表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/112

after9


どうして…どうしてそんな事を言うんだ。

確かに望みは薄いかもしれない。

けど…先輩にはそんな諦めた台詞は言って欲しくなかった。

そんな言葉は聞きたくなかった。

弱さを見せるのはいいんだ…。

けれど目の前に迫る死を受け入れ、生きる希望を…捨ててしまう言葉なんて聞きたくなんてなかった。


「怖い…怖いさ…死ぬ事が怖くない…人間なんて…いねえ。けどな?…お前が…俺を…最期に強く…強くしてくれ…た。感謝…するよ、浩人…」


「そんな台詞…聞きたくないです!」


「俺は…一人じゃなかった。…こんなにも…頼れる友達が…いたんだ…って」


「…やめて…ください」


「俺は…死ぬわけじゃ…ない…。別の…世界に…飛ばされるんだ…。だから…そこで…他の連中に…自慢して…やるぜ?…浩人って…最高の親友が…居た…事を…」


「…そんな…こ…と…」


「俺は…笑って…やる…。…こんなくそったれな世界…てめえなんかに…絶望なんて…くれてやるかよ!」


先輩はむせながらも高らかに笑い声を上げた。

何度も、何度も。

悲しい事なんて最初から存在しなかったかのように。


「ごほっ…!」


無茶をしすぎたのか口から血を吐く。

それはもうドス黒く濁っていた。


「無理しないでください!!」


「へへっ…平気…さ。浩人…約束してくれ…」


「…約束?」


「お前は…生きろ。何があっても…生きろ。この…世界で…俺がいなくなっても…」


「そんな約束っ…!」


「お前が…俺の親友だって言うのなら…守れるよ…な?」


「先輩…」


「…な?」


無理して笑顔を作っているのも限界に近いのか、額からは多量の汗を流し、釣り上げている唇は震えている。

それでも先輩はその表情を崩さなかった。

…あなたは…本当に強い人だ。


「ずるいですよ。本当にずるい…」


「…約束…しろ」


「分かり…ました」


僕にはもう、そう答えることしか出来なかった。

先輩との最期の約束。

それは今、交わされた。


「分かってくれた…なら…もう行って…くれ。俺の事は構う…な」


涙で何も見えない。


「行け…!厚川が…待ってんだ!」


「は…い…」


僕は動かない足を奮い立たせ、背を向ける。

それが先輩の望みなのだから。


「…負けんな…よ?」


「はい!…先輩…も」


「…ああ」


僕は駆けた。

瓦礫や砂利で躓き転びそうになっても、踏み止まって前を向く。

涙で視界が閉ざされても、立ち止まらない。

自分の無残な姿を見せまいと、これが先輩の最期の優しさだったんだろう。

…僕もそうだったけど、先輩も不器用な…不器用な人だ。

さようなら…さようなら、瀬上先輩…。















浩人は去った。

俺は…このまま一人、絶望の世界で惨めに消えていくはずだった。

誰にも気付かれず誰にも看取られず、最期の瞬間まで一人だと思った。

これは…酬いだと思った。

けどあいつは…俺の事を覚えていて、駆けつけてくれた。

夢のような世界で出会った友達。

あれが現実で、本当の事だなんて夢のようだった。

こんないい加減で糞野郎の俺を覚えていて、親友と言ってくれたんだ。

嬉しかったよ、マジで。

家族や恋人だったさゆり、あいつに逢えなかったのは残念だけど、男と男の友情に浸ったまま消えて行くのも悪くはないよな?

きっと、またどこかで逢える。

どこからが夢でどこからが現実とか、そんなことどうでも良かったんだ。

俺は最期に人として一番大切なものに気付かせて貰った。

とびっきりの勇気も貰った。

そうさ…俺はこの世界で一人きりじゃなかったのだから。

もう、悲しくもないし、怖くなんてないぜ?


生きろよ浩人。

強く。強く!

こんなクソッタレになっちまった世界を見返してやれ。

生きて生きて…生き抜いてな。


…負けんなよ?お前なら…きっと出来る。

自分で思ってる…よりも、頭が切れるん…だ。

そして、お前は…誰よりも強い男だ。


じゃあな、親友…。


本当に、ありがとうな――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ