クリステル=アディール 57
目が覚めると、ベッドには自分しかいなかった。先輩を探したけど、隣に座っていた所をさわると冷たい。どのくらい自分は寝てしまったのだろうと外を確認するが、まだ空は暗いままだった。
もしかして夢だったのかしら・・・
唇に手を当てると、微かに舌を絡めた余韻を感じた。
これじゃあ、ウェル様と先輩の2人とつき合っているみたいじゃない・・・
前世の付き合ってた彼のような行為は、絶対しないと思っていたのに、先輩の熱に抗えない自分がいた。
ベッドから起きて、ドレスを整える。
さて、行動しないと・・・
神殿にクレイブはいると言っていたわね。
ドアをそっとあけて、玄関まで静かに移動した。玄関のドアをあけようとドアノブを手にすると、後ろから呼び止められた。
「クリス・・・」
ウェル様は、困った顔をして近づいてくる。
「どこへ行くんだい?」
「神殿へ・・・」
「夜は危ないよ」
やっぱり反対されて、連れ戻されちゃうかしら。ウェル様をじっと見つめられ、ため息をつかれた。
「いいよ、僕と一緒にいこう。だめって言っても聞く子じゃないからね。それに僕なら神殿への道はすぐに開けることができる」
コートを羽織り、私の手を繋いで玄関の外ではなく、家の中にある地下へと向かった。
「ここは・・・?」
「この屋敷と神殿は繋がっているんだ。王族専用の通路だよ」
少しカビくさい廊下を私達は歩く。
さっきまで一緒にいた先輩に伝えておけばよかった。私のことを探していたらどうしようと、そわそわしていたらウェル様が大丈夫だよっと声をかけてくれた。
「クリスが慕っている先輩は、先に神殿にいってもらったよ」
「えっ、ウェル様知ってらしたんですか」
私は立ち止まったが、ウェル様が握る手が強く、引き寄せられた。
「クリスのことなら、なんでもわかるよ。魔力の波動をみれば、どんなことしていたのか手に取るようにわかる。彼には対価をあげたようだけど、僕にも対価が必要だと思わない?」
ウェル様の瞳には、苛立ちの色が滲んでいた。
魔力の波動で先輩とキスしたこともわかってしたったのかしら・・・
確かに、ウェル様に対して少し後ろめたい気持ちが私にはあった。
宥めるようにして背伸びをしながら反対の手で頬を触ると、ウェル様は私の手をその上から握った。親指で唇を触るとパクリと食べられてしまった。そのまま親指はウェル様の唇ではむはむとされる。
その行為が恥ずかしくてたまらなくなり、手を引っ込めようとしたが、押さえつけられてしまい身動きできない。
「彼とはどんな風にキスしたの?」
私は首を振るが、ウェル様はむすっとして私の首にちりっとした痛みが伴う口づけをした。
「クリス、教えて?」
聞かれる度に、ちりっとした痛みが増えていく・・・こんなの普通のキスより耐えられない。私はウェル様の瞳を見つめてお願いをした。
「口を少しあけてください」
ウェル様はにこっと笑い、私のお願いのまま口を少し開けた。私も少し口を開き、ウェル様の頬を引き寄せて唇を重ねた。
重ねたとたんに、ぎゅっと抱きしめられ、互いの息がまじあうほど、濃厚なものになっていく。
唇を離すたびに、好きだと言われて唇を舐められる。ちゅっと口づけをかわすたびにリップ音が鳴り、余計に恥ずかしくてかわそうとするが、ウェル様はわざとリップ音をだして羞恥を誘っている。
口づけの主導権は、次第にウェル様よりになっていき、翻弄されるがまま口づけを受けてしまった。
足に力が入らなくなると、ウェル様の足が足の間に入り支えながらキスを繰り返す。やまないキスの嵐に、私は次第に夢中になってしまった。
「クリス、もう少し口をあけて」
「んっ、ウェル様・・・」
首を振っているのに、いわれるがまま口を空けてしまう自分に呆れてしまう。甘美な誘惑には逆らえず、ウェル様の口づけを止められなくなってしまいそう。
先輩の荒々しい口づけとは違って、ウェル様の口づけはひたすら優しく羞恥を誘うキスだった。
やっと唇が離れた時には、身体から力がはいらずにウェル様によりかかってしまった。それをみたウェル様は、私を抱き上げた。
「ウェル様、重いですから・・・降ろしてください」
お姫様抱っこをしながら、ウェル様はくすくすと笑った。
「神殿までエスコートさせて。それに、キスのせいで力がはいらないだろう?」
ウェル様には、なぜ分かってしまうんだろう。恥ずかしいが大人しく、抱っこされるがままウェル様の温もりを感じていた。
「なんか・・・懐かしいです。小さい頃こうやってお姫様抱っこをしてくれましたよね」
「ああ、庭をたくさん駆け回った後、いつもクリスは疲れて眠ってしまったね。しょうがなく、お姫様抱っこするんだけど・・・嘘寝の場合がほとんどだったね」
「ばれていたんですか?あ、あれは・・・ウェル様に甘えたかったんです。月に一度しか会えないウェル兄様にかまってほしくて・・・」
「違うだろ?」
「えっ・・・」
「もう兄様じゃないだろ。あんなキスした仲なのに」
先ほどのキスを思い出すと、恥ずかしくてウェル様の胸に顔を隠した。
「ウェル様、そんなこと言わないでください・・・」
おでこにそっとキスをされて、ウェル様は愛しいものをみるような瞳で私を見つめる。
「そろそろ、神殿につくよ」
地下通路から地上へ出る階段を登る。
私はウェル様からそっと降ろしてもらい、目の前にそびえ立つ白磁の神殿へ目を向けた。
大きい・・・
こんなところに、クレイブは忍び込んだのね。
「ほら、あそこにクリスの先輩がいるよ」
神殿に隠れるように、茂みの側に先輩がいた。先輩もこちらに気づいて、近づいてくる。
私とウェル様が並んでる様子を、なんとなくみてほしくないなって思ったけど口には出せなかった。
「ライアー=レイモンド。僕が入り口で周囲を引き寄せるから、クリスを頼むぞ」
先輩は、その言葉に頷いた。
いつの間に、ふたりの中で役割を決めていたんだろうか。
「ウェル様も気をつけてくださいね」
「ああ、クリスも自分の意志を通すんだぞ」
「はい!」
先輩に連れられて、私は神殿の奥へと侵入した。




