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四日目-36
――暗い。
池の中はただ暗かった。
水温は感じない。やはり呼吸も必要なかった。
最初は冷たいと思っていたけど、その感覚もすぐに消えてなくなる。
顔を近づけなければ唯の表情を窺う事もままならない状態だった。
僕らはただ重力だけに従うかのように沈んで行く。
(ははは…生きようと潜っているのに、これじゃ無理心中してるみたいだよ)
内心恐怖感が芽生え、そんな事をふと想像してしまう。
けど繋いだままの手に力が籠められ、僕は安心を得る。
(唯…そうだね。君がいるから…怖くない!)
やがて見えてくる…見えざるものが。
池の底など知らない僕らの前に立ちはだかる闇。
ついにそこに到達した。
もう、後戻りは出来ない。
(唯、絶対…絶対迎えに行くから!)
僕は決意してその奥へと自ら堕ちて行った――。
風が吹く。
妙に懐かしい音だ。
何故かこの肌を撫でる感覚は久しいものに感じていた。
「はー…はー。…はは…は」
呼吸が荒い。
自分の吐息が熱いのが良く分かる。
苦しいな…。
けど俺は、笑っていた。
小さく開いた穴から覗き見える、今にも堕ちて来そうな空を見上げたまま。
「…これは…悪夢だ」
再び笑った。
この狂った世界で。
手を伸ばせばそれを掴んでくれる者もいない。
だが皮肉にも、その手を伸ばす事すらこの世界では許されなかった。




