after9
どうして…どうしてそんな事を言うんだ。
確かに望みは薄いかもしれない。
けど…先輩にはそんな諦めた台詞は言って欲しくなかった。
そんな言葉は聞きたくなかった。
弱さを見せるのはいいんだ…。
けれど目の前に迫る死を受け入れ、生きる希望を…捨ててしまう言葉なんて聞きたくなんてなかった。
「怖い…怖いさ…死ぬ事が怖くない…人間なんて…いねえ。けどな?…お前が…俺を…最期に強く…強くしてくれ…た。感謝…するよ、浩人…」
「そんな台詞…聞きたくないです!」
「俺は…一人じゃなかった。…こんなにも…頼れる友達が…いたんだ…って」
「…やめて…ください」
「俺は…死ぬわけじゃ…ない…。別の…世界に…飛ばされるんだ…。だから…そこで…他の連中に…自慢して…やるぜ?…浩人って…最高の親友が…居た…事を…」
「…そんな…こ…と…」
「俺は…笑って…やる…。…こんなくそったれな世界…てめえなんかに…絶望なんて…くれてやるかよ!」
先輩はむせながらも高らかに笑い声を上げた。
何度も、何度も。
悲しい事なんて最初から存在しなかったかのように。
「ごほっ…!」
無茶をしすぎたのか口から血を吐く。
それはもうドス黒く濁っていた。
「無理しないでください!!」
「へへっ…平気…さ。浩人…約束してくれ…」
「…約束?」
「お前は…生きろ。何があっても…生きろ。この…世界で…俺がいなくなっても…」
「そんな約束っ…!」
「お前が…俺の親友だって言うのなら…守れるよ…な?」
「先輩…」
「…な?」
無理して笑顔を作っているのも限界に近いのか、額からは多量の汗を流し、釣り上げている唇は震えている。
それでも先輩はその表情を崩さなかった。
…あなたは…本当に強い人だ。
「ずるいですよ。本当にずるい…」
「…約束…しろ」
「分かり…ました」
僕にはもう、そう答えることしか出来なかった。
先輩との最期の約束。
それは今、交わされた。
「分かってくれた…なら…もう行って…くれ。俺の事は構う…な」
涙で何も見えない。
「行け…!厚川が…待ってんだ!」
「は…い…」
僕は動かない足を奮い立たせ、背を向ける。
それが先輩の望みなのだから。
「…負けんな…よ?」
「はい!…先輩…も」
「…ああ」
僕は駆けた。
瓦礫や砂利で躓き転びそうになっても、踏み止まって前を向く。
涙で視界が閉ざされても、立ち止まらない。
自分の無残な姿を見せまいと、これが先輩の最期の優しさだったんだろう。
…僕もそうだったけど、先輩も不器用な…不器用な人だ。
さようなら…さようなら、瀬上先輩…。
浩人は去った。
俺は…このまま一人、絶望の世界で惨めに消えていくはずだった。
誰にも気付かれず誰にも看取られず、最期の瞬間まで一人だと思った。
これは…酬いだと思った。
けどあいつは…俺の事を覚えていて、駆けつけてくれた。
夢のような世界で出会った友達。
あれが現実で、本当の事だなんて夢のようだった。
こんないい加減で糞野郎の俺を覚えていて、親友と言ってくれたんだ。
嬉しかったよ、マジで。
家族や恋人だったさゆり、あいつに逢えなかったのは残念だけど、男と男の友情に浸ったまま消えて行くのも悪くはないよな?
きっと、またどこかで逢える。
どこからが夢でどこからが現実とか、そんなことどうでも良かったんだ。
俺は最期に人として一番大切なものに気付かせて貰った。
とびっきりの勇気も貰った。
そうさ…俺はこの世界で一人きりじゃなかったのだから。
もう、悲しくもないし、怖くなんてないぜ?
生きろよ浩人。
強く。強く!
こんなクソッタレになっちまった世界を見返してやれ。
生きて生きて…生き抜いてな。
…負けんなよ?お前なら…きっと出来る。
自分で思ってる…よりも、頭が切れるん…だ。
そして、お前は…誰よりも強い男だ。
じゃあな、親友…。
本当に、ありがとうな――。




