after11
そして僕は辿り着く。
今僕が立つこの場所こそが、総合病院だ。
囲っていたはずの塀、崩れている建物や敷地の規模。
砕け散った看板から病院と思える文字が見えた。
間違いない。
僕は抑え切れない感情を吐き出すかのように、大声を張り上げた。
「唯ー!!僕だ、浩人だ!居たら…返事をしてくれ!!」
静まり返った一帯に声が響く。
だが返事がない。
聞こえるのは風の音だけだ。
遮蔽物のなくなった町。
風は我が物顔で吹きぬけて行く。
「唯ー!!僕だ…迎えに来たんだ!!」
崩れた病院跡を探して行く。
民家と違い病院は敷地の規模が違う。
近い場所に行かなければ気が付かないのかもしれない。
駐車場跡から庭先だった場所へ移動し、病棟らしき跡に辿り着く。
白かったであろう壁は崩壊し、中身であるコンクリートの灰色を曝け出していた。
鉄骨が剥き出しになり、瓦礫の積み重なった場所からは時折白いシーツなどが靡いている。
ここで間違いない。
「唯!僕だっ!浩人だ!居たら返事をしてくれ!!」
叫ぶ。
けれど返事がない。
思ったよりも風の音が大きく、聴こえないのかもしれない。
「くそっ…!」
叫べど叫べど返事は返って来なかった。
まさか、唯は…本当は実在していなかったとでも言うのだろうか?
不安と焦燥が僕の胸をざわめき立てる。
先輩があの世界で言っていた言葉が過ぎる。
唯は『ヒトならざるもの』なんじゃないかって…。
それでも僕は想像を振り払い、瓦礫の山に手を掛けて中を覗く。
白いシーツが見える場所は入院患者が居たはずの場所。
だが、見れど見れど瓦礫によって押し潰された無残な亡骸がそこにはあった。
「うっ…!」
その光景にまたも吐き気が催して来る。
まともに直視して平気な人間が居るはずもない。
鼻が麻痺しているはずだが、それでも亡骸に近づくと腐臭が強くその臭いにも耐え難いものがあった。
吐くのを寸前で我慢し、次の場所へと移す。
病棟は一つではないんだ。
必ず…必ず彼女は居る。
耳元で囁くように、風は音を奏でながら吹きぬけて行く。
それは僕に『諦めろ』とでも言っているようだった。
これは自分自身の弱さがそう思わせているんだろう。
…先輩の期待に応えるためにも、ここで気持ちを折るわけには行かない。
「唯!居たら返事をして欲しい!」
瓦礫の隙間を覗き込みながら僕は声を出し続けた。
やがて、敵と思われた風が希望を乗せて運んできた。
「…唯?どこだ!?」
声が聴こえる。風に乗って。
小さくて良く聴き取れないが、間違いなくそれは唯のものと思えた。
左側から聴こえた声を便りに、僕は小さな瓦礫の隙間を覗きこんだ。




