クリステル=アディール 55
「ウェル様!」
「クリスどうしてこんなところに・・・大丈夫かい?」
ウェル様は、私の手を取ってたたせてくれた。
私は、妖精の道を通って転送魔法陣を発動させたことや先輩達とはぐれてしまったことを説明した。
ウェル様は、泥だらけの私を見てため息をついた。そして、お姫様だっこをされて家の中へと案内された。
「ウェル様!?」
「クリス、僕はライアー=レイモンドの転送魔法で先に帰らされたんだよ。あれは、クリスの案なんだよね?」
ウェル様は、黒い笑顔を私にむけた。
そうだったわ。
残って調査したいために、ウェル様達を先に転送してもらったのに・・・
「ごめんなさい」
素直に謝ると、ウェル様はやれやれといった感じで、もういいよと言ってくれた。
ひとまず、泥だらけの私を着替えさせるように侍女に指示した。
泥だらけの服を脱いで、用意されたドレスを確認する。
空のように真っ青なドレスは、星を散りばめたように所々に小さな宝石がついていた。靴は銀色のバレエシューズのようなものが用意されていた。殿下からですっといわれたら、着るしかないわよね。ウェル様の瞳の色と同じドレスに袖を通すのは、少し恥ずかしかった。
着替えた後はサロンへ通されると、ウェル様がエスコートしてくださった。
「ドレスありがとうございます」
「よく似合うよ」
ソファーに座ると、手の前のテーブルに紅茶とケーキがおかれた。紅茶を一口飲むと、さっそく本題にはいる。
「ここは、王族が所有している別荘のうちの1つだよ。未開拓地から帰されたあと、父に報告してからここで待っていたんだ。ここなら、クリスの家に近いしね。もうすぐ暗くなるから今日はここに泊まっていきなよ」
外をみると、夕焼け空がみえる。朝からいろいろあったけど、まだなにも成果をだしていない。それに離れてしまった2人が気になってしまう・・・
「ウェル様、申し訳ありませんが、これからライアー先輩を探しにいかないといけません。危険なところに転送したと思うと・・・」
ウェル様は、首をふった。
「クリスが闇雲に探しても見つからないと思うよ。それに彼なら、早々に悪いことはおきないだろう。彼にも妖精の加護があることだし。それより、クリスは少し休んだほうがいい。まずは、甘いものでも食べて」
うーんと考えながら、勧められたらケーキを一口食べる。甘い生クリームの味が幸せすぎる。つい、顔がふにゃってしまう。
いけないいけない。ウェル様の前だからきちんとしないとと思い、顔を引き締める。ウェル様はしっかりと見ていたらしく、くすくすと笑っている。
「クリス、君が知りたいと思っていることなら、僕に聞いた方が早いと思うよ。こう見えても、王族の一員だからね」
ケーキを食べ終えて、皿にフォークをおいた。
「ウェル様に聞くことも考えましたけれど、私の行為は王族の意志を揺らがせるものかと思いまして・・・」
向かいに座っていたウェル様は、私の隣に座り直した。手をぎゅっと握られてしまい、どきっと心がはねた。
「クリスが手にはいるなら、僕はなんでもするよ?王族の意向なんて僕には関係ないよ」
「でも・・・」
口にしようとした言葉は、ウェル様の唇が重なり空中に消えた。
唇を何度も啄まれ、角度を変えて深めていく。
「んっ・・・ウェル様・・・」
抗議しようとする唇を何度も塞がれて、最後は2人の吐息しか聞こえなかった。
ようやく離されたと思ったら、体から力が抜けてしまい、ウェル様にもたれかかってしまった。
「今のは、魔力譲渡じゃないからね」
満面の笑みで、釘を指される。耳元で恋人のキスだよと言われ、頬が熱くなってしまった。
「クリスは、妖精の契約について調べているんだろう。ナターシャについても妖精が関わっていることはわかったかい?」
「ウェル様は知ってらしたんですか!?知っていたなら何故止めなかったのです?」
「妖精のことを教えないのは、契約違反だからね。それに妖精のことは、エリザベートの森でしか口にしてはいけないよ。妖精は自分のことを話されるとわかるものだから」
契約違反・・・
ウェル様は、やはり王家よりの考えなのかしら。そしたら、私がやろうとしていることは止められるかもしれない。
「小さい頃からクリスを見てきたんだ。クリスがどうしたいのかも分かるよ。僕は、いずれ王になる。その時は、クリスの思うとおりに国を動かしてあげることもできるよ。それが、民に恨まれることですら・・・」
ウェル様の言葉は、甘くて優しい。
だから自分でやりとげないといけないという気持ちが沸いてくる。心を決めて、ウェル様と向かい合う。
「ウェル様・・・私は、この国を解放したいんです。そして妖精を自由にしてあげたい。そのためには、最初の契約を・・・」
「クリス、それなら僕にお願いするといい。木がなんでも叶えてあげる」
私はその言葉に首を振った。
それじゃ、だめ・・・
「ウェル様、私のお願いは見守っててほしいのです。私のせいで誰かを犠牲にしたくない。侍女や母も私を守ったせいで亡くなりました。お姉さまも、私の無事を祈り、思いをなくしました。今度は、私がみんなを守りたいんです」
それが私のわがままということは、わかっている。このままだと、誰かに守られて終わってしまう人生だ。私は私として決めたことをやりとげたい。
ウェル様は、頬にキスをして体を離した。
「クリスは、昔から変わらないね。クリスの実家には今日はここに泊まるように伝えておくよ。クリスの思うとおりにやってみなよ。でも・・・たとえ妖精と契約したとしても僕の気持ちは絶対に忘れないで」
「はい・・・絶対に忘れません。ウェル様も私のことをわすれないでくださいね」
私はウェル様に向かっておじぎをして、部屋を後にした。
さて、これからどうしよう。夜になるけど、先輩の安全だけは確認したい。
「ねぇ、パック。あなた、先輩やアクア達の居場所がわかる?」
「うーん、近くにいる気配はするんだけどね。お姉さんがここにいることを風に乗せて伝えてもいいかい?」
お願いすると、もにょもにょと呪文を唱えた途端に強い風が吹いた。
「知らせておいたから、今日は休もうよ~お姉さんの調子もよくなさそうだしね」




