after8
「俺は…俺は…最期まで…みっとも…ねえ…な。この…くそったれな…木材のせい…でよ、アバラも…折れて…痛みで…身を捩る…事さえ出来…ねえ。…死にたくねえ…よ…だから…泣けち…まうんだ…怖くて…怖くて…ぐぅっ!」
お腹を圧迫している部分が痛むのだろう。
目を背けたくなる程、先輩の顔には苦痛の色が浮かんでいた。
「…浩人…行ってくれ…。こんな…情けねえ…顔…見られたく…ねえよ」
「そんな事…ないです!先輩は…先輩は…ただ、最期まで…人間らしく生きて…生きてるんです!」
僕は無力だ。
自分一人では何も出来ない。
ただ、こうやって眺めている事しか出来ない…脆弱で、頭も悪くて…どうしようもない…ちっぽけな存在なんだ。
「…くそぉ…何で…だよ…。何でこんなにも…理不尽なんだ…よぉ…」
手助けしてくれる人も、この状況を救ってくれる人もいない。
今在るのは僕と先輩だけがこの場で佇む現実、ただそれだけだ。
「先輩は…僕の…かけがえのない友達…親友です」
「…え?」
「先輩が居てくれたから…あの世界でも、僕は僕らしく居続けられた」
理不尽だよ。誰がとか何故とか、この世界にだって理不尽な事なんて山ほどある。
「先輩は…決してちっぽけな存在でも、そして情けなくもないです!…僕なんかよりもずっと…本物の人間らしかった」
弱さを曝け出す事も、思ったままに感情を出せる事も。
いつだって自分に正直だった。
それは僕にはないもの。真似したくても出来ないもの。
誰よりも…潔くて凄い人でした。
だから自分を卑下しないでください。
「僕のほうが…よっぽど…情けなくて…臆病で…そして…駄目な人間です…」
もう何を口にしているのか自分でも分からない。
視界は霞み、何を視ているのかさえ分からない。
「今の先輩を…誰かが情けねえ!だとか言うやつが居たら…僕がそいつらを…ぶん殴ってやる!!」
「…ひろ…と…」
「僕だけが知ってる…僕だけが分かってる先輩は…いつでも強くて、頼りになって…時には熱くなるけど、それでも誰よりも人間らしい人だ!」
僕はその場に手を突いた。
地に群れる瓦礫に水滴が幾つも染み込んで行く。
何でだよ…何でこんなにも…悲しい事ばかりなんだよ!
憎い…この現実を創りやがった奴が!
どうしようもない世界にしやがった奴が!
気丈なはずの先輩をこんなにも脆くしやがった奴が!
「先輩を…笑うやつは…貶すやつは…絶対に許さない…!」
手立てが見つからない。
このまま指を咥えている事しか出来ない自分に腹が立った。
手の届く場所で…先輩は助けを求めているというのに。
「さん…きゅー…な」
「…せ…んぱい?」
息が荒い。
けれど先輩は唇を一度強く噛み締めて、柔らかな表情を作った。
「…お前は俺の…かけがえのない…親友だ」
「先輩…!」
「…厚川は…無事なんだろ…。行ってやれ…お前を…待ってるはず…だ」
「いっ…嫌です!先輩も…一緒ですよ!だって唯と約束したんだ…。先輩との仲を取り持って欲しいって…仲直りしたいからって!」
「あいつは…あんな事をした…俺を…赦そうとして…くれたのか」
どこか吹っ切れたように、先輩は笑顔を作った。
「そうですよ…だから…だから…唯とまた話を…!」
「あいつに…伝えてくれ。…すまなかった…と」
「先輩っ!!」
「あのとき…山下さんが言って…いた意味が…今なら分か…る。自分の…体の事は…自分が一番…分かるんだ…よ」
「そんな…」
「例え俺…がこの場から…助かっても、治療は受け…られない。…そうだろ」




