クリステル=アディール 56
さすがに魔力の使いすぎからか、体が重くてたまらなかった。用意された寝室へと向かい、広いベッドに倒れ込んだ。
せっかくドレスアップしてもらったのに、体が限界みたい・・・
少しだけ目を閉じると、深い眠りへと誘われた。
(ははさまーははさまー)
どこかで小さな女の子の声がする。
短い金髪の髪がゆるいウェーブかかっているお姫様みたいな女の子。
これは・・・わたし?
(あらあら、クリスはどうして泣いているの?)
目の前にいる母の足に、女の子がすがる。
(とうさまが、いえからでてはいけないというの)
母は、女の子を抱っこして目に浮かんだ涙を指でふき取った。
(あなたは、大切な子供だから守ってあげないといけないの)
(なにからまもってくれるの?)
母がなにやら口にしていたが、そこだけもやがかかったように聞こえてこない。
(ははさま?)
母の姿が遠ざかっていき、女の子の声も聞こえなくなった。
目を覚ますと、ドレスのままベッドに倒れ込んだままの姿だった。そのまま寝てしまったらしく、外は真っ暗だった。
真っ暗な外に、小さい灯りがチラチラとみえた。
なんの光だろう?っと疑問に思い窓を開けると黒い影が飛び込んできた。
「ライアー先輩?」
赤茶の髪が、暗闇で黒く染まってはいるが顔をみたら、探していたその人であった。
先輩は、無事でよかったと言って私を抱き締めた。私も先輩が無事でよかったと背中に手を回した。
「心配したんだぞ。どこに転送したのか探すのに苦労した。パックの風魔法のおかげでここまでこれた」
寝室に先輩を案内して、窓を素早くしめた。椅子がひとつしかなかったため2人でベッドに座り、まずは情報の確認をした。
私の転送先が王家の敷地であることを伝えると
先輩は困った顔をした。
「だから警備が厳しかったのか。この部屋に近づくのも大変だった」
「先輩、クレイブとアクアは?」
まぁ、落ち着けと頭を撫でられた。
「俺たちが転送された場所は、ここの隣の敷地・・・神殿だ。クレイブは、そこに残って中を探ってもらっている。クリスのことも心配してたぞ」
神殿にでたということは、神殿に石碑があるということかしら。話を聞いていると、今すぐ探しにいきたくなってしまう。
クライブの魔力量も大丈夫かしら・・・
そわそわと、落ち着きなく手をもじもじしていると、先輩に手をぎゅっと握られた。
先輩の目が私を捉える。
「もし今回の件で、クリスがこの国から逃げたくなったら俺が連れていくからな。俺だったら隣国へ行ったことがあるし、旅の経験もある」
「先輩は頼りになりますね。でも、先輩はやっと本当の両親に会えたのに・・・そんなこといわないでください。時期に貴族の一員になれるとも聞きました」
「俺の両親のことを聞いたのか?確かに貴族だけど、育てられたのは平民である養母だ。貴族になったってうまく馴染めないだろう。クリスが隣にいてくれたら、俺はどこへでも行けるような気がするんだ」
先輩・・・
勘違いになりそうなほど、熱い眼差しで見つめられる。その空気を気にしないように、私は笑顔で返事をちゃかして返す。
「先輩は優しいですね。どうにもならなくなったら、2人で旅でもしましょうか?私だって守られてばかりじゃなくて、先輩のことを守ってみせますよ」
「それ、本気でいってるのか?」
手を引っ張られて、後ろのベッドにぱふんと倒れた。先輩の重みで、ベッドが軋しむ。お互いの顔が至近距離にあり、慌てて顔を横に反らした。
「先輩、からかわないでください・・・」
横目で先輩をみると、とろけそうな目つきで私の髪を撫でていた。その指が流れるように私の頬に添えられる。くすぐったさに、体を揺らすと先輩の顔が首に近づきキスをした。
「クリスは、美しい。見た目もそうだし、貴族らしくない考え方がとても好きだ。自分以外の誰かのために考え行動しているだろう」
先輩が耳元で話すたびに、ぞくっと体が震えた。私はベッドに押し倒されながら、首をふる。
「先輩は勘違いしています。私は、結局自分のために行動しているにすぎません」
胸の中でくすぶっているのは、昔から思い続けたあの人への恋情・・・
それを断ち切れるとなぜ思ったのだろうか。
「だから、先輩は私のこと見捨てていいんです。助けなくてもいいんです。先輩の思いに私は・・・」
これだけ助けてもらったのに、私は先輩に何一つ返せそうにないのが、すごく申し訳ない。
目からとめどなく涙がこぼれ落ちる。
次の言葉を口にしようとしたとたんに、先輩の唇でふさがれる。
「んっ」
言葉を飲み込むほどの、強引なキスだった。
唇を離しては、こぼれ落ちる涙を唇に絡め取られる。口づけは次第に深いものになり、私は息をするので精一杯だった。お互いの身体の熱がわからないぐらいに重なっていた。
先輩は、ドレスを結んでいる紐を手に持って口づける。
「青いドレス・・・殿下の色か・・・」
ドレスの紐をしゅるっとほどかれる。
これ以上はだめ・・・はだけそうになるドレスの胸元を手で押さえ、潤んだ瞳で先輩を見つめた。
「お前・・・」
先輩はため息をついて、ドレスの紐を直す。
「殿下が、好きなんだな・・・」
私は唇をぎゅっと結んで頷いた。
もうこれ以上、先輩には嘘をつきたくない。
「じゃあ、今だけでいい。今までのお礼、いや・・・これから手伝う分の対価がほしい」
私の唇に人差し指でつんつんとされ、口の中に先輩の指が潜り込む。指が舌を捉えて、逃げようとしてもついてくる。
涙目で先輩に抗議すると、指を離されて先輩の舌が代わりに口内へ忍び込む。舌で歯列をなぞられるたびに身体がびくっと跳ねてしまう。
それをまぎわらすように、必死で先輩の服を掴む。やがて、服を掴んだ手をひとつずつ外されて先輩の手に絡め取られた。
何度も啄むようなキスから、唇を開かせる大人のキスをされると、頭の中が先輩に溶かされてしまうようだった。
長い間キスをしていたと思ってしまうほど先輩との行為に溺れてしまっていた。唇を離された瞬間に舌で追う自分がいた。舌を出して先輩の唇を求めるてしまう。
「煽るな」
そう言って、先輩はキスの続きをしてくれた。やがてキスを落とされながら私は先輩の腕の中で眠りについてしまった。




