」
エリザベートの水晶が、思い共に私に向かって飛んでくる。突き刺さると覚悟して、目を閉じたが・・・目の前には先輩の背中が見えた。
「先輩!」




