クリステル=アディール 25
とても静かな森の中で、
お姫様だっこされながら歩かれるのは耐えられず
私は口を開いた。
「ライアー先輩の家族ってどんな人ですか?」
先輩がちらりと私をみた。
「手紙にも書いただろう。」
「手紙には、家族構成しか書いてありませんでした。母、父、弟しか…」
頬をぷくっと膨らますと、先輩はふぅっと息をはいた。
「母が出産時に危険な状態になり、そのまま母と弟は亡くなった。父は、母が亡くなったときにいなくなった。二人が亡くなったのが耐えられなかったんだろう。まぁ、父母と言っても、俺とは血は繋がっていないからな。俺は、攫われた子供なんだ。」
「えっ…どういうことですか?」
私はびっくりした。
先輩は、頭でコツンとつっついた。
「ほらな、そんな顔されるのが嫌だったんだ。この国で産まれたが、小さい時に隣国のやつに誘拐されたんだ。」
「そんな…!」
そんな騒ぐほどのことじゃないぞ。っと先輩は言う。
この国で誘拐は珍しくないことらしい。
誘拐後、同じ国出身の養母に出会い、育ててくれたらしいが、養母が亡くなって、本当の親を探しにこの国を訪ねることにしたという…。
「本当の両親は見つかりましたか?」
「ああ、でも俺のことは覚えてなかった。でもそのおかげで、ここに帰ってこれたのかもしれないな。どうせ、お前らがなんかしたんだろ?」
ライアー先輩は、パックを睨みつけた。
パックはびくっと体を震わすと、やれやれとしたポーズをとった。
「失礼しちゃうなぁ。僕ら妖精は、人の願いを叶えるだけなのに…。君の両親のことも覚えているよ。息子を助ける対価に、両親の大事な記憶をもらったからね。」
え…どういうこと?
「お前があのときの妖精か?」
パックは首を振った。
「それは、違う妖精だよぉ〜。妖精はね、願いを叶えた人の知識を共有できるんだよ。君は、両親の願いと引き換えに、この国まで辿りつけたし、この森の中を自由に動くことができる。普通の人だったら、この国にも入れず、森を永遠に彷徨ってしまうだろうさ。」
え、それって私だけだったらやばかったってこと…
情報が増えすぎて、頭がこんがらがっちゃうわ。
「つまり、妖精は対価さえ払えばなんでも聞いてくれるってこと?」
「うん、そうだよ〜!僕たち妖精は人間のことが大好きなんだ。対価さえいただければ、なんでも答えるよ!」
パックはくるくる踊りだした。
「おい、こいつに惑わされるなよ。お前が払える対価なんてないんだからな。」
「嘘つかないでほしいなぁ。お姉さんには、いろんな対価が見え隠れしている〜。もし、対価をくれるときは僕にいってほしいなぁ。僕がんばっちゃうからさ。」
私は、ひやりとした。妖精は、対価がみえると言っているのだ。
つまり、その人の大切なものがわかるのかしら…。
「ライアー先輩の話で、疑問に思ったことを聞いてもいいですか?」
「ああ、なんだ。」
「この国では、子供は100%安産で産まれるのに、どうして先輩の養母と弟さんは、亡くなってしまったのでしょうか。資料をもらっときにも思ったんですが…」
ふいに、ライアー先輩は、立ち止まって私を地面に下ろした。
「どうしたんですか?」
「おい、考えるのは後だ。サイレントベアの縄張りに入った。」
ライアー先輩の体が金色に光り、体から剣をぬいた。
剣先が、炎に包まれている。
「そろそろ、きちゃうよぉ~!話してて、気づくのが遅れたね?そこら中に、縄張りの証があったのにぃ~!」
パックが叫んだ。
周りを見ると、木には三本のひっかき傷があり、木の後ろになにかがいた。
のっそりとした大きな体格には、金と銀の毛がふさふさと生えている。
爪は、なにもかも引き裂けるぐらいに大きかった。
「これは、く、くま・・・!?」
呼んだ瞬間、すさまじい咆哮をあげた。




